復学初日、ダリルは特に問題なく午前中を過ごしていた。
「何で貴女がクラスメイトになってるのかしら?」
「一応復学は認められましたが、全面的に信用されているわけではないと理解しているはずですよね? 私は貴女の監視として一夏さんに任命されました。そして、私がクラスを動くわけにはいかないので、貴女が私のクラスに再編入させられたわけです」
「よりにもよって、貴女が私の監視とはね……いっそのこと一年からやり直しで、更識君にでも監視されたかったわよ」
「一夏さんに何かしようとすれば、我々更識関係者と、織斑姉妹が黙っていませんよ」
かなり本気の目でダリルを睨む虚に対して、ダリルは何処かふざけてるような雰囲気で答えた。
「怖い怖い……せっかく自由になれたっていうのに、好き好んで面倒事なんて起こさないわよ」
「そうだと良いのですがね」
「せっかく専用機の所有権まで認めさせてくれたっていうのに、その恩を仇で返すほど落ちぶれてはないわよ」
アメリカ相手に交渉する事が、どれほど大変かをある程度理解しているダリルは、一夏の苦労を無駄にはしないと宣言し席へ戻っていった。
一方、こちらも復学初日の午前を過ごしていたフォルテは、クラスメイトからの視線に耐えられなくなってきていた。
「やっぱり注目されてるわね」
「仕方ないですよ……私は一度、亡国機業に与したんですから」
「うーん……それだけで注目されてるわけじゃなさそうだけどね」
「? それ以外に何が……」
「ほら、前はフォルテちゃんとダリル先輩との関係は公になってなかったけど、今回の騒動で知られちゃったからかな」
刀奈の言葉の意味を理解するのに時間が掛かったが、言葉の意味が自分の中に浸透していくのと同時に、フォルテは羞恥に顔を染め上げた。
「つまり……私とダリルとの関係がバレたから、これだけ注目を集めているの?」
「たぶんね。まぁ、そのうち飽きるでしょうから、しばらくは我慢する事ね」
刀奈としては、見られることになれているからこそのアドバイスだったのだが、フォルテはそう簡単に割り切れなかった。
「何で、私たちの関係がバレちゃったの……」
「そりゃ、貴女が母国か恋人か迷った末に恋人を選んだからでしょ? 二人が学園からいなくなった際に、そう説明したんだから」
「何で言っちゃったの!?」
「いきなり生徒が二人もいなくなったら、周りが不安になっちゃうからって……それに、一部では貴女たちの関係は噂されていたんだから、今更でしょ」
「そういう問題じゃないわよ」
これからも好奇の目曝されるのかと思うと、フォルテは復学した事を後悔したのだった。
昼休みになり、ダリルとフォルテは虚と刀奈に連れられて、一年の食堂にやって来ていた。
「何で一年の食堂に? 別に入っちゃいけいないって決まりは無いんだろうけども」
「貴女たちは監視される立場なんですから、私たちに合わせてもらうのは当然です」
「それに、ここなら貴女たちに話しかけてこようなんて思う人はいないでしょうし」
「……もう、死にたい」
様々な反応を見せながらも、四人は一夏たちがいる区画にやって来た。
「何だか疲れてるようですが……大丈夫ですか?」
「私は別に大丈夫よ。でも、フォルテの疲労感は半端ないわね……何があったのよ」
ダリルに問われ、フォルテは泣きそうな顔を上げて事情を説明した。
「なるほど、それでここに来る途中好奇の目を感じたのね」
「ダリル先輩は気にしてないみたいですね」
「周りがどう思おうが関係ないもの。それに、更識君だって言ってたじゃない?」
「何か言いましたっけ?」
「『愛の形は人それぞれ』だって」
「あぁ、言いましたね。だってその通りだと思ってますから」
一夏としては、行き過ぎなければダリルとフォルテが――もっと言えばスコールとオータムが何をしようと注意するつもりは無い。もちろん、物を破壊したりなどすれば、相応の罰は与えるつもりだが、それ以外は過干渉しようとは思っていないのだ。
「今は復学したてで目立ってるだけでしょうけども、そのうち関心も薄れると思いますよ」
「私は、ダリルや更識君のように強くないのよ……好奇の目に曝されてるだけで、恥ずかしくて堪らないの」
「なら、全校集会で注意しましょうか?」
「そこまで大げさにされたくないかな……」
一夏や刀奈が全校集会で発言すれば、恐らく今のような目は向けられなくなる。だが、それは噂を事実だと認める事と同義であるとフォルテは思っているのだった。
「ならいっそ、公衆の面前でいちゃついてみる?」
「さすがにそれは注意させてもらいます」
「女同士のスキンシップ程度よ? 更識君は何を想像したのかしら?」
「貴女が言うスキンシップがどの程度かは知りませんが、堂々とされてはこちらも困りますので」
「少しくらい焦ってくれてもいいじゃないの……つまらないわね」
「あまり一夏さんにちょっかいを出すのでしたら、容赦しませんよ?」
一夏とダリルの間に割って入るように虚が会話に加わり、ダリルに鋭い視線を向ける。
「怖い怖い、本当に愛されてるわね、更識君は」
「俺にはもったいない人たちですけどね」
特に照れもせずに言う一夏に、ダリルは年上の余裕から笑みだけを返したのだった。
一夏が言えば全校生徒は従いますけどね……