暗部の一夏君   作:猫林13世

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美紀の努力

 刀奈も合宿所に戻り、再び更識家での子供たちは大人しくなった。元々騒がしいのは刀奈と本音だけなのだが、この二人が揃うとそれなりに子供っぽさが出てしまう事があるので、刀奈が屋敷にいる間は簪や美紀も年相応にはしゃいでいた。

 だが刀奈が合宿に戻り、一夏と虚も再び忙しそうにしていると、自然に大人しくなってしまい、三人は特にする事もなく部屋で過ごしていたのだった。

 

「かんちゃん、これってどういう意味?」

 

「少しは自分で考えなよ……」

 

「だって~!」

 

 

 今日も今日とてする事もなく、簪と美紀は既に宿題を済ませていたのだが、本音は相変わらず時間がかかっていた。そして自力では解く事の出来ない問題も多く、簪に解説を求める事が多かった。

 

「刀奈お姉ちゃんも最終選考まで残ってるし、虚さんも一生懸命ISの知識を得てるのに、本音ちゃんは相変わらずだね」

 

「なんだよ~! 美紀ちゃんだって、テストでは私とそれ程点数変わらないじゃないか~!」

 

「本音、二十点も違ったら大分違うと思うけど……」

 

 

 先日の算数のテスト、美紀は日ごろの努力が実を結びそれなりの点数を取る事が出来たのに対し、本音は何時も通りの点数だったのだ。美紀はそれに驕ることなく努力を続けているが、本音は焦ることなく怠惰に過ごしているのだ。

 

「そのうち一夏に怒られるからね」

 

「いっちーは私の構ってる暇なんてないから、怒られる心配は無いよ~」

 

「さて、それはどうでしょうね」

 

 

 不意に簪でも美紀のでも無い声が本音の耳に届いた。顔を見なくても、気配を感じる事が無くても聞き間違える事の無いその声の持ち主に、本音は身を縮込ませたのだった。

 

「この点数、いったいどういう事なんですか?」

 

「えっと……頑張ったんだけどね~……てへ?」

 

「今から夜まで付きっきりで勉強を見てあげますから、すぐに部屋に行きますよ!」

 

「おね~ちゃん!? 夜までって長いよ!」

 

 

 虚に引き摺られていった本音を、簪と美紀は手を合わせて見送った。自業自得とはいえ、虚に見つかったのは不運だと、簪も美紀も思っていたからだ。

 

「美紀は随分と頑張ったようだな」

 

「あっ、一夏さん……日ごろから頑張った成果が漸くって感じですけどね」

 

「ところで一夏、今日はもう良いの?」

 

 

 何時もならまだ研究所に篭っている時間なのに、この部屋に現れた一夏に簪は不思議そうな眼差しで問い掛けた。

 

「一通りは出来たからな。後は細部をどうするか、ってだけだからな。当分は篭る事は無くなるだろうな」

 

「本当!? じゃあ一夏も一緒に遊ぼうよ」

 

「そうだな……偶にはそうするか」

 

 

 年相応に遊ぶ事もしていない一夏は、少し考えてから簪の提案を受ける事にした。ゲームの類はあまりやった事の無い一夏だったが、簪や美紀相手でも後れを取る事は無く、勝てないにしても無様に負ける事も無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室でのんびりと時間が過ぎるのを待っていた一夏の許に、鈴が駆け寄ってきた。割かし何時もの事なので、一夏は気にしなかったのだが、鈴が広げた新聞に見知った名前があったので興味を示したのだった。

 

「候補生確定?」

 

「まだ最終判断はされて無いようだけど、この人で確定だって世間は言ってるわよ」

 

「何を根拠に言ってるんだか」

 

 

 新聞に書かれていたのは『更識刀奈、最年少で代表候補生に』という見出しの記事だった。内容を見ると、特に何かしらの根拠があるわけでも無く、憶測の記事である事が分かったが、一夏の中でも刀奈で候補生は決まりだろうなと思っていたのだった。

 

「この更識って人、一夏の知り合いなんでしょ?」

 

「更識家の実子だ。戸籍上は俺の姉、って事になってる人だけど、実際は普通に友達のような感じだな」

 

「アンタの実姉はこの織斑姉妹でしょ。記憶は無くても間違いなく血縁関係なんだから」

 

 

 検査をしたわけでもないのに自信満々な鈴だが、一夏と織斑姉妹は顔立ちがそっくりなのだ。目元や鼻筋など、どう見ても姉弟だろうと判断出来るくらいにそっくりなのだ。

 

「そっか、刀奈さんが候補生で確定なら、そろそろIS製造も忙しくなるな」

 

「更識は独自にコアを造ったり出来るんだっけ? その技術を公表しなさいよ、って言いたいわね」

 

「独占市場をわざわざ明け渡すとは思えないが?」

 

 

 更識の造る訓練機用のコアも、余所が造るコアとは一味も二味も違う出来になるので、何処の国でも訓練機は更識制を採用しているのであって、一夏の言うように独占市場状態なのであった。

 

「そのおかげなのかは知らないけど、更識企業の株価は上がりっぱなしだものね」

 

「鈴……お前株なんてやってるのか?」

 

「ウチの親がね。中華料理店だけじゃやってけないとか言って……」

 

「つまり、更識がこけると、そのまま鈴の家庭にダメージが及ぶって事か……」

 

「こ、怖い事言わないでよ」

 

 

 実際一夏の匙加減一つで変わってしまう家庭は鈴の家だけでは無いだろう。もし一夏が束のように消息を晦ませたら、いったいどれだけの家庭が崩壊に追い込まれるのだろう、そんな考えが一夏の頭をよぎったが、それを実行に移すつもりは無かった。

 

「それよりも、アンタ最近付き合い悪いわよ。偶には一緒に遊びなさいよ」

 

「そうだな……ここ最近は落ち着いたし、偶には鈴に付き合うとするか」

 

「そう決まったら早速今日出かけるわよ! 近所に怪しい屋敷があるんだけど、探索に行ってみましょう!」

 

「子供かよ……って、小学五年は子供か」

 

「あんた、大人の中で生活してるから擦れてるんじゃないの?」

 

 

 本気で心配そうな顔を見せた鈴に、一夏は苦笑いを浮かべるのだった。




悪友関係が築き上げられていく……

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