暗部の一夏君   作:猫林13世

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姉を怒る弟の気持ち……


一夏のカミナリ

 模擬戦を終えた織斑姉妹は、ピットで出迎えてくれた一夏に勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「見てたか、一夏! 私たちの戦い方を」

 

「これで、アイツらが何か企んでたとしても、お姉ちゃんたちがぶっ潰してやるからな!」

 

 

 きっと褒めてくれるに違いない。そう確信していた二人だったが、一夏の表情は険しいものだった。

 

「何かあったのか?」

 

「何もないと思っているのが問題です」

 

「どうしたというんだ。今回はわたしたちは何もしていないはずだぞ」

 

 

 千夏が言った通り、二人には怒られる覚えが無い。普段なら一つや二つくらいすぐ出て来るのだが、今回に関しては心当たりが全くないのだ。

 

「何もしていない? この画像を見てもそんなことが言えますかね」

 

 

 そう言って一夏が端末から呼び出した画像を、モニターに表示する。そこに映っているのは、資源ごみを回収場所に出さず、裏庭に隠すように捨てる二人の姿だった。

 

「ゴミは回収場所に出すよう、あれほど言ったはずですのに、これはどういう事でしょうか?」

 

「これは…その……」

 

「資源ごみだけではなく、可燃ごみや不燃ごみも同じように処理してますよね?」

 

「こ、これからはちゃんと回収場所に出す」

 

「なに当たり前な事を偉そうに言ってるですか、貴女たちは!」

 

 

 一夏が落としたカミナリに、織斑姉妹だけでなく護衛の美紀とマドカまでもが背筋を伸ばした。

 

「貴女方が回収場所に持って行かなかったゴミは、敷地内に生息する野生動物や鴉によって散らかされ、業者でも手が負えないくらいになっています」

 

「それはわたしたちの所為なのか? 散らかったのはわたしたちが原因ではないぞ」

 

「その原因を作ったのは貴女たちでしょうが!」

 

 

 言い訳をする千夏に、一夏はもう一発カミナリを落とした。実際に雷が発生した訳ではないのに、千夏は電撃を浴びせられた錯覚に陥った。

 

「貴女たちが原因で散らかったゴミは、ダリル先輩とフォルテ先輩に片づけてもらっています。本当なら違う罰を課すつもりだったのですが、あまりにも目に余る汚さだったので、これを罰としました」

 

「なら、散らかってて良かったではないか」

 

「良いわけないでしょうが!」

 

 

 本日三発目のカミナリが、千冬に落とされる。護衛としてこの場にいるのが嫌になるくらいの迫力に、美紀もマドカも圧倒されていた。

 

「さっきの模擬戦だって、本当なら貴女たちがやられてくれた方が良かったのに」

 

「私たちがあの程度の奴らに負けるはずがないだろうが」

 

「そもそも亡国機業の連中に後れを取るような鍛え方はしてないからな!」

 

「……反省の色無し。織斑千冬、千夏両名の向こう三ヵ月の給料はカットしてもらいましょう」

 

「「それだけは勘弁してください!!」」

 

 

 武力行使が不可能と判断した一夏が下した判断に、織斑姉妹はそろって土下座をしたという……

 

「兄さまには姉さまたちでも敵わないのですね……」

 

「実質学園のトップですからね……」

 

 

 最強姉妹の土下座を見て、マドカと美紀はそんなことを思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 存分に暴れられて満足したのか、オータムは大人しく部屋でポータブル版のVTSを操作していた。

 

「あれだけ文句言ってたのに、結局は使ってるのね」

 

「たまに動けると分かれば、これで我慢出来るってもんだぜ」

 

「貴女って本当に現金ね」

 

「負けたのは気に入らねぇが、あの二人と定期的に出来ると思うと、ポータブルとはいえ馬鹿に出来ねぇだろ?」

 

「私は出来る事ならもう戦いたくないけどね……枷が付けられててあの強さ……敵と考えると脅威でしかないわよ」

 

 

 事前に一夏が織斑姉妹の専用機に細工しておいてくれたから、互角程度の闘いが出来たのであって、制限なしで戦えと言われて勝てる相手ではないと、スコールは改めて実感したのだった。

 

「織斑姉妹だけじゃなくて、この学園には小鳥遊碧もいるだろ? いつかアイツともやってみてぇぜ」

 

「戦闘狂と揶揄されてただけの事はあるわね」

 

「別に何と言われようがきにしねぇし、戦いの世界で生きてきたからな。この快感は病みつきだぜ」

 

 

 オータムが満足してるので、スコールもとりあえずはホッと胸をなでおろした。そのタイミングで、この部屋の前に人の気配が生まれ、二人は即座に緊張感を取り戻したのだった。

 

「誰かしら?」

 

『私たちよ、スコール。ちょっといいかしら?』

 

「レイン? 開いてるから構わないわよ」

 

 

 レイン・ミューゼルことダリル・ケイシーの訪問に首を傾げながらも、スコールは部屋に招き入れた。

 

「何かあったのかしら?」

 

「織斑姉妹とやり合ったって聞いてね。感想を聞きたいなと思っただけよ」

 

「まともにやり合うだけ馬鹿らしいくらいの実力差を感じたわ。一夏が向こう側に枷をつけてくれたから、今回は怪我無く終わったけど、制限なしで戦ったら瞬殺されてもおかしくないわ」

 

「その二人の尻拭いをやらされてると思うと、なんだか泣けてくるわね」

 

「何かあったのか?」

 

 

 ダリルだと分かった途端に緊張感を解き、ポータブル版のVTSをベッドに転がりながら操作していたオータムが、ダリルに問いかけた。

 

「回収場所まで持ってくのを怠ったゴミが、野生動物たちの所為で散らばってしまったのよ。それを片付けるのが私たちの罰なんだって」

 

「織斑姉妹は家事全般がダメだという噂がありましたが、まさかそれが事実だったとは思っても見ませんでした」

 

 

 フォルテのコメントに、ダリルとスコールは苦笑いを浮かべたのだった。どうやらフォルテの中の織斑姉妹は、世間一般のイメージと同じだったのだと理解したからだと、笑われたフォルテには理解出来なかった。




減給はさすがに困るんでしょうね……

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