暗部の一夏君   作:猫林13世

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ここにも変態が……


隠し撮り写真

 マナカと共に亡国機業の本拠地で生活する事になった箒は、自分に割り当てられた部屋に入りベッドに横たわった。

 

「貴女、随分と順応力が高いのね。同部屋なのに気にした様子が無いなんて」

 

「誰が一緒にいようが関係ない。私は私の世界で生きていくのだから、他人がいようが気にしなければいいだけだ」

 

「その考え方、私は好きだよ。私もお兄ちゃんだけいれば他はどうでも良いから」

 

「しかし、随分とコンピューターが多い部屋だな。こんなに必要なのか?」

 

 

 自分は使わないので、せいぜい一台あれば十分なのではないかと箒は考えていた。しかし、マナカにとってはこれでも減らした方だったのだ。

 

「無人機のデータは採れたし、独立派の動きを覗く必要も無くなったから、これでも五台ほど減らしたんだよ。てか、貴女は脳筋だから分からないでしょうけど、何台も同時操作してないと時間が足りないんだからね、ISの設計やら製造やらは」

 

「そんなものか……確かに、記憶の彼方にある姉の部屋は、これくらいのコンピューターが所せましと置かれていた気がする」

 

「篠ノ之束もだろうけども、半分近くはお兄ちゃんの写真データや映像データでキャパがいっぱいになっちゃってるんだけどね」

 

「一夏の写真や映像だと? 私にも見せてくれ!」

 

 

 マナカに迫る箒だったが、マナカは首を横に振る。

 

「悪いけど、これは私一人の宝物なの。いくらお金を積まれても見せる事は出来ないわ」

 

「私とお前は共同戦線を張るのだろ? 相手の事をよく知る為にも、互いの趣味嗜好は共有するべきだと私は考えるのだが。もしお前のデータを見せてくれるというのであれば、こちらも幼少期から隠し撮りした秘蔵の一夏コレクションを提示しよう」

 

「くっ……なんて興味がそそられるネーミング……では、お試しで一枚ずつ見せ合いをしましょう。それを見て判断するわ」

 

 

 似通った思考の持ち主同士なので、興味がそそられるポイントも似通っている。マナカと箒は互いに一枚ずつ提示し、そして朝まで写真の魅力を語り合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園で作業をしていた一夏が寒気を覚えたのは、マナカと箒が隠し撮り写真の見せ合いっこで盛り上がっている時だった。

 

「どうかしたのですか?」

 

「いや、なんとなく寒気が……風邪でもひいたか?」

 

「一夏さんがですか? 一夏さんに近づくウイルスは、この私が全て撃退しているのでありえないと思いますが」

 

「お前は専用機だろ? ウイルス退治までやってるのか?」

 

「もちろん冗談です。ですが、一夏さんが風邪をひくなんてイメージ出来ません」

 

 

 この日も未明から無人機の解析とプログラムの書き換え作業を行っているので、体調管理は若干疎かになっているかもしれないが、それでも一夏が病気に罹った事は無い。多少頭痛や眩暈がする事はあっても、それは体調不良ではなくただの寝不足だったり、本音や刀奈の行動に頭を悩まされるだけだった。

 

「なんとなくだが、この感じに覚えがあるんだよな……」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ。まだ子供だった頃……と言っても、更識で生活をしている頃だが。風呂に入ってた時にこんな感じの寒気を覚えた記憶があるんだよな……あの時は確か、変態駄ウサギが監視衛星で人の裸体を盗み撮りしてたとかなんとか聞いたが」

 

「さすが篠ノ之博士ですね。常識の上を行く変態です」

 

「褒めてるのか貶してるのか、はっきりしたらどうだ?」

 

「褒めつつ貶してるのですよ」

 

 

 闇鴉の表現に首を捻りながら、一夏はプログラムの書き換えを進めていく。

 

「織斑マナカさん、でしたっけ? 彼女もまた一夏分という必須成分があるのだとしたら、今も盗撮されているかもしれませんね」

 

「これだけのプログラムが組めるのなら、ありえるだろうがな……てか、その『一夏分』ってなんなんだよ? 駄姉たちも駄ウサギも刀奈さんたちも言ってたが、俺は栄養分じゃねぇんだが」

 

「つまり、一夏さんと触れ合ったり、側にいるだけであの方たちは必須栄養素を補給してると言う事なのでしょうね。一定時間一夏さんと触れ合えなかったり、お喋りしたり出来なかったら死んでしまうのでしょうか? まぁ、写真からでも栄養素は補給出来るらしいですがね」

 

「謎なんだよな、それが……写真で良いならわざわざ会いに来る必要は無いと思うんだが……」

 

「二次元より三次元の方が補給に適してると言う事だと思いますよ」

 

「ますます分からん……」

 

 

 闇鴉の仮定を聞いて更に謎が深まった一夏分の存在について、一夏は本格的に調べた方が良いのだろうかと頭を悩ませた。

 

「とにかく、マナカの事は駄姉たちが調べてくれると言ったし、駄ウサギの方も手伝ってくれる約束は取り付けた。後はこの無人機のプログラムを書き換えて、教員たちとサイクルで警戒にあたらせれば、更識の人員は割かずに警備を強化する事が出来る」

 

「プログラムの書き換えは、一夏さんにしか出来ませんものね。というか、コアが心を開くのが早かったように感じますが」

 

「アメリカが使ってたコアより早かったからな……これもマナカの意思が介在してるのだろうか」

 

 

 僅か数分話しただけで、マナカが駄姉たちに負けないほど、重度のブラコンであることを理解した一夏。そのマナカが造ったコアだからかは分からないが、この無人機に使われているコアは驚くほど早く、一夏に心を開いたのだった。




織斑家女子に必須な栄養素「一夏分」。マナカも多分に漏れず……

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