暗部の一夏君   作:猫林13世

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旅行らしい事してない気がする……


学園へ

 予定外の襲撃もあったが、無事に修学旅行も終わり学園へ戻る事になった。元々勝手にやって来た刀奈と、連行される独立派の四人の分のチケットは、一夏のポケットマネーから支払われる事になった。

 

「悪いわね、一夏。私たちの分まで払ってもらって」

 

「当然、後に働いて返してもらうがな」

 

「更識で働けるなら、私たちも出世した事になるのかしら?」

 

「当分は社会の風当たりが強いだろうが、自業自得と割り切ってくれ」

 

「それくらいは当然よね。やって来たことがやって来たことなんだから」

 

 

 一応見張りとして織斑姉妹と碧を当てて、一夏は独立派がいる車輌から自分に割り振られた席へと戻る事にした。

 

「貴様ら、一夏の情けを裏切るようなら、今ここで殺してやるからな」

 

「特にダリル・ケイシーにフォルテ・サファイアの二名は、一夏の恩赦で復学出来る事になったんだから、くれぐれもその事を忘れないように」

 

「分かってますって、織斑先生。私だって更識君に危害を加えるつもりはありませんから。興味はありますけど」

 

「私も、ちゃんと感謝してます」

 

 

 ダリルとフォルテの反応は、千冬と千夏を納得されるものではなかったが、独自判断で処断したとなれば、後々一夏に怒られると分かっているので、二人に鋭い視線を向けるだけに留めたのだった。

 

「貴女たち二人も、普通なら国際問題を起こしておいてこの程度の処罰で済んだのは、一夏さんが色々と骨を折ってくれたからと言う事をお忘れなく」

 

「分かってるって。さすがのオレだって、ここまで甘い処分で済むはずがネェって分かってるから」

 

「当分はIS学園で学生の相手をして、後々は更識のテストパイロットとして開発・研究の手伝いをすれば自由は確約してくれるなんて、かなり甘い処罰よね。一夏ってどれだけ権力を持ってるのよ」

 

「更識の力を甘く見ない方が良いですよ。元々暗部ですから、暗殺だって必要ならしますから。もちろん、今回はそんな事してませんがね」

 

 

 碧の言葉に、フォルテただ一人が戦慄を覚えた。他の三人は暗殺という単語を聞いても特に動揺しない程裏社会に染まっているが、フォルテはまだ一月くらいしか裏社会に身を置いていないのだ。暗殺と聞かされて、驚かない方がおかしい。

 

「とにかく、学園に着いたらまず、フォルテとダリルに関しては反省文と復学の手続きを行ってもらう。国籍については、一夏が何とかしてくれるから問題ない」

 

「専用機も同様だ。アメリカの方は知らんが、ギリシャの方は既に片が付いているからな」

 

「代わりの専用機を一夏が提供したんだっけ? 相変わらず一般常識の範疇にいないのね、一夏は」

 

 

 スコールが感慨深げに呟くと、織斑姉妹がスコールに詰め寄る。

 

「貴様、一夏の何を知っているというのだ」

 

「知ってるわよ? 私は織斑夫妻とそれなりに親交があって、貴女たちの事も生まれた頃から知ってるんだから」

 

「しかし、屑親共は一夏の事を知らないはずだ! 生まれて一年弱で捨てて行ったんだから」

 

「宇宙規模のストーカーが、篠ノ之束一人だと思わない事ね。監視衛星をハッキングして一夏の成長記録をつけていたのよ、私は」

 

「たまにスコールの部屋から不気味な笑い声が聞こえてきたのは、一夏を盗撮してたのかよ……」

 

「私にとって一夏は、血の繋がらない息子みたいな感じよ。まぁ、死人である私が親の気持ちを懐くなんておかしな話だけどね」

 

 

 前半は怒りを覚えたが、後半はさすがの織斑姉妹も驚愕を覚えた。

 

「死人だと?」

 

「私はとある研究施設で改造された元軍人よ。こんな身体だから、生きているとは表現出来ないから、死人という表現を使っているのよ」

 

 

 そう言ってスコールは、改造された部分を剥き出しにし全員に見せる。既にその事を知っているオータムとダリルの二人以外は、大小さまざまな違いはあれど、驚きの表情を浮かべた。

 

「だから、貴女たち二人に任せてられないと判断して一夏を攫う計画に手を貸したんだけど、下っ端が暴走して一夏の記憶を奪ってしまった……それだけは本当に申し訳ないと思ってるわ」

 

「オレも、アイツに恐怖を植え付けてしまったからな……恩赦してもらっておきながら、オレはアイツに何一つ出来ねぇと思うと情けないぜ……」

 

 

 空気が重くなっていくのを感じた碧が、話題を変えるために織斑姉妹に視線を向けた。

 

「これからの敵は織斑マナカと篠ノ之箒の二名となりますが、貴女たちはやりにくさとかあるんですか?」

 

「正直言って、マドカ同様にマナカの事も名前しか知らなかったからな……」

 

「しかし、あれだけわたしの幼少期に姿が似ていると、多少のやりにくさは感じるかもしれん。だが、身内だからと言って手加減するつもりは毛頭ない」

 

「篠ノ之さんについては?」

 

「「アイツに関しては、まったくもってやりにくさは感じない。むしろ、思う存分叩き潰せる」」

 

 

 寸分たがわぬ発言に、問いかけた碧だけではなく、独立派の四人も呆れた表情を浮かべた。

 

「どう対処するかを決めるのは一夏さんですが、貴女たちがやりにくさを感じないのであれば、戦力として考えてもらえるかもしれませんね。その前に、一夏さんの信頼を失わなければですが」

 

 

 実の姉でありながら信頼されていないとスコールたちに知られた二人は、より一層監視の目を鋭くしたのだった。少しでも一夏に信頼してもらうと張り切ったのだと、碧は二人に見えない角度で苦笑いを浮かべ、監視の任につくのだった。




独立派を監視する織斑姉妹を監視する碧……

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