織斑姉妹と束に捕まった箒は、IS学園にある地下施設に一時監禁される事となった。並大抵の攻撃では壊す事の出来ない壁や扉で無ければ、箒を監禁する事は不可能だと一夏が判断したからである。
「何故私がこのような目に遭わなければならないのだ! 私は何も悪い事などしていないではないか!」
誰もいない地下空間で大声を出したところで、誰かが応えてくれるわけでもない。箒はただ八つ当たりをしているだけなのだ。
「窓も無ければ時計も無いからな……食事はしっかりと持ってきてもらえるが、それが一日三食なのかどうかの見当がつかない……いったい、私は何日間この場所に監禁されているんだ?」
食事を運んでくるのが織斑姉妹のどちらかなので、その相手を殴り倒して逃げ出す、などという事が出来ないし、あの二人なら一食や二食普通に抜いているかもしれないので、これが朝食なのか、はたまた昼食なのか、あるいは夕食なのかという判断が箒には出来ないのだった。
「専用機さえあれば、こんな場所破壊して逃げ出せるんだが……一夏め、不当に私の専用機を奪い取るなど……まったく、男の風上にも置けん所業だ」
あれだけの事をやっておきながら、箒にはその自覚が全くない。自分がこの場所に監禁されている理由も、一夏が専用機を取り上げた理由も、箒には理解出来ないのだった。
「織斑姉妹や姉さんまで洗脳して味方につけるなど、何処まで落ちぶれれば気が済むのだアイツは……やはり私が一から鍛え直すしかないのだろうな」
手持無沙汰を解消するために、箒は何もない空間でも出来るトレーニングを開始する。腕立てや腹筋、背筋などの基本的なトレーニングから、篠ノ之流徒手格闘術の型をなぞってみたりと、その動きは様々だったが、その動きに反応する相手は誰もいないのだった。
「せめて窓でもあれば違うんだが……いっそのこと素手で壁とかを殴り壊して逃げ出すか? だが、一回試したがびくともしなかったしな……」
それだけ自分は警戒されているのだとも知らずに、箒は再び一夏に対する愚痴を溢し始めた。
「自分では一切手を下さず、審判気取りの勘違いをしてる一夏を、私は正しい道へと更生させようとしただけではないか! それをアイツはまだ勘違いして、私を不当にこんな場所に監禁するなど……まったくもってけしからんな! 更識で生活するようになって、アイツの性根は腐ってしまったようだな」
挙句に更識家の事を悪く言うなど、箒には反省の色は全く見られないのだった。
箒には気づかない程度の監視カメラから、箒の様子を観察していたマナカと簪は、箒に対しての殺意を抑えきれないくらいにまで膨らませていた。
「コイツ、お兄ちゃんの事を悪く言うなんて……本来なら、裁判抜きの極刑だっていうのに、お兄ちゃんがそれは避けた方が良いと言ったからまだ生きてるのに……感謝するのが普通でしょうが」
「篠ノ之さん、ウチの事を悪く言うなんて……それに、一夏の性根は腐ってない。むしろ篠ノ之さんの方が腐ってるんじゃない」
ともに一夏至上主義であり妹属性、マナカと簪が打ち解けるのにそう時間はかからなかった。
「簪、やっぱりこいつは殺すべきだと思わない?」
「思うけど、勝手に手を下すと一夏が怒るよ?」
「そこなんだよね……お兄ちゃんは優しいから、こんな屑にも人権を認めてあげてるんだよね」
「害虫でしかないと思うけどね」
「害虫は駆除しなきゃいけないけど、お兄ちゃんに嫌われるのは嫌だもんね……」
いっそのこと殺虫剤でも食事に混ぜようかとも考えたが、一夏に怒られる、一夏に嫌われるかもしれないという思いが邪魔をして実行には至っていなかった。
「ところで、そのお兄ちゃんは何処に行ってるの?」
「お姉ちゃんと美紀を連れて、誰かを探しに行ってるらしいんだけど……」
「まぁまぁ、いっちーはきっと帰ってくるから大丈夫だよ~」
「本音は相変わらずね」
「ほえ? マナマナ、それってどういう意味?」
同じく妹属性であり、誰とでも仲良くなれるという特技を持つ本音も、マナカとは有効な関係を築いている。世界のすべてを破壊すると考えていたマナカだったが、ここにきて気持ちを共有出来る友人という存在のありがたみを感じていたのだった。
「何も考えていないようで、実は考えてたりするから怖いって意味よ」
「怖いかな~? それに、何も考えていない人間なんていないと思うけどな~……あっ、目の前にいるね」
そう言って本音は、モニターを指差す。箒の現状は、思い込みの結果であり、他の事を何も考えなかったからであると、本音はそう主張したのであった。
「まぁ、話を聞く限り、篠ノ之さんは昔から考え無しだったみたいだからね」
「織斑千冬、千夏姉妹に喧嘩を売ったとかなんとか……武力も伴ってないのにバカの極みよね」
「全部自分が正しくて、周りが間違ってるとか思ってるんじゃないのかな~?」
「ありえるかもね」
監視を続けながら、妹属性の三人は箒に対する評価を口にしては、その都度殺意が増していくのを感じていた。
「やっぱり駆除するしか」
「でも、碧さんの監視を抜けるのは至難の業だよ?」
「私もまだ完全に回復してないから、あの人には勝てないわよ」
一夏が自分たちの行動を読んでいたのかは分からないが、箒を監視している自分たちは碧に監視されているのだと思い出し、三人はそろってため息を吐いたのだった。
マナカにも呆れられる本音……