暗部の一夏君   作:猫林13世

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凡人なのかは疑問ですがね


凡人と人外

 穏健派が使っていたアジトに侵入した箒は、まず真っ先に盗み出した一夏の画像データを呼び起こした。

 

「これは! いやしかし……まったく妹がけしからんな!」

 

 

 誰もいないのにもかかわらず、誰かに聞かせるような言い訳をしながら、箒は一枚一枚をじっくりと鑑賞していく。

 

「こっちは映像データか……」

 

 

 再生ボタンを押す勇気がないのか、箒はたっぷり数秒固まってしまった。

 

「いや、これは一夏がちゃんと成長しているか確認するだけだ。決してやましい気持ちがあるわけではない!」

 

 

 またしても誰に聞かせるでもない言い訳をしてから、箒は映像を再生する。

 

「こ、これは! これがいわゆる無修正というやつか……まったくけしからんな」

 

 

 鼻から熱いものが流れ出るのを感じながらも、箒はかぶりつくように映像を眺めていた。

 

「これが一夏のすべて……実際に触ってみたりしてみたいものだ」

 

 

 思う存分鑑賞した箒は、もう一つのUSBを取り出して無人機の設計データを呼び起こそうとして、エラーの表示に焦りを覚えた。

 

「エラーだと? だがしっかりとコピーはしてきたはずだ。長時間外で生活していた所為でデータが壊れたとでもいうのか? だが、一夏の画像データや映像データはしっかりと生きているし……何がどうなっているんだ」

 

 

 元々素質はあったが磨いてこなかったせいで、箒はメカに余り強くない。平均以上は普通にやってのける実力はあるのだが、箒が挑もうとしているのは人外レベルと言われる相手なのだ。並大抵の実力では相手にすらならない。

 

「もう一度あの場所に行ってデータを……いや、既に日数も経っているし、あの場所も抑えられているだろう。だが、並の戦闘員なら倒せないことも無い……だが、あの場所に侵入した所為で、この場所を特定されるのも避けなければいけないし……クソ、こんなならもう少しあの餓鬼を調子づかせてコンピューターの使い方を教えてもらうんだった」

 

 

 マナカに教えを乞うのは箒にとって屈辱的な事ではあったが、こんな事になるなら我慢すればよかったと、今更ながらに後悔したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人に支えてもらい、ようやく歩けるようになった一夏とマナカは、コンピューターのある部屋に移動し、箒の手掛かりを探してゆく。

 

「簪ちゃんや虚ちゃんもなかなか早かったけど、この二人は別格ね」

 

「そうですね。一夏さんもマナカさんも、人外的技術力を持つと噂されていますからね」

 

「マナカちゃんがこっち側に来てくれたから、簪ちゃんや虚ちゃんを前線に出す事も出来るし、一夏君不在の際でもなんとかなるもんね」

 

「ですが、あまり頼り過ぎるのもどうかと思いますよ。二人とも、まだ完全に回復した訳ではありませんので」

 

「分かってるけど、一夏君がいてくれるだけで、なんだか安心出来るじゃない?」

 

「それはまぁ、一夏さんが側にいてくれる時の安心感は半端ないと私も思いますけど」

 

 

 一夏とマナカが作業している後ろで、刀奈と美紀は雑談を繰り広げる。本来ならこの二人も訓練に参加するべきなのだろうが、一夏とマナカの支えとしてかつ、この二人ならマナカが裏切った時でも一夏を救い出せるという事でこの場にいるのだった。最も、マナカが裏切ったとしても、一夏に危害を加える可能性は限りなくゼロなので、本音でもよかったのではないかという声もちらほら聞こえてたりしている。

 

「お兄ちゃん、そっちはどう?」

 

「あちこちと点在してるみたいで、特定するのはもう少しかかりそうだ。そっちはどうだ?」

 

「仕掛けたトラップを発動するまでの技術力がないみたいで、コピーしたと思われるデータを起動するまでに行けてないんだよね……まったく、技術力の低いヤツはこれだから」

 

「コピーするだけでも大変なんだろ?」

 

「まぁ、本当にダメな人には、データを引っ張り出す事自体無理だったからね」

 

「マナカのデータは、こちら側からハッキングしようとしても無理だったからな……どれだけのセキュリティーを積んでたんだ?」

 

「それを言うなら、お兄ちゃん側のデータだって、セキュリティーがキツくて手に入らなかったんだから。お兄ちゃんの方こそ、どれだけの物を積んでたの?」

 

 

 兄妹の会話について行けない刀奈は、自分に宛がわれたモニターで外の様子を眺めていた。

 

「あっ、織斑姉妹がマドカちゃんと何か喋ってる」

 

「姉妹なんですし、喋っていてもおかしくはないと思いますが?」

 

「でも、今は仕事の時間だった気がするんだけど……」

 

 

 そう言って刀奈は、映像を外から職員室へと切り替え、織斑姉妹の机の上を確認した。

 

「終わってるみたいね……普通に優秀なんだから、普段からちゃんとすれば一夏君に怒られる事も無くなるのに」

 

「それは刀奈お姉ちゃんにも言える事では?」

 

「今はちゃんと仕事してるでしょ」

 

「今は、ですけどね」

 

「うぅ……最近美紀ちゃんが意地悪だ」

 

 

 美紀とそんなやり取りをしながら、刀奈は再び映像を外に戻し、三人が何を話しているのか聞けないかとモニターを弄る。

 

「刀奈お姉ちゃん、そんな事しても、声は拾えませんよ」

 

「唇の動きで分からないかなって……でも、読唇術なんて出来なかったわ」

 

「それが出来るのは一夏さんと碧さんくらいですからね」

 

 

 一夏は兎も角、碧もなかなかの人外だなと、改めて思った刀奈だったのだった。




人外がレベル違い過ぎるだけな気がしますがね……

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