織斑姉妹の部屋のすぐ隣で生活する事になったスコールとオータムだが、二人とも特に気にした様子も無く部屋で寛いでいた。
「このベッドもなかなか気持ちいいわね」
「オレたちが使ってたのは、殆どクッションが死んでたからな」
「これだけ柔らかいと、腰に悪そうね」
「サイボーグのお前が気にする事か? それに、これくらいは普通だと思うが」
そこで二人は、部屋に人の気配が近づいてくるのに気づき、意識を廊下に向けた。一夏程ではないが、この二人の気配察知はレベルが高い。並大抵の相手なら近づく前に気付かれるのだ。
「おかしいわね。今は授業中だったと思うんだけど」
「サボりか?」
個人の特定は出来なかったが、間違いなく学生であると理解はしていた。気配からではなく、歩幅や足音で判断出来るくらい、この二人の警戒心は高いのだ。
『スコール、オータム、ちょっといいか?』
「一夏? 開いてるわよ」
二人が感じ取った気配は男の物ではなかったので、意外感を覚えながらも一夏に入室を許可する。そもそも捕虜なので拒否する権利は無いし、わざわざ確認しなくてもいいはずなのだが、そこは一夏。紳士的に声を掛けてから入室するのだった。
「なるほど。護衛のヤツの気配だったのか」
「はい?」
「何でもないわよ。それで、何か用があるのでしょ?」
「マナカが使ってた無人機のプログラムの書き換えが、思いのほか早く終わってな。暇になったから情報でも聞き出そうと思って」
「暇つぶし感覚かよ……悪いが、オレたちもアイツの事は知らねぇぜ」
「知りたいのはマナカの方ではなく織斑夫妻の方だ。俺も含め人外と評される子供を持つ二人の事を調べれば、マナカの事も少しは分かるかもしれないからな」
一夏の発言に、スコールは少し意外感を覚えた。
「織斑夫妻の事なら、私じゃなくて織斑姉妹に聞けばいいじゃない。本人たちは否定しても、親子なんだから」
「あの二人に聞いてもイマイチ要領を得ないんだよ。途中から愚痴になったり、この手で始末したかったとか言い出すからな……」
「よっぽど恨んでるのね……」
千冬と千夏は重度のブラコンであると同時に、重度のシスコンでもある。マドカは無事に取り戻せたが、マナカには完全に敵視されている以上、元凶となった織斑夫妻を許しはしないだろうと、スコールはすぐに理解し、その状況では必要な情報も出てこないだろうと一夏が自分たちに聞きに来た理由に納得した。
「オレはMを押し付けてきた時に少し会っただけだが、スコールは奴らの事詳しいのか?」
「私もそれほど詳しい訳じゃないけど、はっきり言えばあの二人はさほど実力があったわけじゃないわよ。それこそ、織斑姉妹のように戦闘に特化したわけでも、一夏のように天才的な頭脳を持っていたわけでもない。Mのように他人から教わった事を物凄い速度で吸収するわけでも、織斑マナカのように病んでたわけでもない」
「最後のいるか?」
オータムのツッコミに、スコールは一応と付け加えてから説明を続ける。
「見た感じは人畜無害というイメージだったけど、実際は亡国機業を裏で支配しようとしてたみたいね。危害を加えてでも一夏を手に入れようとした事がバレて、マナカって子にやられたみたいだけど」
「ということは、織斑夫妻が消されたのは、つい最近と言う事か?」
「最近ってわけじゃないでしょ? オータムを使って一夏を攫おうとしたのは、もうだいぶ前なんだから」
「オレは現場の指揮を任されただけで、実行犯ははした金で雇われた男どもだろ。粛正されたがな」
「とにかく、織斑夫妻について私が知ってる事は、Mではなく妹のマナカに英才教育を施し、一夏を手に入れようとしてた事、本人に大した力は無かったけど、人を使うことに長けていたくらいかしらね」
スコールのまとめを聞いて、一夏は二、三頷いてから視線を美紀へ向けた。
「今の話、本家へ連絡しておいてくれ」
「かしこまりました」
美紀が部屋を出て行ってすぐ、簪が監禁部屋にやって来た。まだ一夏一人で対峙すると、トラウマが発動する可能性を考えての行動だが、その速さにオータムも感心した様子だった。
「相変わらず警戒されてるのな」
「記憶が無くなったから、あの場にいた全員に恐怖していたと思ってたからな。未だに大人の男女は苦手だ」
「SHにもトラウマを植え付けられてるんでしょ? 大変だったわね、一夏」
「まぁ、そのお陰で駄姉たちから解放され、更識の次期当主にまでなれたのだから、一概に大変だったとは言えないがな」
「そう言えば、この学園にはVTSがあるんだよな? オレたちも使えるのか?」
「今は無理だ。お前たち二人に対する罰が決まるまでは、この部屋から出すわけにはいかないからな。他の二人とは違い、お前たちに恐怖心を懐いてる生徒もいるわけだし」
一夏の冷静な分析に、二人は納得するしかなかった。元々IS学園の生徒であったダリルとフォルテは、それなりに顔見知りがいるし、更識の監視下に入ったと知らされているので、悪さをすればすぐに処理されると言う事で納得出来ている。だが、最初から敵であったスコールとオータムにおいては、それだけでは安心出来ないと思ってしまう生徒がいても不思議ではなかった。
「暇つぶしと言ってはあれだが、更識で新開発したポータブル版のVTSの試作機を置いていく。好きに使ってくれて構わない。ちゃんと二人の専用機のデータは打ち込んであるので、暇つぶし程度にはなると思うぞ」
「持ち運び出来るVTSか。これは便利だな」
さっそく喰い付いたオータムに、スコールは呆れ半分慈愛半分の笑みで見つめ、自分もVTSを起動するのだった。
そして凄まじい技術力……