暗部の一夏君   作:猫林13世

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策士としても超一流


一夏の狙い

 学園中が騒がしくなっている事に気付いた刀奈は、原因を突き止めるために簪と本音を探していた。

 

「お姉ちゃん、何してるの?」

 

「何だかみんなそわそわしてる気がしてね。簪ちゃんたちなら何か知ってるんじゃないかって思って」

 

「刀奈様聞いてなかったんですか~? これから第一アリーナで織斑姉妹VSスコール・オータムペアが模擬戦を行うんですよ~。いっちーが亡国機業二人の専用機の枷を外したから、かなり白熱した試合になるんじゃないかって学園中で話題になってるんですよ~」

 

「そうだったんだ。じゃあさっそく――」

 

「ダメですよ、お嬢様。お嬢様はこの昼休みの間に溜まった仕事を少しでも片づけていただかなければいけませんので」

 

 

 第一アリーナに駆け出そうとした刀奈の襟首を、虚が掴み生徒会室へと引き摺って行く。

 

「待って、虚ちゃん! 首が! 締まるから! 自分で歩けるから!」

 

「お嬢様を自由にすると、すぐどこかに行ってしまいますから。このまま生徒会室まで連行します」

 

「いや~! 助けて、簪ちゃーん! 本音ー!」

 

 

 虚に引き摺られていく刀奈を、簪と本音は無言で見送り、何事も無かったかのように会話を再開した。

 

「ところで、本音は一夏の護衛じゃなかったの?」

 

「模擬戦の間だけ私じゃなくマドマドが美紀ちゃんと一緒にいっちーの護衛を担当する事になったんだよ~」

 

「……最近、私と美紀が一夏の護衛をすることが多い気がするけど、本音って何時担当してるの?」

 

「ほえ? ん~……最近はあまり担当してないかな~。周辺警備とか、そっちの方を担当する機会が多くなってきたから」

 

「そうなんだ」

 

 

 本音の実力は簪も認めているが、一夏の護衛としては信用出来ないので、この人選は正しいと感じていた。本音一人が護衛だと、どうしても何か失敗するのではないかと不安になる時があるのだ。

 

「それに、私はかんちゃんのメイドさんだからね~。こうして一緒にいて警護するのもお仕事なのだ~」

 

「まぁ、それは兎も角として、私たちも第一アリーナに行こうよ」

 

「そうだね~。織斑姉妹にどれだけ喰い付けるのか、見てみたいしね~」

 

「一夏の事だから、ストレス解消以外の目的もきっとあるだろうし、それが何なのか知りたいしね」

 

「よーし! 出発だ~!」

 

 

 このタイミングで、簪は本音も生徒会役員であることを思いだしたが、彼女が手助けに行ったところで、刀奈が解放される事は無いと思い、その事は指摘せずに第一アリーナへと向かう事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白熱した模擬戦を観戦していた生徒全員は、亡国機業の二人に対する恐怖心を忘れ、善戦する二人に声援を送っていた。

 

「これが一夏君の目的かしらね」

 

「どういうことです?」

 

 

 多分に漏れず観戦に来ていた静寐が呟いた言葉に、香澄が首を傾げながら尋ねる。

 

「模擬戦が始まる前は、亡国機業の二人に対して私たちは恐怖心を抱いていたはずよ。それが今はその二人を応援しているの。あれだけ怖がってたんだから、織斑姉妹にコテンパンにやられる姿を見たがってた人も絶対にいるはずよね。それが、一丸となって亡国機業の二人を応援しちゃってる」

 

「つまり、一夏さんの目的は彼女たちのストレス発散と共に、私たちに彼女たちに抱いていた恐怖心を捨てさせることだったのですか?」

 

「真意は分からないわ、一夏君に聞かなければ。でも、これだけ応援すれば試合が終わってもまた恐怖心を抱く事はほぼ無いでしょうし、彼女たちも織斑姉妹に勝てないんだと分かれば、必要以上に恐怖する必要も無いって分かるでしょうからね」

 

「なるほど、一夏さんの考えてる事って凄いんだね~」

 

「あらエイミィ、来てたのね」

 

 

 静寐の推察を盗み聞きしていたエイミィがひょっこりと顔を出した。静寐も香澄も驚いた様子も無く、普通にエイミィを出迎えたので、ちょっとした肩透かしを受けたような表情をエイミィは浮かべた。

 

「もっと驚くかと思ってたのに」

 

「エイミィさんが来るのは、久延毘古で予知済みですから」

 

「下手に情報を掴まれると、香澄を驚かすのは不可能になるのね……」

 

「織斑マナカさんの登場を予測出来なかったので、精度を上げるためにこの機能を使ってますからね」

 

「そのせいで、ほぼ常時疲れてる感じがしてるけどね」

 

「かなり体力使うんですよ、これ」

 

 

 警戒は無人機と更識所属の中でも上位の人間がしてくれているので、香澄は自分の能力の底上げに集中出来るのであった。

 

「面白そうな機能だけど、私には使えそうにないな~」

 

「エイミィ、意外と体力無いものね」

 

「平均くらいはあるんだけど、それじゃあ全然足りないでしょ?」

 

「更識所属のメンバーの平均なら問題ないでしょうけど、IS操縦者の平均じゃ全然よ。その倍くらいあって漸く更識所属の平均くらいなんだから」

 

「のほほんとしてる本音さんですら、私たちより体力ありますからね」

 

「頭脳派だと言われている一夏君や簪さんだって、私たちより遥かに体力あるものね」

 

「更識所属ってだけで、かなりハードルが高くなってる気がするんだよね……周りの目もそういう感じだし」

 

「それだけ期待されていると言う事でしょうね」

 

 

 静寐がそう締めくくったタイミングで、模擬戦終了のアナウンスが流れた。善戦していたが、やはり織斑姉妹が力で押し切り、スコールとオータムの機体のSEがゼロになったのだった。




それで親近感が湧くのかどうかは、正直微妙ですがね……とりあえず、織斑姉妹には勝てないと言う事で、必要以上に恐怖することは無いと言う事で

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