暗部の一夏君   作:猫林13世

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オータムがただの駄々っ子に……


究極の解決法

 久しぶりに朝から教室に一夏がいる事に、大半のクラスメイトは意外感を抱いていた。

 

「あら、一夏君が朝から教室にいるなんて、修学旅行の部屋決めの時以来じゃない?」

 

「そんなだっけか? いろいろあって覚えてないな」

 

「クラスの子たちが物珍しそうに見てるじゃない。一夏君も学生らしい生活を送れるようにしたらどうなの?」

 

「そうはいってもな……まだ片づけなければいけない事が多いから、明日いるかどうかすら定かではないんだが」

 

「それでよく補習とかにならないわよね……その頭脳が羨ましいわ」

 

「静寐だって補習とかには縁が無いだろ? 何処を羨むんだよ」

 

 

 静寐の軽口に応える一夏は、何処か疲れているようにも見えた。実際一夏のスケジュールを考えれば、疲れていないと言われた方が心配になるくらいだから、そう見えて当然ではあるのだが、疲れをあまり表に出さない一夏が疲れているように見えるのもまた、クラスメイトを心配させるのだった。

 

「顔色が悪いわね。相当無理してるんじゃない?」

 

「無理してないように思うのか? 亡国機業のメンバーのしてきたことを秘密裏に処理するのがどれだけ大変か分かるだろ? 国と交渉して、企業と交渉して、更に個人と交渉して漸くダリル先輩とフォルテ先輩の復学の手続きが出来るようになったところだぞ」

 

「それって一夏君が担当しなきゃいけなかったの? 大人がするような事だと思うけど」

 

「更識企業の関係者で上位、IS学園に在籍してる人間じゃなきゃ交渉できないようなこともあったからな。刀奈さんや虚さんは関係者ではあるがこういった交渉はしてこなかったから、俺がやるしかなかったんだ」

 

「小鳥遊先生は? あの人も更識企業の関係者よね?」

 

 

 静寐のセリフに、一夏は苦々しげに呟いた。

 

「碧さんは実力は十分だが、あくまでも従者としか見られてないからな……交渉の席に着いたら舐められるのがオチなんだよ……」

 

「更識所属の相手を舐めるなんて、かなり傲慢な人間もいるのね」

 

「覚えとけよ、静寐。企業のトップなんて大抵傲慢で他人を見下してる人間が殆どなんだ」

 

「その人相手でも、一夏君は負けなかったのね?」

 

「それなりに権限を持ってるからな。少し『お願い』すれば大抵の事はこちらの思い通りに進む」

 

「怖いからその『お願い』の内容は聞かないでおくわね」

 

 

 一夏の口調から、それが普通のお願いではない事を理解した静寐は、強引に話題を変える事にした。

 

「それで、亡国機業の人たちの件は、一夏君に一任されているの?」

 

「復学の判断は碧さんに任せてる。スコールとオータムの件は、一応俺が観察し、どうするか織斑姉妹と話し合う事になっている」

 

「普通織斑姉妹が観察して、一夏君と相談するんじゃない?」

 

「静寐はあの二人が信頼出来るのか?」

 

「……コメントは控えさせていただきたいです」

 

 

 何処からか殺気を感じた静寐は、そう言い残して自分の席に戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前中は大人しくしていたオータムだったが、時間が経つにつれて暇を持て余していた。

 

「やっぱりポータブル版じゃなくって普通のVTSを使いたいぜ」

 

「もう少ししたら模擬戦で暴れられるんだから、我慢しなさい」

 

「暴れられると言っても、こっちは動きに制限が掛かってるんだ。本気で暴れた時と比べると全然スッキリしないのはスコールだって分かるだろ?」

 

「忘れがちかもしれないけど、私たちは捕虜なのよ? 少しだけとはいえ自由が認められているだけありがたいと思わなきゃダメなの」

 

「それは分かってるっての。一夏が交渉してなかったらオレたちは国際的な犯罪者としてどっかの監獄にぶち込まれてたのは間違いない。それは分かってるんだが、それでも暴れたいと思うのは仕方ないだろ」

 

 

 ベッドの上で駄々をこねる子供のように愚痴を溢すオータムを見て、スコールは思わず笑いそうになる。本能に忠実なオータムに我慢を強いても無意味だと知っているからこそ、どうにかしてストレスを発散させなければと考えていたのだった。

 

「もう少し信頼されたら、VTSの使用許可も下りるでしょうし、自由に歩き回る事も出来ると思うわ。だから、もう少し頑張ってちょうだい」

 

「我慢って言葉は嫌いだぜ。オレはただ本能に従って暴れたいんだ!」

 

「随分と過激な事を言っているな。お前たちは捕虜なんだぞ」

 

「織斑千夏……何の用だ」

 

 

 いきなり声を掛けられても驚きはしなかったが、まったく気配が感じ取れなかった事にオータムは苛立っていた。

 

「なに、そろそろお前たちのフラストレーションが溜まっているだろうから相手してやれと一夏に頼まれてな。整備室に連れてくるよう言われたんだ」

 

「さすが一夏ね。すべてお見通しというわけ」

 

「あっ? どういうことだ?」

 

「昼休みを使って、お前たちとわたし・千冬のペアで試合をするというわけだ。もちろん、お前たちの機体の枷は一夏が外してくれるから、全力で暴れられるぞ」

 

「普段なら断りてぇ話だが、暴れられるなら乗ってやる」

 

 

 織斑姉妹を相手にするのはオータムも避けたいと常々思っているのだが、その考えを覆すほどに、暴れられるという事が嬉しかったようだ。

 オータムが乗り気なので、スコールも断る事はせずに、千夏に連れられて一夏の待つ整備室へ向かう事にしたのだった。




織斑姉妹相手なら、遠慮なく暴れられるでしょうしね

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