何度も一夏ではなく自分が悪かったのではという結論にたどり着いては頭を振り、また同じような結論にたどり着いては否定してを繰り返し一日が終わった箒は、自分に宛がわれた部屋で横になりまた考え出す。
「何故一夏が悪くないという結論になってしまうのだ……どう考えてもアイツが悪く、私が正しかったはずなのに」
その考えが間違っているという事に思い至らない以上、どう考えても結論など出ないのだが、生憎それを指摘してくれる人はいなかった。
「もう一度最初から考え直してみるか……まず、一夏が私の事を好きなのは間違いないとして……記憶を失ってしまった一夏を、更識家が洗脳し私の一夏を奪った。これは紛れもない事実だ、誰に聞いてもそう答えるだろう」
盛大な勘違いなのだが、彼女の中ではそれが事実であるという確信めいた何かがあるようで、誰が指摘してもこの前提条件を覆すことは出来ない。
「小学五年の頃に転校し、IS学園で運命的な再会を果たしたというのに、一夏の周りには邪魔者が多く、私との逢瀬の邪魔をし、挙句の果てには私が悪いと一夏に刷り込ませ私と一夏が接触するのを邪魔した。その後臨海学校の時と私の誕生日が重なり、一夏が自分をプレゼントとして用意していたのも疑う余地はない。だが何時まで待っても一夏は私の部屋には来ず、そして翌日になりアメリカ軍が暴走させたISを停めるべく出撃した隙を突かれ、私が亡国機業に所属する事になった。この考えで行くと、私が亡国機業でしてきたことは、IS学園の警備力の低さが原因という事ではないか! やはり私が責められるいわれはないぞ!」
いっそ賞賛すら送りたくなるほどの勘違いだが、これですべてではないのが彼女の凄いところである。
「そして独立派とかいう雑魚集団から移籍し、私は過激派と称されていた一夏の妹を名乗るマナカと行動を共にし、ゴミである穏健派の人間どもを掃除した。うん、褒められこそすれ責められることは何一つないな」
あくまでも正義の名の下に罰を下したと信じている箒は、自分がしてきたことが殺人であると思っていない。束や織斑姉妹、一夏や柳韻に言われても、それだけは信じようとしなかった。
「では何で私はこんな目に遭っているんだ? 姉さんや千冬さん、千夏さん、一夏や父上が言うには、私は世界中の国から指名手配され、身柄を引き渡せば即刻死刑だという……それを避けるために、一夏が父上を探し出し、二ヶ月間の間に私を改心させ、数十年の奉仕活動をさせるというではないか……さすがの一夏も、全世界の人間を同時に催眠に掛ける事は出来ないだろうし……だが、そうなると正しいのはヤツらで、間違っていたのが私という構図が成り立ってしまうのだ……そんなことあるはずないというのに……」
堂々巡りの思考に、箒は頭を振ってもう一度最初から考え直す。だが何度考え直しても、一夏が悪くないという結論に至るので、箒はその都度思考をリセットして、また最初から考え直すという行為を繰り返したのだった。
専用機を持っているかいないかの割り振りが済み、一夏たちは参加者の質を再確認していた。
「専用機が無い方では、やはり三年生が有利でしょうね」
「専用機を持っている人数で言えば、一年が圧倒的だけどね。普通に授業に出てきた分だけ、専用機が無ければ三年生が有利よそりゃ」
「目ぼしい人には、一夏さんが交渉して更識製の専用機を与えていますし、専用機持ちのトーナメントは、一年生有利で事が進むでしょうね」
「いやいや、サラ先輩やダリル先輩と言った実力者もいますし、サラ先輩の専用機であるセイレーンの単一仕様能力を破るのは厳しいと思いますよ」
「幻覚だって分かってても、あの光景を目の当たりにしたら怖いものね」
「周り全員が白骨化し、自分の顔も骸骨に見えるという恐怖ですから……頭で理解していても、視覚から来る恐怖は中々でしょうし」
「まぁ、発狂しない程度で止めさせますがね」
将来有望な操縦者が多いので、行き過ぎた攻撃は横槍を入れて止めると先に公言してあるのだ。サラも停められても文句を言えないように手を打ってある。
「その場合は、サラちゃんの勝ちになるのよね?」
「まぁ、そのまま続けていれば明らかにサラ先輩が有利ですし、そのまま選手生命を奪うことくらい出来ますからね、あの能力は」
「でも、サラさんなら攻撃して停める必要は無いのでは? ブザーを鳴らせばそれで終わるような気もしますが」
「……残念な事に、専用機持ちの方の審判は織斑姉妹が担当しますので、力づくで止めないと気が済まないようですよ」
「本当に残念ですね……」
本当に残念そうに思っている一夏の気持ちが十二分に伝わったのか、虚も刀奈も残念な気持ちになったのだった。
「それじゃあ、普通の子たちの方の審判は、誰が担当するの?」
「そっちは碧さんとナターシャさんが引き受けてくれました」
「逆の方が良いんじゃない?」
「いえ、あの駄姉たちが暴走しないとも限りませんので、専用機持ちの方がその暴走にも耐えられるでしょうし」
「あぁ、そっちもなのね……」
実に残念な二人だと、刀奈も虚も改めて思ったのだった。
織斑姉妹を持て余すこの頃……