暗部の一夏君   作:猫林13世

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もうそこまでいかなきゃふさわしい称号が無い……


大魔王

 朝から道場に連れてこられた箒は、柳韻相手になすすべなく叩きのめされていた。同年代で生身であれば負けない自信があった箒ではあるが、織斑姉妹ですら勝てないと言われている柳韻相手に、一撃も当てる事が叶わずに床に倒れ込んだのだった。

 

「何故ですか、父上……私は何も悪い事はしておりません」

 

「まだ言うか……お前ももう、分かっているのだろう? 悪いのはお前で、一夏君たちではないと」

 

「……そんなことはありません。悪いのは一夏の周りの人間で、私は本当の一夏を取り戻したいだけです」

 

「記憶を失ってしまったのは、一夏君にとっても不運だったかもしれない。だが、今の彼は実に幸せそうに見えるがね」

 

「仮初の幸せなど、長続きはしません。一夏は私と一緒にいる方が幸せになれるのですから」

 

 

 箒の勘違いに、柳韻はいよいよ頭痛を堪えきれなくなってきていた。心を砕き、己を省みさせてみたものの、一向に自分がしてきたことが理解出来ていないようなので、柳韻は責め方を変える事にした。

 

「今から己がしてきたことを紙に書きなさい。ただし、自分の名前や一夏君たちの名前は伏せるように」

 

「なんですか、いきなり」

 

 

 柳韻に言われたことが、イマイチ理解出来なかった箒ではあるが、言われるがまま自分が過去にしてきた事を紙に書き記していく。

 

「……何だこいつは。実に腹立たしい事をしているではないか」

 

 

 自分が書いている事を見て、箒は第三者目線になっていた。それが自分がしてきた所業であるという事は完全に失念しているようで、書かれている人物像を見て苛立ちさえ覚えていた。

 

「こんなやつは、死んだ方がましだろうな。何の価値もない」

 

 

 書かせておいてなんだが、柳韻はこんなことで箒が反省するとは思っていなかった。だが、予想外の反応に、どうすればいいのか若干悩んだが、後で思い出して反省してくれるなら、それでもいいかと思ったのだった。

 

「父上、この人間は死んだ方が良いと思います。ですので、探してきて私が始末してきてもよろしいでしょうか」

 

「探し出すも何も、それはすべてお前がしてきたことだぞ」

 

「何を言ってるんですか? 私はこんな事してませんよ」

 

「……本気で束に解剖を頼みたくなる頭の作りをしてるんだな、お前は」

 

 

 あくまで自分の事だと認めない箒を見て、柳韻はそんなことを思ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マナカもだいぶクラスに馴染んだのか、初日に囲まれて一夏に助けを求めたのがウソのように普通に話している。

 

「お兄ちゃんとしては、嬉しいのかしら?」

 

「まぁ、若干引き篭もりだったマナカが、ああして友達を作って話してるのは嬉しい」

 

「引き篭もりって表現でいいの? 一歩間違えてたら大惨事だったんでしょ?」

 

「その一歩を間違えなかったんだから、問題ないだろ」

 

「そう言い切るのもどうなのかしらね……香澄はどう思う?」

 

「えっ? ……一夏さんが良いと言えば、世界はそれで納得するんじゃないかな」

 

「まぁ、ある意味世界の王ともいえるからね、今の一夏君は」

 

 

 香澄の答えに、静寐はため息交じりにそう呟く。世界中に支社を持つ更識企業のトップであり、全更識所属のIS操縦者に好かれている一夏が命じれば、国の一つや二つ、あっという間に消滅する。そして、一夏は使わないだろうが、織斑姉妹や篠ノ之束という切り札も持っているので、逆らう人間は殆どいないのだ。

 

「何だか一夏、悪の大魔王みたいだね」

 

「なんだその大魔王ってのは……」

 

「えっとね、昔やったゲームで、世界の半分をやるから仲間になれって魔王がいたんだけど、一夏ならそれが出来るんじゃないかなって」

 

「いや、そもそも手に入れてないし」

 

 

 一夏としては、世界征服をしたわけでもないのにそう思われているのが不服なのだが、シャルは面白そうに話を続ける。

 

「一夏に逆らえばその国のIS産業は終わるわけだし、あながち間違ってないでしょ?」

 

「別に終わりはしないさ。優秀な人材を引き抜けるだけ引き抜いて、発展するのを遅らせるくらいだ」

 

「それイコール終わりだと思うけどね……開発戦争から遅れるってのは、その国にとって死みたいなものだから」

 

「そうなのか?」

 

「私に聞かれても……一夏君、本当にIS企業のトップなの?」

 

「遅れた事無いから分からん」

 

「あぁ、そう言う事ね……」

 

 

 妙に納得した静寐は、シャルの言っていた事を考えて、そして事実なのだろうと解釈した。

 

「ところで一夏君、例のトーナメントの準備は終わったの?」

 

「ルールは明日の朝発表になる。それで最終参加表明をした人で対戦を組んでいこうと思ってる」

 

「その組み合わせは、どうやって決めるのか気になりますわね」

 

「コンピューターに参加者のデータを打ち込み、当日にランダムで対戦相手を決めるつもりだ。もちろん、専用機持ちとそうでない人は分けるがな」

 

「そのプログラムは誰が作ったの?」

 

「ん? 俺とマナカの合作だが」

 

「お兄ちゃんが私を呼んだ気がして!」

 

 

 名前を呼ばれたのがうれしかったのか、マナカが人垣から一瞬にして一夏の目の前に現れ、そして体中にダメージを負う。まだ完治してないのだから無茶な動きは自分を苦しめるだけだと再認識したマナカは、涙目になりながらも一夏に頭を撫でてもらっていたのだった。




あれはⅠだっけか……

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