暗部の一夏君   作:猫林13世

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順当な結果ですね


候補生、決定

 代表候補生選考合宿もいよいよ最終日となり、残った人間はたったの五人になっていた。初日にはこの十倍はいたはずの人数も、様々な選考基準から振るい落とされ、ついにはこの五人となってしまっていたのだった。

 その中に、更識刀奈の姿もあった。最年少参加者でありながら、最も候補生に近いと言われている彼女は、最終選考でも抜群の成績を残し、今は発表の時を待っていた。

 

「(大丈夫、結果は残したはずだし、自分の力を信じて待つ)」

 

 

 選考委員である織斑姉妹に忌み嫌われている事を除けば、誰がどう見ても刀奈が選ばれる事は間違いないはずだ。それは他の候補者である四人にも分かっている。四人が祈っているのは、刀奈が候補生に選ばれた場合は、専用機は更識が用意する事になっている為に、日本政府が所有するコアが余るという事実があるので、お情けで自分も……という淡い期待を抱いているのだ。

 

「待たせたな。それでは候補生に選ばれたヤツを発表する」

 

「無駄な祈りは捨てて現実を受け止める準備は出来ているか? 出来ていなくても発表はするがな」

 

 

 実に唯我独尊な二人に、刀奈は呆れた視線を向けそうになったが、何とか堪えた。別に視線を向けただけで落選にはならないだろうが、今の刀奈では二人に絡まれた場合の対処法が無いのだ。

 

「本日付で日本代表候補生になるのは、更識刀奈だ」

 

「この決定により、更識刀奈には専用機が与えられる事になる。至急更識家へ帰還し、お前に合った専用機を製造してもらえ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「それから、候補生に選ばれたといって、必ずしも代表になれるわけではないのだが、現段階で既に貴様は代表候補筆頭だ。その自覚を持ってこれからも精進するように」

 

「は、はい!」

 

 

 小学六年の自分が、まさか代表候補になれるなんて思ってなかったのに、まさかその中でも筆頭だと言われ、刀奈の心は揺らいでいた。

 

「(何時かは…って考えはあったけど、まさかこれほど早く代表になれるかもしれないなんて……候補生だけでも十分だったんだけどな)」

 

 

 二年後の第二回モンド・グロッソは諦めて、その次の大会に照準を合わせていた刀奈にとって、すぐに代表になれるかもしれないと言われれば焦りも生じるだろう。だがそれも含めて、刀奈は改めて気合いを入れ直した。

 

「(とりあえず、専用機が完成するまでは屋敷でゆっくり出来るし、その後の訓練もウチなら碧さんや虚ちゃんがいるから相手に困らないわね。しかも碧さんはモンド・グロッソを無傷で制した強者、実力を磨くにはこれ以上ない相手よね)」

 

「今回候補生に選ばれなかった諸君も、まだチャンスが潰えたわけではないので、各々で精進するように。では解散」

 

 

 千夏の宣言によって、選考合宿の幕は下りた。刀奈は普段では考えられないスピードで携帯を操作して迎えを呼び寄せた。そして一夏に候補生に決まったという旨のメールを送り、専用機製造をお願いしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀奈からメールを受け取った一夏は、その内容を簪以下三名に伝えた。

 

「どうやら刀奈さんが候補生に選ばれたようですね」

 

「ほんと!? やっぱりお姉ちゃんは凄いんだ……」

 

「だから、簪ちゃんだって刀奈お姉ちゃんに負けないくらい凄いところがあるってば。だからそんなに気落ちしないの」

 

「そうだよ~。かんちゃんは秘蔵本の数が……じょ、冗談だからその顔止めて~!」

 

「余計な事を言うからですよ」

 

 

 各々が刀奈を心の中で称賛する中で、やはり簪は姉に対する劣等感で押しつぶされそうになっていた。元々選ばれる確率は高いと簪も理解していたし、選ばれた事は素直に嬉しいし妹として誇らしかった。

 だが同時に、妹だから感じる姉との差が、簪の心を押しつぶしていた。父親も友人も、誰一人刀奈と簪を比べて優劣をつける事はしていないが、それ以外の周りの人間がそう思っているのではないか、比べられて失望されているのではないか、という妄想がどうしても簪には付き纏ってしまうのだ。

 

「このままいけば代表になれるかも、とも書かれていますね」

 

「そうなると、また候補生の枠が空きますね……簪お嬢様もチャンスがありそうですね」

 

「私っ!? 虚さんがなった方が……」

 

「私は正式に更識企業の代表として選出されましたので、日本の代表候補生にはなれませんよ」

 

「そうなると、いっち―はおね~ちゃんと刀奈様の専用機を同時に造る事になるの?」

 

「また、一緒にいる時間が減ってしまうんですね……」

 

 

 寂しそうなのを隠そうともしない美紀に、一夏は寂しそうな笑みで応えた。

 

「それ程時間はかけない予定だが、どうしても一緒にいられる時間は減ってしまうだろうな。美紀たちにはすまないと思っているが、これは俺しか出来ない事だからな」

 

「分かってますけど、やっぱり寂しいと思ってしまいますよ。私だけでは無く簪ちゃんや本音ちゃんも」

 

 

 時期当主候補であり更識企業がIS業界トップに躍り出た立役者、そして篠ノ之束以外でISのコアを製造出来る唯一である一夏が、専用機製造で忙しくなるのは仕方の無い事だと理解はしている三人だが、やはりまだまだ子供であり未熟なので、自分の心を抑える事は出来なかったのだった。

 

「そのうち三人にも専用機を造る時が来るだろうし、その時は一緒に過ごせると思う」

 

「どういう……」

 

「そのうち、な」

 

 

 これ以上は考えるな。一夏が言外に三人に告げた為、簪は続きの言葉を発する事が出来なかった。いずれ自分たちもISの世界に飛び込むのだろう、それだけはハッキリと分かったのだった。




刀奈が候補生で、虚が企業代表……凄い集団だなぁ

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