暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏と束を相手にしなければいけない、アメリカの不幸……


アメリカの不正記録

 ダリルとフォルテが清掃作業から解放されたと知ったオータムは、とりあえず自由を得た二人に声を掛けた。

 

「良かったな」

 

「ええ。これであの地獄のゴミ拾いから解放されるわ」

 

「そっちかよ……これで復学出来るんだろ? お前たちは学生だもんな、まだまだやり直せるだろ」

 

「そんなこと言っても、卒業後は更識君にこき使われるのが目に見えてるんだけどね」

 

 

 進路を選ぶ自由など無いと、ダリルもフォルテも自覚している。だが卒業後に更識に就職など、他の人間から見れば羨ましい事この上ない進路だった。

 

「普通なら更識企業に就職なんて、バラ色の人生が待ってるはずなんだけどね」

 

「危険地域の調査とか、そんなことばっかやらされるんだろうしな。まぁ、自業自得だと諦めるんだな」

 

「貴女からそんな言葉が出て来るとはね……まぁ、実際自業自得だから仕方ないんだけど」

 

「オレたちは新武装のテストなどの相手だろうな……外に出られねぇかもしれないと思うと、今からストレスが溜まってくるぜ」

 

「貴女たちの戦闘技術があれば、候補生たちの訓練相手とかも出来るんじゃないの?」

 

 

 実際今も、放課後などを使いスコールとオータムは代表候補生の訓練相手を務めている。この間の対織斑姉妹戦から、更識所属以外の候補生たちも相手にすることになったのだった。

 

「私たちも織斑姉妹に勝てないって分かったからだと、一夏は言っていたけどね」

 

「てか、あの人外に勝てるヤツなんているのかよ?」

 

「同じ人外なら、あるいは……って感じよね」

 

「更識君がお説教とかしてるって噂は聞きますけどね」

 

 

 フォルテの何気ない一言に、オータムは腹を抱えて笑い出した。

 

「あの人外共、一夏に怒られてるのかよ。おもしれー」

 

「私たちが掃除しなきゃいけなくなった原因も、織斑姉妹だしね」

 

「織斑家の女は家事無能なのよ、Mも織斑マナカも、きっとそうでしょうしね」

 

「つまり、更識君がいなければ、織斑姉妹はまともに成長出来てたかどうかも分からないのね」

 

「今がまともだとは思わねぇけどな」

 

 

 オータムの言葉に、スコールもダリルも笑いながら頷いて同意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 復学の手続きを全て済ませ、一夏は生徒会室で一息ついていた。

 

「お疲れ様です」

 

「確かに疲れた……」

 

「アメリカ政府はしつこかったですからね」

 

 

 ダリルとフォルテの復学の手続きの際、ギリシャ政府はすぐにフォルテの専用機の所有権を放棄し、更識に譲渡する事を認めてくれた。それも当然の反応で、ギリシャは既に更識製の専用機を持った新たな代表が誕生しているのだ。

 だが、アメリカ政府はそうはいかない。ただでさえ亡国機業に嵌められて世界的にマズい状況なのだから、戦力は少しでも多く欲しい。そんな時にダリルの専用機の所有権を放棄してほしいと言われて、はいそうですかで済むはずがない。

 

「いくらゴネようが、こちらにはいくらでもアメリカ政府の不正データがあるからな。それをちらつかせれば大人しくなるしかなかったようだが」

 

「何処から手に入れたんですか?」

 

「亡国機業穏健派が持っていたデータファイルをハッキングしたら、こんなものが出てきただけだ。意図して手に入れたわけではない」

 

 

 データファイルを覗き込んだ美紀は、そのあまりにも酷い不正に嫌悪感を示した。

 

「政治資金の不正使用に罪もない人たちから土地を巻き上げ、その土地を使ったマネーロンダリング、ISデータの改竄……ナターシャさんの殺害計画まであるんですか!?」

 

「これでも氷山の一角だからな……全て片付いたらアメリカ政府を叩き潰す余裕も出て来るかもしれない。その時は派手にやってやるか」

 

「ティナさんも亡命の準備をしてるようですし、そうなればアメリカに知り合いはいなくなりますから、私たちもお手伝いしますよ」

 

 

 自分の発言が過激になっていると、美紀は重々自覚している。だが、それくらいアメリカ政府の事を許すことが出来ないと思っているのだ。

 

「まぁ、今は目の前の敵に集中しないとな」

 

「亡国機業過激派、織斑マナカ……」

 

「束さんでも足取りがつかめない程の実力者、篠ノ之箒から足がつかないかと期待してたんだが……上手く立ち回ってるようだしな」

 

「穏健派メンバーを殺害したのは、篠ノ之箒のサイレント・ゼフィルスで間違いなさそうですし、先に残りの穏健派メンバーを探し出す事が出来れば、篠ノ之箒を捕まえる餌に出来るかもしれません」

 

「餌ねぇ……殺させるのは避けたいが、確かに有効な手段だよな」

 

 

 暗部の人間として、人の命を軽んじてるわけではない。だが、犯罪組織の人間の命を、他の人の命と同列視するほど、一夏たちは慈悲深くなかった。

 

「これだけ殺めたんですから、篠ノ之箒は更識でも救いようがないですね」

 

「アイツも、更識に関わるのは御免だろうし、これで良かったのかもしれないな……現実世界から決別し、何処かの独房で最後を待つ」

 

「というか、あの人は反省するのでしょうか?」

 

「……分からん」

 

 

 箒の性格を分析し、恐らくは反省しないだろうと結論付けて、一夏と美紀は生徒会室から部屋へと戻るべく、腰を上げて生徒会室を後にしたのだった。




ハッカーとしても、一夏と束は超優秀ですしね……

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