暗部の一夏君   作:猫林13世

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人外相手に頑張った方か……


箒覚醒

 箒には気配探知の才能は無い。いや、無いわけではないが、更識所属の面々や織斑姉妹と比べれば、無いに等しいと評されても仕方ない程度の才能しかない。

 しかし箒は、野生の勘で危機を察知し、使っていたアジトを捨て身を隠していた。

 

「(何故この場所に気付いたんだ……一夏やマナカがいるとはいえ、あまりにも早すぎる)」

 

 

 つい数時間前まで使っていたアジトには、現在織斑姉妹がガサ入れに来ている。あの二人の殺気だからこそ感じ取れたのだと、箒は昔から度々浴びせられた殺気に、何故か感謝したのだった。

 

「(とりあえず他の場所に移動するべきなのだろうが、下手に動くと気取られる。私にはずっと気配を隠し続けるだけの実力は無いが、周りと同化して気配を偽ることは習得した。だから織斑姉妹があの場を去るまでここでジッとし続け、帰ったのを見計らって別の場所に移動するしかない……くそっ、一夏のヤツめ。正々堂々自分で私を捕まえに来ればいいものを、何故あの二人を使ったのだ)」

 

 

 相変わらずの責任転嫁ではあるが、負傷している一夏相手ならば、箒は勝つ自信があったのだ。万全の状態の一夏では敵わないかもしれないが、負傷し動きに精彩を欠く一夏ならばと、箒は淡い期待を抱いていたのだった。

 

「いたか?」

 

「いや、既にもぬけの殻だ」

 

「そう遠くには行っていないはずだ。周辺を隈なく探すぞ」

 

 

 織斑姉妹の会話が聞こえてきて、箒はさらに身を低くして周辺に気配を溶け込ませる。

 

「(こんな事ばかり上手くなっても、何の役にも立たないと思ったが、これはこれで意外と役に立つな)」

 

 

 逃亡生活が長引けば長引く程、こういった術が上手くなると、箒は自分の置かれた状態を皮肉り、人知れず笑みを浮かべたのだった。

 

「(私のこの術で織斑姉妹をやり切れば、一夏も私の事を見なおすかもしれないな)」

 

 

 万が一にも、織斑姉妹と戦闘になれば自分に勝機は無い。その事は箒でも理解している、だからこそ気配を周辺に溶け込ませ、やり過ごす事で箒は自分の株を上げようと計画したのだった。

 

「まぁ、そんなことはこの束さんが許さないんだけどね~」

 

「なにっ!?」

 

「そもそも、ちーちゃんやなっちゃんだって、この程度の擬態に気付かないわけないじゃん」

 

「やれやれ、もう少し泳がせるつもりだったのだがな。邪魔してくれるな、束よ」

 

「見ててイライラしたからついね。いっくんを出し抜こうなんて百兆年早いよ」

 

「そんなに生きてるヤツがいると思うのか?」

 

「だから、一生無理だって事だよ、なっちゃん」

 

 

 いつの間にか囲まれていたと、箒は自分が置かれた状況を理解するのに手間取った。

 

「何故だ!? 千冬さんや千夏さんの会話は、間違いなく遠くから聞こえたのに」

 

「気配を偽る程度の事が出来ずにどうする」

 

「一夏やマナカ相手ならともかく、貴様相手に後れを取るはずないだろ」

 

「というわけで、おバカな箒ちゃん。君はいっくんに裁かれることになるから、大人しく束さんたちに連行されるんだね~」

 

「何故姉さんまでいるんですか! 織斑姉妹ならなんとなく何でもありな気はしますが、姉さんは頭脳だけでしょうが!」

 

「知らんのか? 束は細胞レベルで私たち以上なんだぞ」

 

「いっくんやマナちゃんには敵わないかもだけどね~」

 

「逆らう気が無いだけだろ、お前の場合は」

 

 

 自分を置いて会話を続ける三人に、箒は絶望感を抱いていた。自分の姉は武力においても自分以上だと知らしめられたことがショックだったのだろうと、三人はあまり深く考えていなかったが、箒の様子がおかしいと千夏が気づき、二人も普段以上におかしいと感じ取り警戒を強めた。

 

「認めない……こんな展開はあってはならないのだ」

 

「ん~? 何を考えてるのかな、このおバカちゃんは」

 

「認めない……私がこんなところで終わるなど、認めてなるものか!」

 

「認めないも何も、君はもうここで……」

 

「私は、こんなところで終わるわけにいはいかないのだ!」

 

 

 箒の言葉に呼応するかのように、箒の身体から力が溢れて来る。その気配を感じ取り、織斑姉妹は箒の動きを封じようとしたが、時すでに遅し。二人が反応した瞬間には、箒の姿は目の前から消えていたのだった。

 

「おい束、あれはどういうことだ?」

 

「分からないけど、束さんの妹だから、もしかしたら箒ちゃんも細胞レベルで人外なのかもしれない」

 

「だが、貴様が調べた限り、アイツは凡人程度の力しか持ってなかったはずだろ」

 

「分からないよ! 束さんにだって、この展開は予想外過ぎるんだもん」

 

「感謝しますよ、姉さん。そして千冬さんに千夏さん。お陰で、隠されていた本当の力が目覚めました。お礼に、私の真の力を味合わせて差し上げますよ」

 

 

 そう言うや否や、箒は三人の周辺を爆発させる。無論、その程度の攻撃でこの三人が大人しくなるはずもないのだが、爆薬も何もない状態でいきなり爆破されれば、精神的に来るものは大きかった。

 

「これがあの箒だというのか?」

 

「弱くバカの箒が、こんなことを?」

 

「散々馬鹿にしてくれましたもんね。帰って一夏に伝えてください。一対一で勝負をつけてみろと」

 

「ま、待て!」

 

「……なんちゃってね」

 

 

 織斑姉妹を囮に使い、束は箒の背後に回り込み麻酔銃を打ち込んだのだった。




三人の芝居にまんまと騙される箒……

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