暗部の一夏君   作:猫林13世

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一見悪役が板についているように思える……


箒の企み

 マナカが重傷を負い敵の手に堕ちたのを知った箒は、マナカの研究室にあるものを一通り確認していた。

 

「これが無人機のデータで、こっちが衛星のコントロールをしているのか……それで、こっちが全世界の核を遠隔操作する為のもので、これが映像媒体をハッキングする為のシステムか……」

 

 

 物を一から作ることは出来なくても、データさえあれば箒は基本的には何でも出来る。マナカが組み上げたものを利用し、箒は野望を果たす為に動き始めた。

 

「まずは無人機を私の思い通りに動かせるようにしなければな。IS学園に報復をし、一夏を差し出させるためには今のままでは駄目だからな」

 

 

 システムの書き換えなど、箒はやったことがない。だが遺伝子的に刷り込まれているのか、箒は何の苦労もなく無人機のシステムを書き換える事に成功する。

 

「やはり私は選ばれし人間なのだな。こんな私を邪険に扱った世界に、私は私の存在を知らしめなければならない」

 

 

 ある種の脅迫概念に囚われているのか、箒はターゲットをIS学園から全世界へと変更する事にした。

 

「全世界に私の素晴らしさを教えるのと同時に、私にこそ一夏が相応しいと言う事を認めさせなければならない。そうなれば滅ぼすのではなく支配する方が楽だな……従わない国には核を落とし、無人機で殲滅させれば他の国は大人しくなるだろう」

 

 

 頭の中でシナリオを描き、ぎこちないなりにもシステムの改竄を進めていく箒。このアジトが知られているかもしれないという可能性を見落としているが、現状攻め込んでくる勢力は無い。マナカと同時に一夏も負傷したため、更識の命令系統は機能していない。

 

「待っていろ、一夏。もうすぐお前は私の物になるのだ。そうすればすべてが終わり、正しい世界へとお前を導くことが出来る……邪魔するものは、誰であろうが排除する」

 

 

 抑圧されていたものが解放されたため、箒の顔には狂気の笑みが浮かんでいる。自分こそが一夏の隣にいるべき存在だと思い込んできたため、それが正しいのだと信じてやまないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双子の姉から諭され、マナカは自分の考えを改めて見直していた。

 

「お兄ちゃんを手に入れる事だけに意識を向けていた所為で、全てを排除したらお兄ちゃんが悲しむと言う事を失念していた……」

 

「兄さまは、刀奈さんたちを大事に思っていますから、その人たちを傷つけていたら貴女は愛されることは無かったでしょうね」

 

「私がお兄ちゃんを傷つけられるのを嫌ったように、お兄ちゃんはその人たちを傷つけられたくなかったわけか」

 

「兄さまだけを意識したために、簡単な事を見失っていたのでしょう。私もそうだったから」

 

「そう言えば、あんたは篠ノ之束のラボを襲って捕まったんだっけ」

 

「私を織斑の出来そこないと罵った世界を恨み、姉さまたちを倒せば認められると思い込んでいたから……敵うはずもないと分かっていながら篠ノ之博士を襲い、兄さまの策略にハマったのです」

 

「……お兄ちゃん、篠ノ之箒ってバカなんだよね?」

 

 

 急に話題を振られ、一夏は少し考えてから答えた。

 

「勉強は普通に出来たはずだが、思い込みが激しいタイプではあったな」

 

「なら平気かな……」

 

「何か不安でもあるのか?」

 

「ううん、私の研究室に、色々とマズいシステムとかがあるから、下手に弄られると困るかなと思って」

 

「ちなみに、どんなシステムがあるんだ?」

 

 

 一夏に尋ねられ、マナカは少しバツの悪い笑みを浮かべながら答えた。

 

「えっとね……全世界の映像媒体をハッキングするシステムとか、核爆弾を遠隔操作するシステムでしょ、それから無差別に人を攻撃するように無人機に命令するシステムに、研究室の自爆スイッチとか、その他諸々」

 

「………」

 

「そのどれかを篠ノ之が扱える可能性は?」

 

「無いと思うよ。一応パスワード認証が必要だから」

 

「なら安心ですね」

 

 

 マドカがホッと一安心したのに対して、一夏は難しい顔をしたままだった。

 

「何か心配な事でもあるの、お兄ちゃん?」

 

「いや、篠ノ之の野生の勘は侮れないと思ってな……それに、曲がりなりにも束さんの妹だから、ハッキングの腕がもしかしたらあるのかもしれないと思って」

 

「心配し過ぎなのでは? 学園生活しか知りませんが、篠ノ之箒に技術者としての腕は無かったと思います」

 

「だと良いのだが……沸点が低いから、操作出来ないと殴ってでも動かそうとするかもしれない。そうするといろいろ問題があるんじゃないか、とか気になることがな」

 

「下手に叩いたりしたら、その相手を排除するように組み込んであるから大丈夫だよ。でも、アイツの武力は底知れないものがあったから、そのシステムすらも切り捨てたりしそうなんだよね」

 

 

 マナカがため息を吐いたタイミングで、部屋に別の人物がやってきた。

 

「一夏君、具合はどう?」

 

「おかげ様で、目は覚めました」

 

「良かった……それから、マナカちゃんが飛んできた方向から計算して割り出したアジトだけど、既にもぬけの殻だったわ。システムを弄った形跡はあったけど、実行はされてなかったわ」

 

「でも、コピーした形跡はあったから、篠ノ之さんが何かを企んでいる可能性は否定出来ない」

 

 

 刀奈と簪の報告を受けて、一夏とマナカは同じような仕草で考え込んだ。

 

「マナカ、篠ノ之を追跡する事は出来るか?」

 

「GPSなんて仕込んでないから、衛星を使って追いかけるしか出来ないよ」

 

「なら、束さんにでも頼んでみるか」

 

 

 兄妹の連携に、刀奈と簪は少し嫉妬したのだった。




連携バッチリに人外兄妹……

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