部屋に軟禁されているとはいえ、独立派の面々に不満は無く、むしろ今までの生活とは比べ物にならない程の快適さに、オータムははしゃいでいた。
「ベッドなんて寝られればいいって思ってたけど、このベッドはヤバいな……もう前の生活には戻れそうにねぇや」
「IS学園のベッドもなかなか気持ちよかったけど、さすが一流ホテルね。ベッドから出たくないと思わせるとは」
「あんまり気を緩められると困るのだけど? いくら一夏が私たちの事を評価してくれているとはいえ、罪の清算はしなければならないのだから、またあのような寝床になる可能性があるのよ」
「オレたちがしてきたことは、殆どが悪人から資産を巻き上げたくらいだぜ? しかも、表に出せない金ばかりだ。何を清算しろって言うんだよ」
「それでも、社会的制裁を受けなければ私たちは自由になれない。一夏もそれくらい分かってるでしょうから、何かしらの罰を用意するはずよ」
スコールの言葉に、フォルテが肩をびくつかせる。例え亡国機業にいた時間が短くても、彼女も社会的制裁を受ける立場になったのは理解していた。だが、改めてその罰が近づいてくると思うと、彼女は心穏やかでいられるはずもなかったのだ。
「心配しなくても、更識君なら罪に合った罰を用意するでしょうから、フォルテが心配する事は無いわよ」
「だと良いのだけど……でも、私はギリシャに多大なる迷惑をかけて、その尻拭いを更識君に押し付けちゃったから、ダリルみたいに楽観視は出来ないよ」
「そんなこと言ったら、私なんてアメリカの信頼を地に落とす結果に繋がったわけだし、そこをあの織斑マナカに突かれたわけだから、よっぽど酷い罰が待ってると思うのよね」
「じゃあ何でそんなに気楽でいられるのよ」
自分よりよほど重い罰が待っていると分かっているのに平然としているダリルに、フォルテは涙声で訴える。不安に押しつぶされそうになっている自分より重い罰だと分かっているのに平然としていられる理由が、彼女には分からなかったのだ。
「別に気楽ってわけじゃないのだけども、気にしたって仕方ないでしょ? どうせ罪は清算しなければいけないんだし、更識君が私たちにそれほど重い罰を下すとも思えないしね」
「どういう事?」
「彼は基本的に争い事を好まない人だから、既に落ち着いている問題に再び燃料を投下するようなタイプではないと思うのよ。だから、国同士のいざこざとか、私たちが原因で国が困ったとか、既に鎮静化している問題まで持ち出してこないと思うのよね。だから、私たちが受ける罰は、国際問題とかは気にしなくていいと思うのよ。既に更識に逆らえる組織なんてないのだし、更識が下した罰に異議を唱える人間なんていないと思うのよ」
ダリルの考えに、スコールとオータムも頷いて同意する。
「確かに、更識企業は世界中に発言権を持っているからな……逆らえばその国のIS産業は廃れるとまで言われる程に」
「実際に更識に逆らって潰された企業が、フランスにあるくらいだからね」
「ああ、オレが探りに入ったあそこか。でもよ、あそこはデュノアの娘が継いだんだろ?」
「貴女が前社長を殺したりしちゃうからよ」
「アイツから足がつくのを避けるべきだと言ったのはスコールだろ!」
デュノア社前社長を殺した責任を擦り付け合う二人を無視して、ダリルはフォルテに向き直る。
「だから、あまりびくびくしながら過ごすのは身体によくない事だと思うし、なるようになると思えば気が楽になるんじゃないかしら」
「確かにそれは言えてますが、裁かれる側の人間が言っても説得力に欠けると思いますが」
「なっ、更識君!? いつの間に」
「普通に扉から入ってきましたが」
護衛のマドカを連れた一夏が、独立派の部屋を訪れた。一夏の言う通り、普通に扉から入ってきたのだが、説得に集中していたダリルはその事に気付けなかったのだった。
「とりあえず現状の報告と、今後の事についてお話に来ました」
「もう私たちの処分が決まったのかしら?」
「元々独立派が迷惑を掛けていたのは、IS学園及び更識企業ですからね。こちらで判断を下しても何も問題はありませんから」
主に迷惑を掛けていたのはオータムと箒なのだが、その箒はこの場にいないので、一夏の視線はオータムに向けられていた。
「とりあえず、貴女方がSHと呼んでいた篠ノ之箒は、織斑マナカ率いる過激派に鞍替え、現状行方不明ということになっています」
「あの子が役に立つとも思えないけど」
「その辺りはマナカも理解しているでしょう。そして今後ですが、フォルテ先輩に関していえば、復学する事が可能です」
「えっ?」
「ダリル先輩について行っただけだと判断し、反省文を書いてもらえばそのまま復学する事が可能だと判断しました。ダリル先輩に関しては、爆撃やら色々と問題行動が確認されていますので、それなりの罰を受けてからの復学となります」
「そんな軽くていいの?」
「もちろん、卒業後は更識の為に働いてもらいますけどね」
人の悪い笑みを浮かべる一夏にダリルは降参の意思を伝えるために両手を挙げた。
「スコールとオータムに関しては、さすがに俺個人で判断するのは難しいから、IS学園に戻り次第話し合いを設ける事になった。したがって、その結論が出るまでは大人しくしてもらう事になる」
「つまり、監禁場所が変わるって事か」
「居心地は悪くないと思うが、自由に動くのはもう少し我慢してもらう」
「仕方ないわね。私たちはそれなりにやって来たんだし」
二人の反応を見て、一夏は軽く目を瞑ってから部屋を出て行ったのだった。
ちゃっかり自陣の力を増すように誘導する一夏