暗部の一夏君   作:猫林13世

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誰かは休めて無いような……


息抜き?

 あまり広くもない研究所で、一夏からISの講義を受けていた虚は、ふと視線を一夏に向けた。

 

「何か分からない個所でもありました?」

 

「いえ、一夏さん……疲れてます?」

 

「……何故そう思うんですか?」

 

「何時もより覇気が無いような気がしまして……」

 

「覇気なんて、元から無いつもりですが……虚さんの目は誤魔化せなかったですね。簪や美紀には気づかれなかったんですが」

 

 

 接触する機会が減っている簪や美紀は兎も角として、虚には隠し通せなかったと、一夏は苦笑いを浮かべながら認めた。

 

「確かに最近疲れが抜けてないような気もしてますが、心配してもらうほどでもないと思いますけど」

 

「今日はもう良いですから、この後はゆっくりしてください」

 

「ですが、虚さんだって疲れてる感じがしてますけど?」

 

「……中学に通うようになって、まだ慣れてないからでしょう」

 

「じゃあ、今日はお互いにここ迄にして、大人しくしましょう。幸いな事に、刀奈さんも帰ってきてますので、久しぶりに一緒に遊ぶのも良いかもしれません」

 

 

 中学一年の虚と、小学五年の一夏がするような内容ではないが、二人ともそれなりに忙しいので、年相応に遊ぶ事も久しくしていなかったのだ。一夏の提案に少し考えるフリをして、虚はその提案を受け入れる事にした。

 

「虚さんは専用機とかに憧れとか無いんですか?」

 

「無い事は無いですが、私の実力じゃ代表や候補生になるのは難しいですし……」

 

「更識の表企業で、ISの宣伝を担当してくれる人を探してるんですけど、虚さんにお願いしても良いですか? もちろん、企業の代表としてISを所有する事が出来ますけど」

 

「私が、ですか……企業代表ともなると、各国の代表と同等の扱いをされる事になるんですよね……」

 

「まぁ、IS学園には無条件で入学出来るでしょうね」

 

 

 再来年開校のIS学園に入学したいと思っている同級生は、虚の周りにも大勢いる。そのIS学園に無条件で入学出来るというのは、かなり美味しい条件だった。

 

「その代わり、企業同士の性能テスト、という名の模擬戦闘には参加してもらう事になりますけどね」

 

「それくらいなら構いません。お嬢様もIS学園に進学なさるでしょうし、私もIS学園にいた方がお嬢様も安心出来るでしょうしね」

 

「じゃあ、ご当主にはそのように伝えておきます。正式な採用不採用はご当主から通達があると思いますので」

 

「分かりました」

 

 

 専用機が持てるかもしれない、その事実が虚の心の中を占領し、彼女としては珍しく浮かれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪、本音、美紀と一緒に遊んでいた刀奈がその気配を掴んだのは、普段から怒られている相手だったからに過ぎない。

 

「虚ちゃんが部屋に来る」

 

「虚さんが? でも、一夏と一緒に研究所に篭ってるはずじゃ……」

 

「いえ、刀奈ちゃんの言う通りですね。一夏さんも虚さんもこの部屋に向かっています」

 

 

 碧がそう告げると、簪も納得したように外に興味を向けた。

 

「もしかして簪ちゃん、お姉ちゃんの事を疑ってたの?」

 

「だって、お姉ちゃんの言う事を全部信じてたら大変だし」

 

「酷い!? 本音、簪ちゃんがいじめるよ~」

 

「かんちゃん、刀奈様をいじめちゃダメだよ~?」

 

「別に苛めて無いんだけど……」

 

 

 精神年齢が近い二人に言い寄られても、簪は特に気にする様子もなくゲームを続ける。その相手をしている美紀も、茶番には目もくれずに簪の相手を務めていた。

 

「反抗期! これが反抗期ってやつなのね!?」

 

「バカな事言ってないで、お姉ちゃんも少しはまともに相手してよね」

 

「だってー! 簪ちゃんの相手をするなんて、私には無理だもん」

 

 

 ゲームだけは、刀奈より簪の方が強い。だからではないが、刀奈は簪と一緒に遊ぶ時には別の事を提案してくるのだ。だけど簪はとにかくゲームでしか刀奈に勝てないので、頑なにゲームを選択したがるのだ。

 

「何を騒いでるんですか……廊下まで聞こえてますよ」

 

「虚ちゃん、簪ちゃんがいじめるのー」

 

「簪お嬢様が? お嬢様の勘違いじゃないんですか」

 

「うわぁ! 虚ちゃんも私より簪ちゃんの方の肩を持つんだ! 一夏君は私の言う事、信じてくれるよね?」

 

「別に俺はどちらも……言い分を聞いてから判断しますよ」

 

 

 実に冷静な答えに、刀奈は本当に年下なのだろうかと疑いの目を一夏に向けてしまった。

 

「なにか?」

 

「ううん……一夏君は何時も冷静だなーって」

 

「そんな事は無いですよ。それで、簪が苛めたと言ってますが、具体的にどう苛められたんですか?」

 

 

 判断する為に一夏は刀奈の言い分を聞き始めた。その横では簪と美紀がかなり集中してゲームで対戦をしているのだが、一夏はそちらには一切視線を向けなかった。

 

「ほえ~、さすがかんちゃんだね~。美紀ちゃんも頑張って~!」

 

「これは、私たちには無理そうですね」

 

「刀奈ちゃんも頑張ってたんだけど、やっぱり簪ちゃんには敵わないってさっき言ってました」

 

 

 二人の実力はかなり拮抗しているのだが、毎回僅差で簪が勝利しているのだ。だから美紀も今回こそは、という意気込みで挑んでいるのだった。

 

「――なるほど、それは刀奈さんの勘違いですよ」

 

「そうなの!? 簪ちゃんは反抗期でも私の事を嫌ってるのでもなく、私の思い込みだって一夏君は言うの?」

 

「そうですね。簪だって刀奈さんの事は好きなはずですが、一から十まで信じてたら大変だっていうのは、俺も同意します」

 

「分かった、これからはなるべく誇張しないようにするね」

 

「そうしてください」

 

 

 結論が出たのと同時に決着も付いた。やはり今回も簪の勝利で、美紀はまたしても僅差で敗れたのだった。




立派だが、少しは休もうよ……

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