暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏もマナカも負傷中ですからね


現時点での最強

 打つ手が無く、箒はただひたすらに移動し、居場所を特定されないように生活していた。

 

「このデータを持っていても、コンピューターが無いと無用の長物でしかないからな……出来るだけ早く環境が整った場所に腰を据えなければ」

 

 

 辛うじて資金は手に入れたが、人を見る目を養ってこなかったせいでどこが安全かを見極める事が出来ずにいたのだった。

 

「何故私がこんな目に遭わなければいけないんだ……これもすべて、一夏の所為だな」

 

 

 自業自得という概念が存在しないのか、箒はそんなことを呟いていた。

 

「しかし、コンビニのコピー機でも写真を現像出来たのは助かったな。まさかあの写真が一枚数万円もするとは思ってなかったぞ」

 

 

 現像した一夏の写真を、断腸の思いで売りに出したところ、数秒で完売し、それで資金を得ることに成功したのだった。

 

「いっそのことこの写真をさらに現像して資金を増やし、口止め料込でどこかのホテルで生活するのも悪くないかもしれないな……いや、そんなことをすれば、必ず織斑姉妹や姉さんたちが私の足取りを掴んでくるだろうし、何よりも一夏の写真を有象無象共にくれてやるのは気に食わん」

 

 

 自分の計画に腹を立て、箒は唯一に収入方法を諦め、引き続き逃亡生活を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身動きは取れなくても指示は出せると言う事で、一夏は更識所属の面々やクラスメイトに訓練の指示を出していた。

 

「簪と美紀はオータムと模擬戦を重ねてくれ。アイツが相手なら連携の見直しも出来るだろうし、強敵相手にどう動けばいいかの訓練にもなる」

 

「分かった」

 

「刀奈さんは虚さんとスコールと三人で対戦形式の訓練を積んでください。とりあえず個人戦ですが、誰かと協力して誰かを脱落させる、という戦法をとっても構いません」

 

「そうなると真っ先に私が落とされそうなんだけど!?」

 

「そこらへんは自由ですから。本音やマドカは、セシリアやシャル、ラウラたちと一緒に模擬戦形式で訓練をすること。特に本音はサボり過ぎだから気合いを入れて訓練しろよ?」

 

「了解だよ~。私だって、やる時はやるんだから!」

 

「そのやる時が滅多にないように思いますがね」

 

「静寐や香澄、エイミィはサラ先輩やダリル先輩、フォルテ先輩たちと訓練する事。実力者だからいい経験になると思うぞ」

 

「そうね。元とはいえ代表候補生の二人と、現国家代表の先輩相手だものね」

 

「緊張するけど、一夏さんの為に頑張ります」

 

 

 指示を受け全員がアリーナに向かった後に残ったのは、動けない一夏とマナカ、そして碧の三人だけとなった。

 

「お兄ちゃんって、沢山の配下がいるんだね」

 

「仲間だと思ってるがな。立場的には配下なんだろうが、その表現は何か嫌だ」

 

「一夏さんは優しいですからね。私のような従者にも丁寧に接してくれますし」

 

「そう言えばお兄ちゃん」

 

「何だ?」

 

「お兄ちゃんって、更識家の当主なんでしょ? 表向きはあの四月一日美紀の父親が当主って事にしてあるみたいだけど、普通にお兄ちゃんが当主でも問題ないと思うんだけど」

 

 

 いきなり核心をついてきたマナカに、碧は鋭い視線を向けたが、一夏が手でそれを制し答えた。

 

「さすが駄ウサギ以上の宇宙規模ストーカーだな。知ってたのか」

 

「普通に考えて、お兄ちゃんが当主であるべきだと思うと思うんだけども、有象無象共のちっぽけな脳みそじゃ理解出来ないんだろうね」

 

「尊さんも普通に優秀だから、彼が当主を継いだと言っても誰も疑問には思わなかったんだろ。血筋的にも問題はないし、年齢的に考えても俺より尊さんが『楯無』を継いだと考える方が普通だと思うぞ」

 

「そうかな? 私にとってはお兄ちゃんの方が優秀で、貫禄も十分だと思うけど」

 

「先代の楯無さんが亡くなったのは、俺がまだ今以上に子供だった時だぞ。だから尊さんに代理の当主として働いてもらってるんだ」

 

「そんなの関係なく、お兄ちゃんが当主だって言った方がスコールたちの時にもっとスムーズに話が進んだんじゃないかなって思っただけだよ」

 

「それは否定しないが、結果的に丸く収まったんだから良いだろ」

 

「一夏さんもマナカさんも、あまり大声は出さないでくださいね。身体に響きますよ」

 

 

 そう言って碧は、一夏とマナカの脇腹に指を立てる。触られただけだというのに、一夏とマナカは激痛に見舞われ悶絶した。

 

「今のは効きました……」

 

「この私が抵抗出来ないとは……」

 

「二人とも、本当ならこんな場所ではなくちゃんとした病院に入院してるはずの怪我なんですから、くれぐれも興奮して立ち上がろうとかしないでくださいね? 次は触るだけじゃ済ませませんから」

 

「鬼だ……お兄ちゃん、この女鬼だよ……」

 

「何か、言いましたか?」

 

 

 ニッコリと笑みを浮かべながら人差し指をマナカに向ける碧。その姿に恐怖したのか、マナカは首を横に振って許しを請うたのだった。

 

「まったく、誰が鬼ですか。私は二人の身体が心配で言ってるんですからね」

 

「分かってますよ。マナカ、ちゃんと碧さんに謝るんだぞ」

 

「ゴメンなさい……」

 

 

 一夏に怒られた事と、碧への恐怖心から、マナカは素直に頭を下げ碧はよろしいと頷いてマナカの失言を許したのだった。




武力は織斑姉妹と同等くらいですが、知力などは碧さんの方が上ですからね

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