授業が無いからといって、一夏たちはただ休んでいられる立場ではない。各国に織斑マナカの存在を報告し警戒するように呼びかけ、独立派の処罰については更識が責任を持って行う事を報告、サイレント・ゼフィルス強奪の件での罪の清算は、更識がセシリアに個別指導する事で既に清算しているので、オータムの罪は残りIS学園への襲撃及び器物破損のみとなっている。
「一夏さん、アメリカを除き、各国の代表から承諾の返事が届きました」
「アメリカは仕方ないだろ。今政治の中枢が機能してないからな」
「一夏さんが叩き潰すからですよ」
「仕掛けてきたのは向こうだろ? そのバックにはマナカがいたようだが」
美紀からの報告を受け、一夏は半分以上片付いた書類の山に目をやり、休憩の為にお茶を淹れる。
「簪も悪いな。生徒会と更識の仕事、両方とも手伝ってもらって」
「別に良いよ。私も更識なんだから、家の仕事くらいは」
「でも、簪ちゃんは経理担当でしょ? こういう書類整理はどちらかと言えば刀奈お姉ちゃんの仕事だと思うけど」
「刀奈さんは授業中だからな。本音に頼んだところで戦力にならないし、簪に頼るしかなかったんだよ」
そう言いながら、一夏は簪と美紀の前に淹れたお茶を置く。生徒会室には割かししっかりとしたお茶の道具が揃っているので、休憩するには一番いい場所だと刀奈が言っているのを簪も美紀も知っている。ただし、休憩だけで済まないので、刀奈が近寄りたくないと思っている事も、当然知っていた。
「お姉ちゃん、生徒会長なのに全然仕事しないもんね」
「少しはするようになってきたが、虚さんが頭を悩ませてるのには変わりないからな」
「出来ないなら仕方ないけど、刀奈お姉ちゃんはちゃんと仕事出来るのにね」
「やる気が無いからね。昔から何かご褒美が無いとやる気が出ないって言ってるし」
「刀奈お姉ちゃんらしいね」
二人が談笑している横で、一夏はPCを取り出して何かのデータを眺め、難しい顔をしていた。
「何かまだ問題が?」
「いや、無人機たちにテスト運行を兼ねて学園周辺の警備をしてもらってるんだが……随分とゴミが散らばってるなと思って」
「業者に頼んでるはずですよね? それなのになぜ」
「手を抜いてるわけじゃないんだろうが……やはり自分たちで掃除した方が安上がりだし確実だな」
「でも一夏、IS学園で学生が掃除する場合は、罰則になるわけで、進んで掃除したいなんて思う人がいるとは思えないけど……」
「なら、ダリル先輩とフォルテ先輩にしてもらうとするか。敷地内の清掃ともなれば、かなりの重労働になるし、反省を促すには十分だと判断されるだろうし」
さっそく許可を貰う為に、一夏は学長の番号を呼び出し、有無を言わさず許可を貰った。
「これで敷地内は綺麗になるし、ダリル先輩とフォルテ先輩の復学における問題にも片が付くな」
「でも一夏、監視とかはどうするの?」
「無人機はまだ何機もいるから、そこから数機選んで監視をしてもらう。逃げ出す事は無いだろうし、清掃中は二人の専用機はこちらで預かるから、反撃も出来ないだろうしな」
「そこまで考えているのでしたら、問題は無いと思います。早速お二人に伝えに行きますか?」
「いや、まずはこっちの仕事を終えてからだな。まだ反省文を書いてるだろうし」
一日で全てやらせるわけじゃないので、一夏はそこまで罰を与える事に速さを求めていなかった。それよりも先に、この書類の山を片付ける方が大事だと判断して、カップに残っていたお茶を飲み干して仕事を再開したのだった。
大量の反省文を書かされたダリルとフォルテは、二人そろってベッドに身を投げた。一時的とはいえスコールとオータムの部屋の隣で生活する事になったが、これはこれで快適だと思えるのだった。
「ちょっとだけとはいえ、離れてたから忘れてたわね、この感触」
「亡国機業に属してた時は、酷いベッドでしたからね」
「あれでもマシな方よ? 酷いとゴザか段ボールだったんだから」
「……独立派って財源無かったんですか?」
フォルテが質問をしたタイミングで、部屋の扉がノックされた。
「どちらさま?」
『更識です。少しよろしいでしょうか?』
「構わないわよ。入ってちょうだい」
反省文はちゃんと提出したので、一夏がこの部屋を訪ねて来る理由が分からなかったが、ダリルは特に気にした様子も無く招き入れた。
「何か御用かしら?」
「まぁ、用事が無ければ来ませんよ」
「それもそうね」
無駄口を叩きあった後、一夏の表情が真剣みを帯びたので、ダリルも真面目に聞くことにした。
「実はですね、敷地内のあちこちにゴミが捨てられてるんですよ」
「それが?」
「業者に頼んでも隅々までしっかりやってもらうにはお金がかかりますので、お二人にゴミ拾い及び敷地内の清掃をお願いしようと思いまして」
「それが、私たちに課せられる罰なの?」
「結構な重労働ですし、それなりに時間もかかりますので、復学する為にはちょうどいい罰だと思いますよ」
「本当にそれだけでいいのかしら? もしかしたらサボるかもしれないのよ?」
ダリルの言葉に、一夏も人の悪い笑みを浮かべ答えた。
「ご心配なく。ちゃんと監視はつけますので」
「でも、そんな人員ないでしょ?」
「回収した無人機の中から、監視用にプログラムを書き換えた子がいますので、ご心配には及びません」
「……用意周到ね、まったく」
完全に信じられていないと分かっていたダリルは、しっかりと手を打ってきた一夏に白旗を挙げ、敷地内の清掃を請け負う事にしたのだった。
学園の敷地内となると、かなり広そうだな……