暗部の一夏君   作:猫林13世

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抜け駆けは難しい環境ですからね


姉の乱入

 思いのほか白熱した訓練を終えて、本音たちはシャワーを浴びていた。

 

「いや~、美紀ちゃんの本気は捌くのが大変だったよ~。何発か当たっちゃったし」

 

「本音の方こそ、普段のんびりしてるのにあんな動きしてくるなんて。普段からしっかりしたら?」

 

「香澄は未来予知が出来るから相手するのが大変だったわよ」

 

「未来が見えても動きが鈍いですからね……もっと精進しなければいけませんね」

 

 

 結局一対一のような戦いになってしまったが、誰一人大ダメージを負わなかったのは、一応訓練だという事が頭の片隅にあったからだろう。

 

「それにしても、相変わらず大きいわね、本音は」

 

「ほえ? シズシズは何処を見てるのかな~?」

 

「別に私だって小さいわけじゃないんだけど、本音や更識先輩の前じゃ霞むわよね……」

 

「大きくても邪魔なだけなんだけどね~。でも、その事をかんちゃんの前で言ったら殺されそうになったんだけど、何でだと思う?」

 

「本音、簪ちゃんが気にしてるの知ってるくせに……」

 

「美紀ちゃんだって十分大きいし、おね~ちゃんとかんちゃんは小さいからね~。マドマドよりも小さいんじゃないかな~?」

 

「それ、絶対に本人の前で言わない方が良いわよ」

 

 

 一つ年下とはいえ、マドカはあの織斑姉妹の血縁であり、将来性を十分秘めている。そんなことを簪の前で言ったものなら、次の日の朝日を拝めるかどうか不安になる結末が待っていることは本音以外の三人は理解していた。

 

「良く聞くのは、男の人は意外と大きさは気にしないって事ですが、実際どうなのでしょう?」

 

「どうなのかと聞かれても、IS学園の男子は一人しかいないし、一夏君はあまり気にして無さそうだし」

 

「確かに一夏さんは気にしてませんね。もし気にする人でしたら、刀奈お姉ちゃんの誘惑に負けてしまっててもおかしくありませんし」

 

「刀奈様、遠慮なくくっつけるからね~」

 

「義姉弟なのよね? 見た目一夏君の方がお義兄さんっぽいけど」

 

「刀奈お姉ちゃんが学年上だということは静寐さんも知っていますよね? それが答えです」

 

「でもさ、マドカさんやマナカさんみたいな特例もあるわけだし、更識先輩もその特例なのかもとは思うわよ」

 

「簪ちゃんが普通に高校一年生なんですから、その姉である刀奈お姉ちゃんが年上であるという事実は揺るぎのないものだと思うのですが」

 

 

 背が低く、精神年齢も低そうな刀奈の年齢を疑う気持ちは、美紀にも分からなくはないが、間違いなく刀奈は年上であり、一夏の義姉であるのだ。

 

「まぁ、確実に言える事は、刀奈様は子供っぽいって事だよね~」

 

「本音さんには言われたくないと思いますが……」

 

 

 香澄のツッコミに、美紀も静寐も頷いて同意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体調不良とはいえ、高熱があるわけでもなかった一夏は、食堂に行き簪の分と自分の分のお米を分けてもらい、自室でおかゆを作ったのだった。

 

「簪、食欲あるか?」

 

「朝よりはだいぶ楽かな……でも、まだちょっと怠いかも」

 

「一日で治るような熱じゃなかったしな。まぁ楽になったのなら良かったが」

 

 

 起き上がろうとした簪を手で制し、一夏はレンゲを簪の口元に近づける。

 

「熱いから冷まして食べろよ」

 

「一夏が冷ましてよ」

 

「それくらい出来るだろ?」

 

「ダメ? お義兄ちゃん?」

 

「……誰に入れ知恵された」

 

「別に誰でもないよ。それに、一夏が私のお義兄ちゃんなのは事実だし、少しくらい甘えたっていいでしょ?」

 

「昨日から随分と甘えっ子になったな、簪は……」

 

 

 下手に抵抗して簪の体調不良を悪化させては悪いと判断し、一夏は簪の口元に近づけていたレンゲを自分の口元に運び、冷ましてから再び簪の口元へ運ぶ。

 

「ほら」

 

「うん……美味しい」

 

「味が分かってきたという事は、だいぶ回復はしてるんだろう」

 

「一夏が作ってくれるものは全部美味しいから、味が分からなくても感想は言えるよ?」

 

「いや、それじゃあ意味がないだろ……」

 

 

 もう一口と思ったその時、一夏は扉の向こうに誰かいる事に気付き、足音を立てずに扉へ近づき、一気に開け放った。

 

「うわぁ!?」

 

「何か御用ですか、刀奈さん」

 

「あ、あはは……何時から気づいてたの?」

 

「扉の前に立った時からです」

 

「近づくことは出来ても、聞き耳を立てる事は出来なかったな~……それにしても、随分と甘えてるみたいね、簪ちゃん?」

 

「普段はお姉ちゃんが一夏に甘えてるんだし、これくらいいいでしょ?」

 

「私だって一夏君に『あーん』してもらいたい!」

 

「ど、何処から見てたの!?」

 

「この学園には一夏君のストーカーがいるのよ? それくらいお見通しだって」

 

「マナカか……」

 

 

 別に恥ずかしい事をしていたわけではないので、一夏は全く動じなかったが、簪は熱とは別の理由で真っ赤になっていた。

 

「甘えん坊な簪ちゃんは可愛いわね~。お姉ちゃんに甘えてもいいのよ?」

 

「遠慮しておく。私は一夏に甘えたいんだもん」

 

「簪ちゃんばっかりズルい! 一夏君、私も看病してほしいな」

 

「刀奈さんは健康体でしょうが……」

 

「お姉ちゃん、何とかは風邪をひかないんだよ?」

 

「私バカじゃないもん!」

 

 

 刀奈の乱入で騒がしくなったが、一夏も簪も少し楽になれた気がしたのだった。




更には宇宙規模のストーかーや、最強のブラコン姉妹もいる始末……

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