暗部の一夏君   作:猫林13世

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マドカはまだマシな方ですけどね……


織斑四姉妹の共通点

 罰として織斑姉妹と生活しなければいけないマナカは、今日も憂鬱な気分で寮長室を訪れる。部屋の中はいつも通り散らかっているのだが、片づけようとすればするほど、千冬や千夏では散らかしてしまう。かといってマナカが片づけようとしても、姉二人同様に散らかしてしまうのは目に見えているので、マナカはあの汚い部屋で食事をすることに慣れる事にしたのだった。

 

「いくら慣れてきたとはいえ、やっぱりあの空間は好きに慣れないな……やっぱり、お兄ちゃんがいないからが一番の原因なんだろうけども……」

 

 

 基本的な考えが変わったわけではないので、一夏がいないとマナカの機嫌はすこぶる悪い。だが今の状態では生身で織斑姉妹から逃げる事は出来ないので、我慢して付き合っているのだ。

 

「来たわよ」

 

 

 扉をノックして、嫌そうな声で中にいるであろう二人に呼びかけたが、返事がない。マナカは若干不審がりながらも、ゆっくりと扉を開け中の様子を窺い見た。

 

「あれ? あのゴミの山がきれいさっぱりなくなってる……いったい誰が」

 

「あっ、マナカが来た」

 

「マドカ……これはアンタが?」

 

「違います。私も貴女や姉さま同様に、片づけようとすればするほど散らかってしまいますので」

 

「じゃあ、いったい誰が……」

 

「ん? マナカか」

 

「お兄ちゃ……ん?」

 

 

 一夏の声がして嬉しそうな顔で振り返ったが、一夏の腕の中には大量の女性の下着や衣服が詰まった籠があり、マナカは一瞬身構えてしまった。

 

「あれは姉さまたちの衣服ですよ。極稀に、兄さまの気がのれば掃除や洗濯をしているんです」

 

「なるほど。お兄ちゃんが性に目覚めたのかと思っちゃった」

 

「万が一目覚めたとしても、姉さまたちのには走らないと思いますけどね。兄さまの周りには、綺麗な人が大勢いますから」

 

「おっ、一夏。掃除と洗濯をしてくれたのか」

 

「やっぱり一夏はお姉ちゃんたちの世話をしてくれるんだな!」

 

「何を勘違いしてるのか分かりませんが、異臭騒ぎの原因を突き止めていたらこの部屋にたどり着いただけです。今後マメに掃除や洗濯をしていなかった場合、強制的に寮長室から出て行ってもらいます」

 

 

 どうやら一夏は、生徒会に来た苦情の原因を探りに来たらしく、マドカはその付き添いだったようだ。

 

「まて一夏。私たちが寮長室から追い出されたら、何処で生活すればいいんだ?」

 

「実家でも近くの物件でも、好きなところに住めばいいじゃないですか」

 

「実家だと光熱費やら色々かかるだろうが! 部屋を借りればさらに家賃。そんな金があると思うな!」

 

「威張っていう事じゃないでしょうが! だいたい、IS学園の教師の給料は、一般企業に努めている同年代の人の給料よりも高いじゃないですか。それくらい十分あるでしょう」

 

「「それは……」」

 

「マドカ、簪に電話して、織斑姉妹の寮長解任と碧さんを新たな寮長にする手続きをしてもらってくれ」

 

 

 一夏の言葉に、織斑姉妹は慌ててマドカの携帯を取り上げ、一夏に懇願する。

 

「頼むからそれだけは止めてくれ!」

 

「これからは真面目に掃除や洗濯もするし、お酒も控える。だからそれだけは……」

 

「……では執行猶予という事で。むこう三ヵ月大人しく出来たら、寮長解任は止めてあげます。ただし三ヶ月間真面目に働かなかった場合は、すぐにでも碧さんを新しい寮長にしますのでそのつもりで」

 

「わ、分かった……努力する」

 

「俺は出来て当然の事しか言ってないんですが……努力するのなら、頑張ってください。それから、これ、洗濯しておいたので、干すなりして片づけてください」

 

「すまない、感謝する……」

 

 

 洗濯済みの衣服がたんまり入った籠を手渡し、一夏はマドカを連れて寮長室を後にしようとして、マドカに裾を掴まれた。

 

「せっかく来たんだし、お兄ちゃんも一緒にご飯食べようよ。ついでにマドカも」

 

「お誘いはありがたいが、まだ仕事が残ってるんだ。どっかの誰かさんたちの所為で、余計な事もしなきゃいけなかったからな」

 

「「面目次第もない……」」

 

「それに、これはマナカの罰だからな。織斑姉妹に弄られるのは、マナカ一人で十分だろ」

 

「お兄ちゃんって、かなりのドSだよね……」

 

「そんなつもりは無いんだが、よく言われる」

 

 

 自覚していないようで、一夏は不本意だと言わんばかりの表情で首を傾げる。その姿に、織斑四姉妹は苦笑いを浮かべた。

 

「一夏、私たちがいう事ではないかもしれないが……少しは自覚した方が良いぞ?」

 

「何を?」

 

「お前がドSだという事をだ。わたしたちに臆することなく物事言えるだけでもかなりだと思うが」

 

「貴女たちに臆する理由がありませんからね。まぁ、個人的に会いたくはないですけど」

 

「兄さま、まだ姉さまたちにトラウマを抱えているのですね」

 

「恐れより呆れが強いから平気だが、何時発動するか分かったもんじゃないからな」

 

「お兄ちゃん、可哀想……」

 

「気にするな。一人で会いに行こうなど思わないから」

 

 

 最後にマドカの頭を撫でてから、一夏はマドカを連れて生徒会室へと戻っていった。残されたマナカは、姉二人に蔑みの目を向け、向けられた二人は居心地悪そうに視線を逸らし、一夏が用意してくれた三人分の晩御飯を取り分ける事にしたのだった。




本当に一夏の血縁か疑いたくなるほどの家事無能だな……

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