暗部の一夏君   作:猫林13世

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やはり狂ってる……


箒の考え方

 一夏に部屋に呼ばれ、スコールとオータム、そしてダリルの三人は何の用かと首を傾げながら部屋に入ってきた。

 

「早速で悪いが、穏健派と呼ばれていた集団は、専用機などのIS戦力は有していなかったんだよな?」

 

「そのはずよ。でも、それがどうかしたの?」

 

「穏健派一派と思われる集団が、何者かの襲撃を受けて壊滅した、と報告を受けたからな。穏健派の戦力の確認と三人にも教えておこうと思っただけだ」

 

 

 淡々と告げる一夏ではあったが、内心は穏やかではなかった。穏健派集団はいずれ、更識に取り込もうと思っていただけに、その計画に狂いが生じた事で新たな人員を何処から確保するか、穏健派を壊滅に追いやったのは何処の誰か、と様々な思考を巡らせていた。

 

「壊滅って言ってたが、全員死んだのか?」

 

「穏健派の構成員がどれだけいたか分からないから、全員とは言い切れないがな。少なくともその場所にいたと思われる穏健派メンバーは全員、一人残らず殺されていたらしい」

 

「織斑マナカの無人機ではないの? 私は詳しくは知らないけど、穏健派を潰すなんてこと、あの織斑マナカぐらいしかしないと思うわよ」

 

「攻撃に法則性が無かったですし、無人機に積んでない武装で攻撃した痕が発見されているので、少なくとも今までの無人機ではない事が確定しています。新たに造った無人機なのか、それとも人間の手で操作されたISなのかは、現在調査中です」

 

「そうなってくると、SHのヤツなんじゃねぇか? アイツなら人を殺る事に躊躇わないし、暴れる事が好きそうだったからな」

 

 

 オータムの分析に、スコールも同意を示した。

 

「確かにSHなら、裏切りものと言われれば容赦なく殺すでしょうし、他人がいくら苦しもうが気にしない感じだったからね」

 

「一応容疑者として篠ノ之の名前は上がっている。死体の傷跡からサイレント・ゼフィルスの武装と合致するかどうかも検証しているから、いずれ分かるとは思うがな」

 

「殺人となると、いよいよ篠ノ之さんは国際指名手配されますね」

 

 

 美紀の考えに、一夏は微妙な表情を浮かべた。

 

「何か問題でもあるのでしょうか?」

 

「いや……確かに篠ノ之箒の犯行だと断定されれば、これは許されない行為だろう。だが、穏健派とはいえ国際犯罪組織の人間だ。世界的脅威を取り除いたと判断されるかもしれない」

 

「そんなことがあり得るのでしょうか?」

 

 

 マドカの疑問に、一夏は全員が知っている事実を告げる。

 

「アイツは篠ノ之束の妹という立場だからな。何処の国もアイツをぞんざいに扱う事を避けたいだろうし、束さんがアイツに興味が無くなってきてる事を知っているわけでもないからな。特例が認められる可能性は十分にある」

 

「人を殺っても許されるって、羨ましい特権だぜ」

 

「世界が許しても更識は許しませんよ。もし篠ノ之箒の犯行だと断定できれば、どのような手を使ってでも彼女を追い詰め、罪を償わせます」

 

「あのSHが反省するかしら」

 

「別に償わせる方法はいくらでもありますし、反省しないのであれば、束さんに人体実験の道具として差し出せばいいだけですし」

 

 

 物騒な事を平然と言ってのける一夏に、亡国機業の三人は引き攣った笑みを浮かべるしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一仕事終えた箒は、一応上司と言う事になっているマナカに報告に行くために、本拠地にあるマナカの研究所を訪れていた。

 

「おい、頼まれた穏健派の掃除、終わったぞ」

 

「しっかりと確認したわ。どう? リハビリの経過は」

 

「悪くないな。あの場にいなかった連中の捜索はどうなっている?」

 

「ちゃんと進んでるから心配しないで。それより、良く顔色一つ変えずに人を殺める事が出来るわね貴女」

 

「私は別に人を殺してきたわけではない。ゴミを片付けてきただけだ」

 

「なるほど、貴女も思考が逝かれてるのね」

 

 

 不敵な笑みを浮かべるマナカに、箒は無言で右手を差し出す。

 

「お前が言った通りにしてきたんだ。報酬を寄越せ」

 

「あらあら、貴女のリハビリとストレス発散の為にお願いしたのに、報酬まで要求されるとはね……じゃあ、私の秘蔵コレクションから、お兄ちゃんの全裸体がバッチリ写ったこの写真をあげるわ」

 

「これは……つい最近の一夏ではないか! どうやって手に入れた!?」

 

「さて、どうやってでしょうね」

 

 

 適当にはぐらかして、マナカは箒を部屋から追いやる。十分に気配が遠ざかったのを確認してから、マナカは監視衛星を作動させ残りの穏健派メンバーの捜索と並行して、一夏の監視を再開した。

 

「あんな女にお兄ちゃんの全裸を見せるのは癪だけど、あれくらいじゃないと満足しなかっただろうしね……ゴメンね、お兄ちゃん。でも、本当に大事な部分は見えないように加工しておいたから怒らないでね」

 

 

 映像の中の一夏は、難しい顔をしながら各方面へ指示を出している。音声までは拾えないが、マドカにとって一夏が何を指示しているかは大事ではなかった。

 

「この表情のお兄ちゃんも素敵……あぁ、お兄ちゃんが私を捕まえようと必死になってくれてる……」

 

 

 都合の良い考え方をして、マナカはモニターにキスをする。

 

「何時かは直にキスしてあげるからね、お兄ちゃん」

 

 

 マナカは笑っているように見えるが、第三者がその笑みを見たら、きっと恐怖しただろう。そんな笑みを浮かべていたのだった。




どんな報酬だよ……

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