普段だらしない織斑姉妹が、ぴっちりとスーツを着て、何処か落ち着きのない態度で座っているのを見て、真耶は首を捻った。
「あの、更識君が探している人って、どういう人なんですか? 千冬さんや千夏さんはご存じなんですよね?」
真耶がそう尋ねると、千冬と千夏はそろって肩を跳ね、ぎこちない動作で真耶の方へ振り向いた。
「とても厳格な人で、私や千夏もよく怒られたものだ」
「あの人が親でありながら、何故あのような残念な娘に育ったのかが、わたしには分からない」
「とにかくだ、失礼のないようにしなければな」
「そんなに怖い人なんですか?」
真耶がそう問いかけたタイミングで、千冬と千夏は席を立ち正門へと向かい始めた。
「何処に行くんですか!? まだ仕事が残ってますよ~」
「それどころではない! 出迎えをしなかったとバレたら、後で何をされるか分からないからな」
「挨拶だけしたら戻る。だから見逃してくれ」
「やれやれ……真耶、ここは私がやっておくから、織斑姉妹が怯える相手を見てきたら?」
「小鳥遊先輩……はい、行ってきます」
碧に後を任せ、真耶も織斑姉妹同様正門へ向かう。よく見れば、更識所属の中でも、簪とそのメイドである本音以外は姿を見せていない。余程高位な相手なのだろうと、真耶はその相手が現れるのを待ち望んだ。
「山田先生まで、どうなさったんですか?」
「更識さん……いえ、織斑先生たちが職員室から急いで移動し始めたので、何事かと思いまして」
「そうですか。でも、すぐに分かると思いますよ」
「おね~ちゃんが来るべきじゃないの~? 何で私なの~?」
「虚さんは篠ノ之さんの監視で忙しいからでしょ。一夏とお姉ちゃんがいないんだから、代理は虚さんくらいしか出来ないんだし」
「かんちゃんだって出来るじゃんか~!」
「それだと、更識本家の人間が出迎えにいないでしょ」
どうやら更識家の人間でも、しっかりとしたもてなしが必要な相手であると、真耶は一夏が連れて来る相手がどんな人なのか想像がつかなくなってしまった。
「(あの更識家の人でも、わざわざ出迎えをするくらいの人って、いったいどんな人なのでしょうか……各国首脳ですら出迎える事はないと聞いてるんですけど……ましてやあの織斑姉妹ですら恐怖するなんて、どんな人外が現れるのか分かりませんね)」
そんなことを考えていると、千冬と千夏が一層背筋を伸ばし、直立不動の体制になっていた。どうやらいよいよお出ましのようだと、真耶は内心ワクワクしていたのだった。
「ご無沙汰しております、師匠」
「この度はわざわざご足労頂き、ありがとうございます」
「おお、千冬ちゃんに千夏ちゃんか。大きくなったね」
「お初にお目に掛かります、篠ノ之柳韻様。更識家次女、更識簪と申します」
「布仏本音です。貴方がシノノンのおと~さん?」
「本音っ!?」
実に馴れ馴れしい態度に、簪の顔が蒼褪める。よく見れば織斑姉妹の表情も強張っているが、馴れ馴れしく話しかけられた柳韻は、実に楽しそうな顔をしている。
「随分と面白いお嬢さんだね。一夏君の知り合いなんだろ?」
「一応幼馴染ということになっています。本音、後はこっちでやるから簪と二人で部屋に戻ってろ」
「了解だよ~! さぁかんちゃん! ゲームの続きをしよう」
「もう! 失礼します」
「ばいばーい!」
恥ずかしそうに一礼する簪と、無邪気に手を振って去っていった本音を見送り、刀奈が一夏の後ろで恥ずかしそうに身動ぎをしたのだった。
「いやはや、君の周りには素敵な女性が大勢いるようだね」
「お騒がせして、申し訳ありません」
「なに、久しくあのように気軽に話しかけて来る女の子などいなかったからな。年甲斐もなくうれしくなってしまったよ。それで、千冬ちゃんと千夏ちゃんは、しっかりと教師をやっているのかい?」
「は、はひぃ!」
「それでは、わたしたちは仕事が残っていますので、これで失礼しまひゅ!」
柳韻に視線を向けられ、慌てて職員室に戻る織斑姉妹。その姿をポカンと口を開けて見送った真耶だったが、自分も戻らなければいけないと思い出し、一夏に一礼して二人を追いかけて行ったのだった。
「あの様子じゃ、サボり癖は治ってないようだね」
「最近は多少マシになってきましたが、追いかけて行った女性に仕事を任せて、篠ノ之を探しに行ったりと問題は多いですけどね」
「根は真面目なんだがな……まっ、そんなこと私が言わずとも、君なら分かっているのだろ?」
「さて、どうでしょうかね」
柳韻の問いかけに韜晦で返し、一夏は柳韻を連れてきた本来の目的を果たす為に案内をすることにした。
「ろくなもてなしも出来ませんが、とりあえずモニター室で現状を確認していただきましょうか」
「そうだね。私はその為にここに来たんだからね。世間話は後程、千冬ちゃんたちを交えてゆっくりとしようか」
「………」
どうしても自分の現状を知りたいのかと、一夏はため息を吐いて柳韻の好奇心を振り払い歩き出す。随分と大人びた対応に頷きながら、柳韻は大人しく一夏の後に続いた。
「ところで、誰が本命なんだい?」
「世間話は後程だったのでは?」
「なに、年寄の道楽だと思って諦めてくれ」
「……誰とも付き合ってませんよ」
それだけ答え、一夏はその後無言でモニター室まで移動したのだった。
殆ど原作に出てないので、口調とかはテキトーです