暗部の一夏君   作:猫林13世

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汚れの原因が二人だけですので、頑張ればこのくらいで終わるでしょうし


清掃完了

 自分が使っている衛星に他者が介入しようとしているのに気づいたマナカは、その相手を特定すべく必死になっていた。

 

「私が簡単に特定出来ないとなると、だいたい誰か分かるんだけどね」

 

 

 マナカは自分の能力を過信しているわけではない。だが、客観的に見ても自分はかなりの技術力を有していると思えるほどの実績がある。その実績を元に分析すると、自分より高い技術力を有している人間は、本当に僅かしか存在しないと言う事を知っている。

 

「お兄ちゃんか、篠ノ之束か……お兄ちゃんが衛星に干渉してる様子は無いし、篠ノ之束で決まりかな」

 

 

 一夏の事は二十四時間、三百六十五日観察しているので、もし衛星に干渉しているのが一夏だったら最初から分かるのだ。だがマナカが見てた限りでは、一夏が衛星に干渉しようとした形跡はない。だから消去法で束が犯人であると分かってはいるのだが、一応答え合わせも兼ねて干渉している相手を特定しようとしているのだった。

 

「入るぞ」

 

「入ってから言わないでくれる?」

 

「別に良いだろ。独立派の残りは見つかったのか?」

 

「巧妙に逃げてるようで、なかなか監視衛星に引っ掛からないのよね」

 

「別に手段は無いのか?」

 

「人手が無いんだから、無理言わないでよ。こっちだって色々と忙しいのよ」

 

「一夏の監視でか?」

 

 

 モニターに映し出されているのは、ほぼ一夏だ。端っこのモニターの幾つかは本当に世界中の映像が流れているが、それ以外のモニターのすべては一夏が映し出されている。

 

「私の目的はお兄ちゃんを取り戻す事なんだから、お兄ちゃんを見てるのは当然でしょ? それ以上に大切な事なんてこの世に存在しないんだから」

 

「狂気すら感じるな……お前、一夏を手に入れてどうしたいんだ?」

 

「変な質問ね。一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たり、一緒にお買い物に行ったり一緒にご飯食べたり、普通の兄妹がするようなことをしたいだけよ」

 

「前半二つは、普通の兄妹はしないと思うがな」

 

「世間一般の常識なんて、私には関係ないし、貴女だって気にしないでしょ?」

 

「まぁ、そうかもしれんが……」

 

「暇なら、IS学園で暴れてきても良いわよ? ただし、お兄ちゃんに怪我なんてさせたら……楽に殺してなんてあげないから」

 

「例え暇でもあの場所を一人で襲撃するなんて事はしないさ。あそこには織斑姉妹や小鳥遊碧など、名だたるIS操縦者がいるからな」

 

 

 さすがの箒でも、猛者揃いのIS学園に単身乗り込むなどという自殺行為はしたくないのか、マナカの提案を断った。

 

「なんなら、この無人機たちを連れて行っても良いわよ」

 

「整備士がいないからな。万が一の事があったらサイレント・ゼフィルスを使えなくなってしまう」

 

「貴女でも一応考えてるのね」

 

 

 てっきり脳筋だと思っていたマナカは、箒への評価を少し改める事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の敷地内の掃除を初めて数日、ダリルとフォルテはようやく見えてきた終わりにホッと息を吐いた。

 

「長かったわね」

 

「そうですね。織斑姉妹が散らかしたものを片付けていたと思うと、なんだか悲しいですが、これで復学も出来ますし、この広い敷地内を掃除する事からも解放されるのかと思うと、なんだかホッとします」

 

「復学の手続きは、更識君がしてくれてるみたいだし、専用機も更識君のお陰で没収される事なく使い続ける事が出来るみたいだしね。更識君には頭が上がらなくなるわね」

 

「最初から更識君には頭が上がらないと思いますけどね……私とダリルの関係も黙認してくれてますし、普通ならこんな軽い罰で済むはずないのに、更識君が交渉してくれたからこの程度で済んだんですから」

 

「あの布仏が大人しく従うわけが分かるわよね、ほんと……さすがは更識の次期当主様よね」

 

 

 最近ではお喋り程度では怒られなくなったので、ダリルもフォルテもお喋りをしながら掃除を進めている。もちろん、掃除の手が止まれば無人機から報告を受けて碧がこの場にやってくるのだが、最近では碧が監視に来ることも無くなり、ある程度は信頼されたのかもと思っているのだった。

 

「復学したとしても、私たちは同級生から冷たい目で見られるんでしょうけどもね」

 

「そんなことは覚悟してるのではないのですか? そもそも、私は同級生に知り合いなど殆どいなかったですし」

 

「まっ、それは私もなんだけどね」

 

 

 ダリルもフォルテも、学校行事などをサボり気味だったので、同級生との間に溝が出来ていた。知り合いが少ないのが功を奏すのかは復学して見なければ変わらないが、親しかった友人が余所余所しくなる、という事は無いのでとりあえずは安心しているのだった。

 

「お疲れ様です。お二人のお陰で大分綺麗になりましたね」

 

「敷地内の掃除がこれほど大変だとは思わなかったわ」

 

「これで、私たちは復学出来るんですか?」

 

「とりあえずは、ですかね。もちろん、何か問題を起こしたらさすがに庇えませんから、そのつもりで」

 

「分かってるわよ」

 

「あぁ、部屋はそのままで結構ですし、あまり度が過ぎなければ文句もつけませんので」

 

「更識君は私たちの行為を覗き見したいのかしら?」

 

 

 ダリルの意地悪な質問にも、一夏は素面で答える。

 

「部屋の監視なんてしませんよ。それとも、監視されたいのですか?」

 

「ううん、そんな訳ないわよ」

 

 

 こうやって冗談を言い合えるようになったのも、自分たちが反省してると判断されたからだろうと、ダリルは思っていた。

 こうして学園敷地内の掃除を終えたダリルとフォルテは、恩赦として復学が認められたのだった。




箒も少しは考えてるんだな……本当に、少しだけですが

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