暗部の一夏君   作:猫林13世

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箒がいないだけで穏やかな空気が……


朝の風景

 珍しく朝から教室に顔を出すと、クラスメイトたちは意外そうな顔を見せた。

 

「篠ノ之さんの問題が片付いたから、一夏君も普通に授業に参加するのかしら?」

 

「そう行けばいいんだがな……静寐もしばらくのんびり出来ると思うか?」

 

「どうかしらね? 今回の一件で色々と一夏君の秘密が明るみになったみたいだし」

 

「無駄な手間を省くためとはいえ、本当はもう少し後に発表するつもりだったんだが……」

 

 

 箒の処理を柳韻に任せるために、一夏は自分が更識の当主であると各国に宣言し、尊を間に挟まずに交渉したのだ。口外禁止と言ったとはいえ、全ての人間の口に蓋をすることは難しく、何処からか漏れて一夏が当主であることは世界中の人間に知られることになったのだった。

 

「まさか一夏君がね……次期当主だってことだったけど、何時当主の座に就いたのか気になるわね」

 

「そんなの、最初からに決まってるだろ……中学生が当主だと言えば、世界から舐められると思い尊さんに代理を任せていたんだ。だが、この一年で色々と問題があり過ぎて、尊さんに間に入ってもらってる時間がもったいないと思ったから、今回は首脳にだけ説明して時間短縮を図ったんだがな……」

 

「マスメディアの執念を甘くみちゃ駄目よ」

 

「首脳と会談してるというのに、何処から聞いてたんだか……」

 

 

 一夏がため息を吐くと、静寐は面白そうに笑いだす。

 

「とにかく、一夏君が当主だというなら、私たちは強力なコネを手に入れたって事よね? 就職の時はお世話になるかもしれないわよ」

 

「静寐や香澄なら十分使えるだろうから、こちらからお願いしたいくらいだがな」

 

「エイミィやサラ先輩なんかも狙ってるみたいだけど?」

 

「一応更識所属だからな……何かしらの部署で雇えるかもしれんが、関連企業の人事に介入は出来ないからな」

 

「大丈夫、本社狙いだから」

 

 

 あっさりと言い放った静寐に、一夏はもう一度ため息を吐いたのだった。

 

「なんならデュノア社で雇うよ? うちも優秀な人材は必要だろうしね」

 

「でも、デュノア社はフランスでしょ? 出来るなら日本の企業が良いのよね」

 

「うーん……でも、日本のIS企業に入社しようとしても、倍率は凄いんでしょ? いくらコネがあるとはいえ大変だよ? フランスの企業なら、それなりに余裕はあるし」

 

「他の人にも声は掛けているのか?」

 

「一応はね。フランスでなら、ダリル先輩やフォルテ先輩も雇えるかもしれないでしょ?」

 

「まぁ、あの人たちは更識傘下の企業で雇わなければならないだろうし、シャルが引き取ってくれるなら安心だがな」

 

「でも、一番は一夏が監視し続ける事じゃない?」

 

「俺はスコールやオータム、そして恐らく篠ノ之の監視があるからな……」

 

「大変だね、一夏も……」

 

 

 さらに問題児がいたことを失念していたシャルは、同情の眼差しを一夏に向けたのだった。

 

「ラウラはドイツ軍の再建を目指すのか?」

 

「この学園で学んだ事を軍再建に活かせればと思っています」

 

「それだったら、もう少し座学にも集中した方が良いぞ」

 

「分かってはいるのですが、私は所謂義務教育というものを受けていませんので、勉強は苦手なのです」

 

「セシリアはどうするんだ? 代表をずっと続けられるわけじゃないだろうし、第二の人生なんかは考えているのか?」

 

「今からは考えていませんが、出来る事なら一夏さんのお手伝いをしたいと思っていますわ。私がこうして次期代表に内定したのも、一夏さんのお陰ですので」

 

「セシリアになら、イギリスの傘下企業を任せられるかもしれないな」

 

 

 一夏が傘下の企業の一覧を眺めながら可能性のある企業をピックアップしていく。

 

「今からピックアップしなくても大丈夫ですわ。私はまず、モンド・グロッソ出場を目指さなければなりませんし」

 

「それを言うならラウラもだな。一応代表候補生なんだから」

 

「鈴やエイミィ、簪に美紀、そして更識先輩と切磋琢磨して強くなっていると自負していますし、並大抵の相手には負けない自信はあります」

 

「まぁ、確かにラウラやセシリアの成長は目を見張るものがあるからな。だが、これに満足せずに訓練は続けるように」

 

「はい、お兄ちゃん」

 

「だからお前が――」

 

「誰が誰のお兄ちゃんだって?」

 

 

 いつも通りのマドカの言葉を遮り、マナカがラウラに向けて鋭い眼差しを向けた。

 

「落ち着けマナカ。ラウラのこれは仕方ないんだから」

 

「だけどお兄ちゃん!」

 

「俺の本当の妹はマドカとマナカだけなんだから、そんなにムキになる必要は無いだろ」

 

「あの、お兄ちゃん……その千夏教官にそっくりな娘は?」

 

 

 本当ならまだ顔を出す場面ではなかったのだが、ついつい我慢できなかったマナカを、一夏はクラスメイトに紹介する事にした。

 

「俺のもう一人の妹、織斑家の末っ子に当たる四女、織斑マナカだ」

 

「HR前に教室に行くなんて、随分と学校が楽しみだったのですね、織斑さん」

 

「あれ? HRは千冬先生が担当するのでは?」

 

「溜まってる書類を片付ける為、HRは私が担当する事になりました」

 

「大変ですね、碧さんも」

 

 

 今日何度目かのため息を吐き、一夏はマナカを教壇の方へ向かわせ、自分たちは席へと着くのだった。




別の問題がありますからね……一夏の場合

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