怒りに身を震わせながらも、織斑姉妹は箒の行方を捜す為に束に連絡を入れた。
『もすもすひねもす~? ちーちゃん、この束さんにどのような用事かな~?』
「バカ箒が、我々の逆鱗に触れた。今すぐ居場所を特定しろ」
『ちーちゃんたちの逆鱗って、もしかしていっくんの盗撮写真をオークションに掛けたことかな~?』
「知っているなら話は早い。とっとと貴様の妹の居場所を特定し、その周辺を消滅させろ」
『消滅させるのは簡単だけど、そんなことすればいっくんやマーちゃん、マナちゃんに軽蔑されるけど、それでもいいならいいけど~?』
「ぐっ……」
千冬は束の一言に奥歯を噛みしめて葛藤する。箒は消し去りたいが、一夏やマドカ、そしてマナカに軽蔑されるのは避けたい。せっかく一夏やマドカが間に入ってくれて、多少なりともマナカと打ち解け始めたのに、箒の所為で全てを台無しにするなど、千冬には耐えられないことだった。
「では、バカ箒のみを蒸発させることは可能か?」
『そんなの、いくら天才束さんでも無理だよ。それが出来るなら、とっくの昔に人類を滅亡させてるって』
「そうか……ならとりあえず、バカ箒の居場所の特定を急げ。お前の発明品で蒸発させられないのなら、私たちがこの手で生まれてきたことを後悔させてやるから」
『居場所なら特定出来てるし、そのオークションの落札者は束さんだから』
「貴様か! テロリストに資金提供をしたのは!」
『別に箒ちゃんを助けるために購入したんじゃなくて、いっくんの写真を有象無象の手に渡るのを避けるために購入したんだよ! 決して私利私欲の為じゃ……』
『束様、購入した写真が送られてきました』
『わーい、ありがとう、クーちゃん。これで当分はいっくん成分の補給に事欠かないよ~……はっ!?』
「貴様……完全に私利私欲ではないか!」
千冬と電話していることを忘れ、束はつい本音を漏らしてしまい、千冬のカミナリを電話越しに喰らったのだった。
『ま、まぁまぁ……ちーちゃんとなっちゃんになら、特別価格でコピーさせてあげるから』
「……なら仕方ないな。その代わり、こちらの言い値で納得してもらうからな」
『三枚までだからね! それ以上は束さん価格でやらせてもらうから』
「仕方ないな、それで手を打とう」
束との交渉を済ませた千冬は、束から送られてきた位置データを見て、怒りが沸々と湧きだしたのだった。
箒の居場所を特定したと報告を受け、一夏とマナカは千冬から位置データを見せてもらい、早急に監視衛星をハッキングし、その場所の確認を急いだ。
「人が生活してる反応有り。ついでにサイレント・ゼフィルスの反応もあるね。間違いなく篠ノ之箒がここを拠点にしてる」
「一回直に確認したから、見落としていたな……篠ノ之に裏をかかれるとは思ってなかったな」
「てか、最近になってこの場所にコンピューターがあるって気づいたみたいだよ。それまでは点々としてたっぽいし」
「てか、資金繰りが苦しいからって、俺の写真を売るか普通……」
「お兄ちゃんの写真なら、一枚だけでも一ヶ月は生活出来るくらいの値が付くからね」
「私なら、全財産を叩いてでも一夏の写真を買うぞ!」
「自慢にならないでしょうが、そんなこと」
一夏が呆れながら、現在の情報をモニターに映し出す。そこには、間違いなく箒の姿が映し出されていた。
「何か喋ってるな」
「口元をアップに出来る?」
「少し待ってろ」
マナカに言われるまでもなく口元をアップにした一夏は、そこから口の動きを読んで箒が何を言っているのかを確認する。
「えっと……『ま、さ、か、こ、れ、ほ、ど、の、ね、が、つ、く、と、は』何を言ってるんだ?」
「モニターに表示された金額を見て喜んでるのかも」
「続きは……『こ、れ、な、ら、い、く、ら、で、も、つ、く、る、こ、と、が、で、き、る』何を造るんだ?」
「無人機のデータは抜き出しただろうから、きっと無人機だと思うよ」
「造られると厄介だな。千冬先生、許可しますので千夏先生と共にこの場に急行し、篠ノ之箒を捕まえてきてください。抵抗した場合のみ攻撃を許可しますので、くれぐれも逃がさないようにお願いします」
「任せろ一夏! お姉ちゃんが颯爽とこのバカを捕まえて来るからな!」
意気揚々と部屋を飛び出し、千夏と合流しものすごい速度で飛んでいった千冬を見送り、一夏はモニターに視線を戻した。
「無人機製造は出来るかもしれないが、コアの製造は別データじゃないのか?」
「そもそも、資格が無い人間にコアは造れないよ。それこそ、篠ノ之束と私、そしてお兄ちゃんの三人以外はね」
「外装だけ造れてもな……そこに気付かない辺り、やはり篠ノ之は篠ノ之なのか」
「そもそもお兄ちゃんが自分の物だって勘違いしてる残念な頭の持ち主なんだから、無人機のデータがあっても製造出来るかどうか怪しいと思うけどね」
「とにかく、織斑姉妹が篠ノ之を捕獲してくれれば、とりあえずの問題は解決になるな」
「平凡な学生生活が送れるんじゃない?」
「いや、後処理や更識の仕事があるだろうし、平凡な学生生活は無理だろうな」
既に事件解決を確信した二人は、解決後の事を考え始めていたのだった。
読唇術とは、さすがだ……