暗部の一夏君   作:猫林13世

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マナカをラスボスに、と思ってたんですがね


急展開

 寮長室で説教をしているタイミングで、一夏の携帯が鳴った。ちらりと視線を向け、興味がないのかそのままポケットにしまい説教を再開しようとして、この部屋に近づいてくる気配を感じため息を吐いた。

 

「どうして無視するかな!?」

 

「今忙しいんです。貴女のくだらないことに付き合ってる暇は――」

 

「穏健派の残りメンバーのところに、箒ちゃんが出撃した。多分また虐殺するんだと思う」

 

 

 その言葉を聞いた一夏の反応は迅速だった。

 

「簪、すぐに動ける者は?」

 

「本家にはいません。学園になら、一夏かお姉ちゃんがすぐに動けるでしょ? 仕事は、私たちが引き受けるから」

 

「すまない。千冬先生、千夏先生」

 

「分かった。更識姉、及び更識弟のIS使用許可を出す」

 

「政府への対応は任せてもらおう」

 

 

 さっきまで怒られていた人とは思えないほどの頼もしさを感じ、一夏は急ぎ刀奈の部屋へ向かう。

 

「刀奈さん」

 

「分かってる。さっき簪ちゃんからメール貰ったから」

 

「さすが簪、仕事が早い」

 

「なになに? スクープの匂いが」

 

「緊急事態です。邪魔をするなら黛先輩でも容赦しませんよ」

 

「……大人しく待ってます」

 

 

 一夏の容赦のない殺気を浴びせられ、薫子は二歩三歩引いて返事をする。普段なら加減してくれる一夏が、一切の容赦なしで殺気を浴びせてくるという事は、本当に緊急事態なのだと理解したのだった。

 

「生徒会長権限を、一時的に虚ちゃんに委譲します。学園に何かあった時は、虚ちゃんが先頭に立って指揮してちょうだい」

 

「かしこまりました。お嬢様、一夏さん、ご武運を」

 

 

 虚に見送られ、一夏と刀奈は束が捉えた穏健派メンバーがいると思われる場所まで、猛スピードで飛び立った。

 

『一夏さん、篠ノ之さんを捕らえることが出来れば、それを足掛かりにマナカさんの居場所を知ることが出来るかもしれませんね』

 

「いや、そう簡単にはいかないだろ。恐らく、マナカは俺たちが篠ノ之を捕らえに動いていることを知っているだろうし、捕らえられたらすぐに拠点を変えるくらいの事はするだろう」

 

『ですが、今まで使っていた拠点の場所が分かれば、そこから新しい情報を得られるかもしれません』

 

「そうだが、マナカの事だから、拠点爆破くらい平気でしそうだしな……まっ、期待しないでおくか」

 

『そもそも篠ノ之さんが情報を持っていれば一番なのですがね』

 

「捨て駒としか思っていない相手に、情報を持たせるとは思えないがな」

 

 

 移動中に今後の話し合いを闇鴉として、一夏はレーダーに不審IS情報をキャッチした。

 

「刀奈さん、東より猛スピードでこちらに接近しているISの情報あり。恐らく篠ノ之だと思われます」

 

「こっちでも捉えてる。どうする? 私が相手しようか?」

 

「……いえ、まずは穏健派メンバーの保護を優先します。篠ノ之は俺が適当に相手しますので」

 

「大丈夫? 箒ちゃん相手じゃ、一夏君のトラウマが……」

 

「接近されなければ大丈夫です。それでもあまり長い時間は持ちませんので、穏健派メンバーを集めたら束さんへ連絡してください。そうすれば、すぐに回収してくれるでしょうから」

 

 

 そう言って連絡用の端末を刀奈に投げつけ、一夏は箒の気を引くためにあえて攻撃を仕掛けた。

 

「待ってて、一夏君! すぐに終わらせるから」

 

 

 穏健派メンバーの回収に向かった刀奈を見送り、一夏は覚悟を決めて箒がやってくるのを待った。

 

「久しぶりだな、一夏」

 

「そうか? 修学旅行の際に見かけたと思うが」

 

「一対一で会話をするのが、という意味だ。お前は誰かしらを護衛につけ、私と二人きりになるのを避けていたからな」

 

「危険人物と一対一の状況を作りたがる人間がどこにいるんだか……お前、自分が殺人鬼だって事を理解してるのか?」

 

 

 一夏は、箒が人を殺している感覚を持ち合わせていないことを知っている。だがあえて聞くことで、意識のすべてをこちらに向けさせようとしているのだ。

 

「人殺し? 何をバカな事を言っているんだお前は。私は世界のゴミを片付けているだけに過ぎない。褒められるならともかく、責められる所以は無いぞ」

 

「ゴミ掃除? どんな理屈をこねくり回したらそんな考えに至るのか、本当に束さんにお前の頭の中を覗いてもらいたいくらいの超理論だな。何処からどう見ても、お前がやってきた事は犯罪行為だ。人を殺め褒められるわけがないだろ」

 

「何故お前は理解しない、理解しようとしない。私たちは正義なのだ。正義の使者が悪を裁くのに何故法律を気にしなければいけないのだ」

 

「正義の使者? 篠ノ之、お前しばらく見ない間にお笑いに転向したのか? 実に面白い話だな」

 

「まぁいい。お前をここで捕らえあのいけ好かない小娘に引き渡せば、私の勝利だ。何もかも破壊し、それから本当の一夏を取り戻すのだからな」

 

「妄言もそこまでにしたらどうだ? 本当の俺を取り戻す? どんな俺を想像してるのかは知らないが、そんなのはお前の妄想の中だけだ」

 

「お前が私に勝てるとでも? あの時の私とは違うのだ」

 

 

 これ以上話すつもりは無いと言わんばかりに、箒が一夏に向けて狙撃した。その攻撃をいとも簡単に避け、一夏は距離を取った。

 

「確かに、考えなしに突っ込んでこないだけ成長したのかもしれないが、遠距離戦で勝てるとでも思ってるのか? ISの能力を引き出せていないお前が、全能力を引き出している俺に勝てるとでも?」

 

「ぬかせ! その傲慢な態度、更識の連中の所為でそんな風になってしまったんだろ!」

 

「傲慢はどっちだよ……」

 

 

 呆れながらも一夏は箒に向けて射撃を繰り返す。無論、一撃が軽いので箒に大したダメージを与えるまでには至らないのだが、確実に箒の冷静さは削っているのだった。




ちょっと路線変更します

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