柳韻が箒を引き取り、改心させると意気込んでいったのを見送り、一夏と美紀は、ホッと一息ついたのだった。
「これで問題解決になればいいですね」
「そうだな。抱えていた問題の大半は、篠ノ之の事だったし、これが片付けば平凡とはいかなくとも、学園生活を送ることが出来るだろう」
「一夏さん、入学してから今日まで、まともな学園生活を送ってませんからね」
「そうだったか?」
そもそもまともな学園生活とはどんなものなのか、一夏には見当がつかない。記憶を失ってからは、しばらく箒に付きまとわれ、中学に入学したころには、ISの研究などに時間を当てていたので、友達と遊んだりは最小限しか経験したことがない。そしてIS学園に入学してからは、怒涛の展開に振り回され、その解決に奔走していたら、今日まで経っていたという感じなのだ。
「刀奈お姉ちゃんの事ですから、何か計画してるかもしれませんよ」
「直近のイベントだと、もうクリスマスになるのか?」
「ハロウィンは間に合いませんしね」
「いや、あの人の事だから、既に用意してるかもしれん」
そもそもは盛り上がるイベントではないのだが、刀奈なら何でもありだろうと言う事は、二人の中で共通の認識なのだ。
「一夏さんがコスプレしたら、またマナカさんや篠ノ之博士に盗撮されちゃいますね」
「何で隠れる必要があるのか、さっぱりわからんのだが……写真を撮りたいなら、普通に撮ればいいものを」
昔ならともかく、束もマナカも気軽に一夏に話しかけられる状態にはあるのだから、写真くらい普通に撮ればいいというのが、一夏の考えだった。
「あの二人は盗撮する事に意味がある、とか言ってましたけどね」
「マナカもやっぱり織斑の系譜なんだな……マドカがいい子に育ってくれていて助かった」
「織斑と言えば、千冬先生と千夏先生のお給料はどうするんですか?」
「当分は二十パーセントカットでいいだろ。下手に金を渡すと、すぐに酒盛りするからな」
「そうですね。もう散らかされても掃除する人がいませんものね」
前はダリルやフォルテに掃除させることが出来たが、次はその手が使えない。かといって本人たちに掃除させようとしても、余計に散らかる未来しか見えないのだった。
「こんな事で久延毘古の能力を使いたくなかったがな……」
「一夏さんも、多少てこずりながらも未来視を使えるようになりましたからな」
「かなり疲れるけどな……」
香澄のデータを元に、一夏も未来視が使える武装を積み込んだのだが、やはり処理する情報が多すぎて疲労がたまりやすいのだ。
「いたいた、一夏君。来月なんだけど、中止になった文化祭をやってほしいって学長が」
「中止になったのは模擬戦だけだったような気がしますが……」
「だから、全校生徒に参加者を募って、トーナメント戦をやりたいんだってさ。現状の戦力を把握するのにもちょうどいいだろうからって」
「敵対勢力はもういないっていうのに、何で戦力を把握する必要があるんですか……」
「IS学園卒の国家代表が増えれば、入学者増が見込めるからって、経営的な問題らしいわよ」
「運営はこっちに丸投げなのに、ちゃっかりしてる」
すぐさま頭の中で計画が可能かどうかを精査し、一夏は簪に電話を掛ける。
「参加者募集のポスター、すぐに作れるか? こういうのは本音が得意だったから、本音に構図は任せれば良いから。そうだな……十枚ほどあれば足りるだろうし、貼る場所とかは黛先輩に頼めば、良い場所を教えてくれるだろうから」
手配を済ませた一夏は、細かなルールを決めるために刀奈を連れて虚の部屋へとやってきた。
「学長も急ですね……ハンディとかはどうするのでしょうか?」
「全校生徒参加可能だと言う事は、専用機持ちだろうが関係なく組み込むと言う事でしょうからね……一般の部と専用機持ちの部に分けた方が良いでしょうね」
「でもそれだと、アリーナを全部使っても一日で終わるかどうか……」
「参加人数が多い場合は、一試合を四人で戦わせればいいんですよ。そうすれば試合数も減りますし、ISを犯罪に使う集団が、これから先現れないとも分かりませんからね。多人数での戦闘にも慣れておく必要があるでしょう」
「今回は一夏君たちが事前に潰したからよかったけど、次も一夏君が現場にいるとも限らないもんね」
「亡国機業の一件で、更識は各国に傘下の企業を持つ事になりましたからね。代表である一夏さんが各国を飛び回る必要も出て来るでしょう」
具体的な話し合いをしているところに、碧から連絡が入った。
「何か問題でも起こりましたか?」
『オータムが模擬戦に乱入してきたんですが、止めた方が良いでしょうか?』
「行き過ぎない限りは、自由にさせて構いません。もちろん、怪我を負わせるような事をすれば、叩き潰して構いませんので」
『承知しました。それと、スコールも参加したげなのですが』
「手が空いてる人と戦わせて構いませんよ。実力者を相手に訓練すれば、自然と成長するでしょうし」
更識所属以外の候補生たちも、日に日に実力を伸ばしていると報告を受けているので、スコールとオータムを相手にしても、手酷くやられると言う事はないだろうと一夏は思っている。
「とりあえず後は参加者がどれくらいかによりますね」
「じゃあ、募集期間が終わったらまた話し合う感じで」
「お嬢様、生徒会の業務がまだ残っていますので、逃げ出そうとしないでくださいね」
「はい、分かってます……」
「俺も手伝いますよ」
久しぶりに生徒会の業務を手伝えると、一夏は苦笑いを浮かべながら、刀奈を引きずる虚の隣を歩き、生徒会室に向かったのだった。
それでも?が付いてしまうのが、一夏の不運なのでしょうね……