専用機持ちは実習中に訓練を済ませてしまおうという本音の提案で、美紀、静寐、香澄の四人は隣のアリーナで訓練をすることにした。
「セッシーたちがいればもう少しバリエーション豊かな訓練が出来たのにね~」
「一夏君のお見舞いに行こうとしたんだろうけど、何でこっそりと忍び込もうとしたのかしら? 簪さんも一緒にいるんだから、普通にお見舞いに行けば許されたと思うんだけど」
「いや、織斑姉妹の事ですから、一夏さんに近づこうとしただけで有罪だと言いかねません」
「そんな人たちなの?」
「カスミンはまだ織斑姉妹に幻想を抱いてるんだね~」
「織斑姉妹と言えば……マドカやマナカは誘わなくて良かったの?」
静寐の問いかけに、本音は首を傾げた。
「マナマナはクラスに溶け込むために向こうにいた方が良いし、マドマドはマナマナがクラスに溶け込みやすいように一緒にいた方が良いと思ったけど、こっちに呼んだ方が良かった~?」
「いえ……本音も色々考えてるのね」
「いえ、先ほど一夏さんからメールが着ましたので、その通りに動いてるだけです」
「あっ、やっぱりそうなんだ」
一瞬でも本音の事を凄いと感じてしまった自分を恥ずかしく思いながら、静寐は何食わぬ顔で訓練内容を確認し始める。
「私と美紀、本音と香澄のペア戦をするのね?」
「おー、カスミンと一緒ならどこから攻撃されても大丈夫だ~!」
「本音、自分の身は自分で守らないと駄目でしょ」
「私だって、自分の事で精一杯ですし、美紀さんは代表候補生ですから……私が対処出来るか分かりませんよ」
「むー……せっかく楽が出来ると思ったのに~」
「訓練で楽をしようとしないの」
静寐に軽くチョップされ、本音は笑顔で反省の弁を述べた。
「ごめんなさ~い……でも、簪ちゃんや刀奈さん相手より楽が出来るかもね」
「むっ、私だって楽をさせるつもりは無い。香澄さん、本音の相手は私がするから、貴女は静寐と戦っててくださいね」
「それじゃあ一対一の訓練になるわよ?」
刀奈は兎も角、簪にライバル心を持っている美紀が、本音の言葉にカチンときたようで、二対二の訓練だという前提条件を無視し始めた事に、静寐がツッコミを入れる。だがそれでも自分が本音を相手にしなくていいという事なので、美紀がそれで構わないというなら、静寐も一向にそれで構わないと思っていたのだった。
「周りを意識しながらも、本音と戦うから大丈夫」
「まぁ、美紀がそれでいいなら構わないけどね……香澄もそれでいいかしら?」
「私じゃ美紀さんを止められないし、今のは本音が悪いとも思うから……」
「じゃあ、そう言う事で」
突如変則的な訓練になったが、二人からすれば強さの次元が違う相手をしなくていいので、内心ホッとしたのだった。
無人機から送られてくる映像を見て、一夏は思わず苦笑してしまった。
「どうかしたの?」
「いや、本音が不用意な事を言った所為で、美紀との結構本気なバトルに発展してな。本音も上手く対処してるようだが、美紀の実力が相当上がってるのを知らなかったようで追い詰められてるんだ。これを機に不用意な発言を控える事と、もう少し真面目に訓練する事を覚えてくれればいいんだが」
「一夏、なんだか本音のお父さんみたい」
「同い年なんだが……」
「知ってるよ。でも、一夏ってお父さんっぽい雰囲気があるから……言動はお母さんっぽいけどね」
「どっちだよ……てか、どっちでもないっての」
「一夏となら、幸せな家庭が築けそうだなって事だよ。卒業したら、私たちを幸せにしてくれるでしょ?」
「………」
風邪をひいているからなのか、何時もより積極的な簪に戸惑いを感じ、一夏は簪から視線を逸らせた。
「照れてるの?」
「俺だって一応照れたりするさ……」
「私は別に、平等に愛してほしいとは言わない。一夏にだって私たちの中にだって順位はつけてるでしょ?」
「……別に」
「その反応、やっぱりつけてるんだ」
「何でそうなる……」
「女の勘だよ、一夏。それで、一夏の中で一番は誰? やっぱりお姉ちゃん? それとも虚さん?」
こうなると答えなければ大人しくならないと判断した一夏は、大きなため息を一つ吐いてから簪に向き直った。
「あくまでも現段階でだが、一番一緒にいて楽なのは美紀だな。部屋が一緒だって事も大きいが、凄く自然体で側にいてくれるから」
「そっか、それじゃあ二番目は?」
「……全部答えなきゃいけないのか?」
「せめて三番目までは答えてもらう」
「はぁ……二番目は簪、三番目は碧さん、以上」
「い、意外な結果だった……てっきりお姉ちゃんや虚さんの方が上だと思ってたから」
「虚さんは色恋という感じより仕事仲間って印象が強いからな……もちろん、好きではいるんだが」
「お姉ちゃんは?」
「……妹みたいな感じがしてる」
「手がかかるもんね……本音と同レベルって感じ?」
「そこまでは言わないが……マドカやマナカを相手にしてる時と似たような感覚だという事は否定しない」
「そっか……私が二番なんだ……」
急に恥ずかしくなったのか、簪は布団をかぶって真っ赤になった顔を隠そうとしたが、一夏にはお見通しなのだった。
部屋が一緒というのは強いですよね……