暗部の一夏君   作:猫林13世

39 / 594
名前を考えるのは苦手です、相変わらず……


二人の専用機

 候補生という立場になった為に、刀奈には専用機が与えられる。製造するのはもちろん一夏だが、表向きには更識企業が製造する事と発表されている。

 

「それで一夏君。この前要望なんかを聞いてたけど、どれくらい製造には掛かるの?」

 

「それなりにデータは集まってますし、少しずつではありますが製造に着手していたので、それほど時間は掛らない予定です。ですが、虚さんのも同時進行で製造するので、一週間は掛りそうですね」

 

「そんなに早いの!? 普通ならもう少し掛かりそうだと思うんだけどな……」

 

「他の人がどの程度時間を掛けるか、なんて俺には分かりませんよ。とりあえず、完成するまでは訓練機を使って虚さんと模擬戦でもしててください。漸く打鉄と、遠近両方で戦えるラファールが完成しましたので」

 

 

 世間的にはまだ訓練機の量産など出来ていないのに対し、一夏は既に訓練機を量産する事に成功している。候補生選考合宿でも、更識製の――一夏作の訓練機を使っての訓練が行われていたのだ。

 

「私の希望は一夏君に伝えたけど、虚ちゃんの希望は聞いてるの?」

 

「もちろんですよ。そこら辺は刀奈さんが心配するような事じゃないですので」

 

「そっか……じゃあ、頑張ってね」

 

「はい、任せてください」

 

 

 専用機を製造する際には、刀奈や虚に手伝える事は無いので、ここから先は一夏一人に任せるしかない。刀奈も虚も心配ではあるのだが、邪魔しか出来ないと分かっているので無理は言わずに訓練機を使っての模擬戦に興じる事にした。

 

「まさか虚ちゃんと戦う事になるなんてね~」

 

「私はコネでの代表ですが、お嬢様は実力で掴み取った候補生ですからね。まともに戦える訳がありませんが」

 

「そんな事無いわよ~。虚ちゃんだってそれなりに実力はあるでしょ? さっき一夏君の研究所にあったデータ、結構高い数値を叩きだしてたじゃない」

 

「あれは……偶々ですよ。それに、簪お嬢様の方が、平均値は上ですから」

 

「さっすが私の妹ね。簪ちゃんも近い将来、候補生の地位についているかもしれないわね」

 

「そうなると、お嬢様と簪お嬢様でペアを組むのですか?」

 

 

 虚は半分以上冗談のつもりでそんな事を言ったのだが、刀奈の方が思いのほか本気に受け取ってしまった。

 

「それ良いわね! 後は美紀ちゃんが代表になれば、更識関係者で日本代表を務める事が出来るわよ」

 

「……言っておいてなんですが、簪お嬢様も美紀さんも、まだ候補生ですら無いんですが?」

 

「大丈夫よ! 次の大会で織斑姉妹は引退する事が決まってるし、そうなったら次の代表・代表候補生を探さなきゃいけなくなるのよね。そこに簪ちゃんと美紀ちゃん、あと本音が参加すれば最強の布陣が完成するわよ!」

 

「一夏さんの苦労を考えてませんよね? それだけの人数のISを製造、メンテナンスしなければいけなくなる一夏さんは、どれだけ大変だと思ってるんですか」

 

「あっ……」

 

 

 ただでさえ、今の一夏はオーバーワーク気味なのだ。これ以上の仕事を一夏に任せるのはさすがに酷だというものだ。虚にそう指摘されて刀奈も一夏の事を度外視していた事に気が付き、そして反省した。

 

「まぁ、一夏君がOKだって言ったら実現するかもね」

 

「一夏さんは自分の事を二の次、三の次にしますから、お嬢様たちが頼めば嫌だとは言わないって分かってますよね?」

 

「もちろん、無理そうなら私たちが止めるわよ」

 

 

 お喋りしながらも模擬戦の激しさは増して行く。コネだと謙遜する虚も、かなりの実力者で候補生として選ばれてもおかしくは無いくらいの戦闘技術を有している。

 

「でも! 一夏君の造ってくれた専用機で世界を制したら気持ちいいと思わない?」

 

「私には縁の無い世界ですから、分かりませんよ!」

 

「企業代表なら、そのうち各国の代表とやり合うんじゃないの?」

 

「あくまで企業交流として、ですよ!」

 

「残念、フェイントよ」

 

「くっ!」

 

 

 候補生に選ばれてもおかしくない実力を有している虚でも、代表に限りなく近いと言われている刀奈には敵わず、そのまま押し切られてしまった。

 

「参りました」

 

「うん。でも、この訓練機は使いやすいわよね~。合宿には日本政府が製造を依頼した倉持技研の訓練機もあったんだけど、やっぱり一夏君作の方が良いわ」

 

「第二世代、ですからね。動きも大分スムーズなのでしょう」

 

 

 使った訓練機を格納庫に戻し、刀奈と虚は訓練機の感想を言い合いながら部屋に戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏が研究所に篭って五日目、刀奈と虚は内線で一夏に研究所に来るように言われた。

 

「何かあったのかしら?」

 

「一夏さんの事ですから、もしかしたら専用機が完成したのかもしれませんよ?」

 

「まっさか~。まだ五日よ」

 

 

 普通で考えれば、専用機を造り上げるのに一週間でも早すぎるのだ。それが五日で完成するなどと、言った虚本人も思っていなかった。だが……

 

「専用機が完成しましたので、早速フィッティングとパーソナライズを……って、どうかしました?」

 

「ううん、さすがに早すぎだと思って……」

 

「さすがは一夏さんですね……」

 

「? とりあえず、刀奈さんの専用機は『(みずち)』で虚さんのは『(ひのえ)』です」

 

「蛟って……蛇?」

 

「水神ですよ。まぁ、一節では蛇とも言われてるらしいですけど」

 

「丙というのは、十干の丙ですか?」

 

「火之鴉でも良いんですが、刀奈さんの蛟と対になれば良いかなって感じで名づけました。蛇にとって鴉は天敵ですし」

 

「それってどういう意味よ!?」

 

 

 刀奈にとって虚が天敵である、という事は更識内で生活している全ての人間に伝わっているので、一夏もそのように専用機の名前をつけたのだと理解した刀奈は、ふくれっ面で蛟に乗り込んだのだった。




特に見た目は考えていません

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。