暗部の一夏君   作:猫林13世

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多いですね……


悩みの種

 HRの時間が近づいても教室にやってこない一夏を心配した織斑姉妹(双子妹)は、心配で吐きそうなくらいの精神状態になっていた。

 

「兄さま、何かあったのでしょうか……」

 

「お兄ちゃんの事だから、私たちに黙ってどこかに行くなんてないと思うけど……」

 

「あれ? 織斑さんたち聞いてないの? 一夏君なら、体調不良の更識さんの看病と、自分自身も若干の体調不良で今日は休むらしいわよ」

 

「何故鷹月さんに連絡が行っているのに、妹である私たちには連絡が無かったのでしょうか……」

 

「単純に、クラスが暴走しかけたら私に処理させるためよ……こんな時だけ頼られてもね……」

 

 

 遠い目をする静寐に、マドカもマナカもなんて声を掛ければいいのかに戸惑った。

 

「まぁ、一夏君も万全な状態じゃないし、休むのも仕方ないと思うくらい事後処理とかがあったみたいだからね。今日くらい頑張るけど」

 

「美紀は聞いてたの?」

 

「簪ちゃんが体調不良だという事は知っていましたが、一夏さんまでもとは聞いていませんでした。ですが、休むという事は伺っていましたよ。恐らくですが、お二人にも連絡は行っているはずですが」

 

 

 美紀に指摘され、二人は携帯を机の奥深くから取り出し、メールの確認をする。

 

「マナカさんもマドカさんも、何故携帯を携帯していないのですか……」

 

「昨日忘れてしまいまして……」

 

「殆ど鳴らないしね……てか、あの二人からのメールの量が恐ろしくて、携帯したくないのよ……」

 

 

 姉二人からの溺愛メールの量が多すぎて、マナカは若干携帯恐怖症に陥っている。二人が一夏からのメールを確認して、静寐に向けていた嫉妬の視線は漸く収まったのだった。

 

「それにしても、あのお兄ちゃんが体調不良とはね……諸々片付いて気が抜けたのかな」

 

「兄さまは気を張り詰め過ぎていましたから、少し休むのは良い事だと思いますけど」

 

「何々~? いっちーがどうかしたの?」

 

「……アンタもお兄ちゃんの疲労の一員だと思うわよ」

 

「ほえ?」

 

 

 能天気な本音に、さすがのマナカも毒気を抜かれため息を吐いた。何故自分を見てため息を吐いたのかが分からない本音は、マナカに必要以上にくっつき、質問を続けた。

 

「ね~ね~、何で私がいっちーの疲労の原因なの~?」

 

「その能天気さが、お兄ちゃんを悩ませていると分からないの?」

 

「いっちーは優しいから、そんな事では怒らないし悩まないと思うけどな~。それに、最近までいっちーの悩みの種筆頭だったマナマナには言われたくないな~」

 

「うぐっ!」

 

 

 見事なカウンターを喰らい、マナカはその場で崩れ去った。

 

「HRを始めたいので、皆さん席に着いてください」

 

「あっ、まややだ」

 

「今日はまーやなんだ」

 

 

 クラスメイトも、HR担当が真耶だと分かると気が緩んだのか、何時もの緊張感は何処にもなく、本音たちもゆっくりと席に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半ば無理矢理休まされることになった一夏は、端末から世界情勢や緊急の案件がないかのチェックをしていた。

 

「一夏、今は休まないと」

 

「俺は別に簪みたいに高熱があるわけじゃないし、大事を取っての休みだからな。学生としては休めても、企業のトップとしては早々休んでられないだろ」

 

「一夏がトップだって知られちゃったからね……まぁ、尊さんが代理を務めてくれてるから、学園に押しかけて来るような人はいないけど」

 

「そんなヤツがいれば、その企業との取引は止められるんだがな」

 

 

 実際そんな人間がいる企業と取引をすることは無く、事前の調査である程度駄目そうな企業は篩い落としているのだ。そういう仕事も一夏が担当していたので、学生とは思えないタイムスケジュールだったのだ。

 

「今は別の意味で忙しそうだしね」

 

「篠ノ之の件で無茶したからな……何であいつの尻拭いをしたんだろうって、今は思ってる」

 

「ISを使えばそれなりに戦力になるんだし、荒れ地の開拓とかそういった力仕事に使えるからでしょ? 篠ノ之さんなら、誰もいない荒野でも生きていけそうだし……もちろん、水や食料は必要だけど」

 

「まぁ、柳韻さんからの報告だと、更生は難しそうだがな……」

 

 

 柳韻から送られてきたメールを簪に見せ、一夏は深々とため息を吐いた。

 

「自分がしてきたことを箇条書きしてるのに、何で自分のことだって分からないの、この人は……」

 

「やっぱり束さんに頼んで解剖してもらうか……だが、解剖して元に戻るかどうか分からないからな、あの人の場合は……」

 

「マッド的思考が働くって事?」

 

「いや、恐らく面白半分だと思うが……」

 

 

 束なら十分あり得ると、簪も重々承知しているので、一夏が心配し過ぎだとは思わなかった。むしろ心配する必要は無いのではないかとすら思っている。

 

「ねぇ一夏」

 

「ん?」

 

「一夏は篠ノ之さんをどうしたいの?」

 

「使えるものは何でも使う、それだけだ。使えないと判断すれば、容赦なく片づけるけどな」

 

「何だか暗部の人間みたいだね」

 

「一応当主だからな……せめてもの情けで、その時が来たら俺が手を下してやるか」

 

「一夏がやらなくても、やりたい人は大勢いそうだけどね」

 

 

 それだけ恨まれているのだが、本人がその事を自覚していないのが問題なのだ。あのスコールやオータムでさえ、自分たちが悪い事をしてきたと自覚しているのに、箒にはその自覚がない、どころかこちらを悪だと決めつけている。反省の色無しと判断されれば、処分されると分かっていないのではないかとすら思う一夏だったのだ。




休んでても休めてない……

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