暗部の一夏君   作:猫林13世

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学校行事ですからね……


旅行再開

 危険が無くなったからと言って、それで修学旅行が完全に再開されるわけでもなく、残りは集団行動が義務付けられることになった。

 

「ところで、一夏さんたちは来ないのですか?」

 

「お兄ちゃんは色々と忙しそうだったからな。美紀やマドカもいないぞ」

 

「それなのに、何で本音は来てるのかな?」

 

「私の代わりにシズシズとカスミンが呼ばれてたからね~。私はかんちゃんの護衛でもあるから、こっちにいるんだよ~」

 

 

 恐らくは本音より静寐、香澄の方が話し合いの場には必要だと判断されたのだろうと理解し、セシリアたちはそれ以上掘り下げる事はしなかった。

 

「てか、簪はこっちで良いわけ?」

 

「解析は篠ノ之博士が手伝ってくれるみたいだし、本音を一人で行動させるわけにもいかないからね」

 

「どっちが護衛なのか分からないわね」

 

 

 鈴のツッコミに、本音以外は頷いて同意した。

 

「私だって、やる時はやるんだからね~!」

 

「その『やる時』が何時なのか、私たちには分からないけどね」

 

「むぅ~! 久しぶりにあったというのに、カルカルは辛辣だな~」

 

「辛辣って言うのかしら?」

 

 

 クラス単位での行動ではなく、学校単位で行動しているので、クラスがどうとかいう概念が無いため、実力者たちで話し合っているのを、専用機持ちではない生徒が眺めている。話題もおいそれと加われるものではないし、あの中に入っても自分たちは話について行けないと分かっているのか、割り込んでくるような生徒はいなかった。

 

「織斑先生たちもいないようだし、こっちが襲われたら大変だと思うんだけどな」

 

「それならお兄ちゃんがしっかりと対策してくれたようで、万が一襲われたら大量の無人機が守ってくれるそうだぞ」

 

「いっちー、敵さんが使ってた無人機のコアをもう籠絡したんだね~」

 

「本音、イマイチ褒めてるように聞こえないから」

 

「ほえ?」

 

 

 簪のツッコミに首を傾げる本音。彼女としては一夏を褒めたつもりだったのだろうが、簪からすれば、籠絡という単語は褒め言葉ではないと感じたようだった。

 

「まぁ、一夏さんなら何でもありですからね」

 

「私たちの専用機だって、一夏さんが命じたら動かなくなっちゃうもんね」

 

「更識製を持っているエイミィだから言える事で、僕たちの専用機はあまり関係ないと思うんだけど」

 

「いや、お兄ちゃんなら私たちのISも停める事が出来そうだぞ」

 

「いっちーなら何でも出来ると思うな~」

 

「……あの、山田先生が泣きそうになってるから、そろそろ移動しようよ」

 

 

 会話に夢中になっていたのか、真耶の接近に誰一人気づかなかった。漸く簪が真耶に気付き、他のメンバーにもその事を伝え、六人は移動の為のバスに乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方ホテルでは、一夏の部屋に招かれた静寐と香澄が、少し落ち着きなさげな態度でソファに腰掛けていた。

 

「そんなに緊張する事じゃないから、もう少し肩の力を抜いていいのよ?」

 

「刀奈お姉ちゃんの前で緊張するのは仕方ないと思いますけど」

 

「そうなの? 私ってば日本代表で生徒会長だものね。緊張しちゃうのも無理はないか」

 

「立場があると自覚しているのなら、もう少し考えて行動した方が良いと思うよ?」

 

「美紀ちゃん、それは酷いと思うな~」

 

 

 目の前で繰り広げられる刀奈と美紀の会話のお陰で、静寐と香澄の緊張は若干ほぐれたのだが、一夏と共に現れた織斑姉妹の所為で、再び緊張は最高潮に達したのだった。

 

「悪いな、わざわざこっちに残ってもらって」

 

「別にそれは構わないわよ。一夏君から呼び出されるって事は、かなり重要な事なんでしょうから」

 

「私たちも一応更識所属だもん。次期当主である一夏さんから呼び出されたら従うよ」

 

「そこまで重く考えなくてもいいんだが……まぁ、それは追々考えるとして」

 

 

 そこで一度言葉を切り、一夏は織斑姉妹へと視線を向けた。一夏の視線の意味を理解し、千冬が一枚の写真を取り出した。

 

「これは?」

 

「千夏先生の子供の頃の写真ですか?」

 

「いや違う。今回の黒幕――というか、亡国機業のトップである少女の写真だ」

 

「随分と千夏先生にそっくりね……って、まさか!?」

 

 

 何かに行きついたようで、静寐は驚きの声を上げる。その反応にやや遅れて、香澄も真相にたどり着いた様子を見せた。

 

「亡国機業の現トップの名は織斑マナカ。織斑家の末っ子でマドカの双子の妹だ」

 

「一夏君って、お姉さんも妹さんも双子だったのね」

 

「驚くところはそこなのか?」

 

 

 静寐のボケだか本気だか分からない反応に、一夏も少し困ったような表情を見せた。

 

「冗談よ。それにしても、織斑の血筋と言う事は、私たちじゃ太刀打ち出来ないかもしれないわね」

 

「まだ詳しい情報は入ってないが、マドカの事を出来そこないと言っていたからには、少なくともマドカよりは強いんだろうな」

 

 

 一夏がマドカに視線を向けると、悔しそうに俯いた。

 

「私もマナカの実力は知りませんし、物心ついたのは屑親が私をスコールたちに引き渡す頃でしたから」

 

「まぁ、見間違える事は無いだろうが、一応警戒しておいてくれ」

 

「私の久延毘古でも、予知できませんでした……」

 

「情報が無いんだ。仕方ないさ」

 

「もう少し精度を上げられるよう、努力します」

 

 

 香澄が妙に意気込んでいるのが気になったが、一夏はやる気に水を差す事はせずに二人を部屋に戻したのだった。




肩書だけは偉大な感じがするのは、織斑姉妹と似てるな……

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