暗部の一夏君   作:猫林13世

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気にしてる女の子は可愛いと言いますし、別に良いのではないかと思います


簪の悩み

 朝起きて、部屋に一夏の姿が無いのを確認した美紀は、一つため息を吐いてから着替えて整備室へとやって来た。

 

「一夏さん、美紀です」

 

『どうぞお入りください』

 

 

 中から闇鴉の声が聞こえ、美紀はとりあえず一安心してから、整備室に足を踏み入れた。

 

「おはようございます、美紀さん。何か怒ってるように見受けられますが、何かありましたか?」

 

「何かありましたか? じゃないですよ! 一夏さん、しっかり休むんじゃなかったんですか!」

 

「休んだぞ? 今日だって二時まで寝てたし」

 

「短すぎです! 昨日修学旅行から戻って来て、今日二時から作業してたのでは全然休めてないじゃないですか! 代休と言う事で、一年生は本日授業が無いのですから、普段通りに作業を始めても十分時間があるんですよ」

 

「普段通りと言われてもな……出来るだけ早くこの子たちを味方に引き入れないと、何時マナカが遠隔操作してくるか分からない。そんな状況で休めるわけないだろ」

 

 

 一夏の言い分に、美紀は言葉を失った。確かにこの無人機たちは元々亡国機業の物で、それを操作していたのは織斑マナカである。

 だが、いくら彼女が優秀であったとしても、どれくらい離れているか分からない場所から操作出来るほどの技術力を持ち合わせているのかは分からない。心配する事は当然かもしれないが、些か気にし過ぎなように思えたのだ。

 

「織斑マナカは一夏さんに危害を加えるつもりは無さそうでしたし、無人機が暴れだす可能性は限りなくゼロだと思いますけど」

 

「俺に危害を加えるつもりが無くても、他の相手にはそうじゃないだろ? 現にこの無人機たちは刀奈さんたちや織斑姉妹と戦ってたんだし、独立派の面々も学園にいるんだ。そう考えると可能性は若干上がるだろ? だから俺はその脅威を取り除くために作業しているんだ」

 

「ですが……いえ、一夏さんの言う通りですね。では、早めに脅威を取り除いて、一夏さんにはゆっくりと休んでもらう事にしましょう」

 

 

 そう言って美紀は携帯を取り出し、何処かに連絡を取った。

 

「誰に電話してるんだ?」

 

「簪ちゃんと虚さんです。あの二人なら一夏さんのお手伝いが出来ますから」

 

「美紀さんは手伝わないのですか?」

 

 

 闇鴉の言葉に、美紀はゆっくりと視線を逸らした。

 

「私は整備とか開発の手伝いは出来ませんから……完成した新武装のテストとか、そっちなら手伝えるのですがね」

 

「そう言う事でしたか。だからこその簪さんと虚さんなのですね」

 

 

 美紀の人選に納得した闇鴉は、それ以上何も言わず、護衛も来たと言う事で待機状態に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人機を味方に引き入れる作業は、簪と虚の手伝いもあって八時前には終了した。

 

「一夏、お疲れさま」

 

「簪も虚さんもありがとうございました。俺一人だったらもう少しかかってたでしょうね」

 

「それでは、私は授業がありますのでこれで。一夏さんと簪お嬢様はごゆっくりお休みください」

 

 

 虚は授業があるため食堂に向かったが、一夏と簪、そして美紀は慌てて朝食を摂る必要は無い。とりあえず整備室を片付けてから、三人は食堂へ向かう事にした。

 

「随分と人が少ないな」

 

「何時もでしたら人でごった返していますからね」

 

「一年生は今日休みだし、まだ寝てる人が多いんじゃない?」

 

 

 全くの皆無ではないが、何時もの光景と比べるとやはり少ないと感じてしまう。

 

「どうします? 朝ごはん食べて、私たちも部屋に戻りますか?」

 

「いや、せっかく時間があるわけだし、食材だけ買って俺が作ろう」

 

「一夏の料理、随分と久しぶりな気がする」

 

「夏休みの間に少し作って以来だもんな。学園ではそうそう機会も無いし」

 

 

 食堂のおばちゃんたちに事情を話し、食材を譲ってもらった一夏は、その食材を持って自室へと向かう、美紀にとっても自室なので問題は無いが、簪は少し恥ずかしそうに二人についてきた。

 

「そんなに緊張する事か? 旅行先でも俺の部屋に来ただろ」

 

「そうだけどさ……慣れようと思っても、こればかりは全然慣れないんだよね」

 

「私は一夏さんと同部屋が当たり前になってきたから、簪ちゃんの反応が羨ましいな」

 

「とりあえず、俺は調理するから二人は寛いでてくれ」

 

 

 美紀は自分のベッドに腰を下ろしたが、簪はどっちに腰を下ろすかで悩んでいた。これが刀奈なら容赦なく一夏のベッドに腰を下ろすのだろうが、悩んだ末に簪は美紀の隣に腰を下ろした。

 

「ところで、本音は?」

 

「当然、まだ寝てるよ」

 

「相変わらず本音は朝弱いんだね」

 

「休みの日は特にね。ほっといたら翌日まで寝てるんじゃないかって思うくらい」

 

 

 幼少期から互いに知っているので、それが冗談に思えないと美紀も感じていた。

 

「本音、昔からよく寝てたからね」

 

「だからなのかな……あんなに胸が大きいのは……」

 

「気にし過ぎだって。簪ちゃんだって気にするほどじゃないと思うけど」

 

「それは美紀が大きいから言える事だよ……お姉ちゃんも大きいし、何で私だけ……」

 

 

 簪がブツブツと言い出したので、美紀は何とかして話題を変えようと辺りを見回す。すると、良い匂いが部屋に充満してきたので、それをネタに話題を逸らす事にした。

 

「良い匂いがしてきたね。一夏さんの料理、楽しみ」

 

「そうだね。後でお姉ちゃんたちに何か言われそうだけど、これは私と美紀だけの秘密だからね」

 

「もちろん」

 

 

 上手く話題が逸れた事に内心でガッツポーズを決めて、美紀は簪の言葉に頷いたのだった。




一夏は気にしてないですし、簪の気にし過ぎなんですがね

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