織斑姉妹の部屋から戻ってきた一夏とマドカは、刀奈の熱烈歓迎に見舞われた。
「いったいどうしたんですか?」
「最近スキンシップが足りてない気がしてさ」
「兄さまにならともかく、何故私にまで」
「何でって、マドカちゃんは一夏君の妹でしょ? だったら私の義妹でもあるって事じゃない。一夏君は義弟なんだし、その妹であるマドカちゃんともスキンシップを取るのは当然よ」
何だかよく分からない理論を振りかざした刀奈だったが、スキンシップされているマドカが嫌そうではなかったので一夏は注意することなく、刀奈のスキンシップから自分だけ抜け出してソファに腰を下ろした。
「一夏さん、織斑姉妹の方で何か分かっていた事はあったのですか?」
「あまり成果は無かったな。あの人たちもマナカの事は詳しく知らないそうだ」
「では、あの織斑マナカが言っていたように、生まれてすぐ引き裂かれたというのは事実だったのですね」
「織斑の両親が何故マドカとマナカだけを連れて行ったのかは不明だが、生まれて間もない二人を連れてあの家を出て行ったのは事実のようだ」
「に、兄さま! 助けてください!」
「マドカちゃんって、意外と着痩せるタイプなのね」
スキンシップがエスカレートしているようで、マドカは割と必死に一夏に助けを求めた。その声に反応して刀奈の方へ視線を向けた一夏と美紀は、同時にため息を吐いた。
「これが先代楯無様の実の娘かと思うと……」
「更識内から刀奈お姉ちゃんに対する謀反が起こっても不思議ではなさそうですね……」
「な、なによ! 私だってやる時はちゃんとやるんだから!」
「ならそろそろふざけるのは止めにして、話し合いに加わってくださいよ。刀奈さんにだってやってもらう事があるんですから」
「わ、分かったわよぅ……」
非難の目を向けられた刀奈は、渋々といった感じでマドカを解放して、一夏と美紀の話し合いに加わる事になった。マドカは一夏の後ろに隠れるようにして参加している。
「そこまで警戒しなくてもいいじゃないのよ」
「いえ、しばらくは警戒心を剥き出しにして過ごす事にします」
「一夏君、これってマドカちゃんに嫌われちゃったの!?」
「むしろ嫌われないと思ってたんですか?」
一夏の言葉に、刀奈は膝から崩れ落ちる。大げさなリアクションを無視して、一夏は美紀に視線を戻した。
「尊さんからの連絡はあったか?」
「いえ、まだです。さすがに更識本家の回線を使ったとしても、一夏さんのような早業は出来ませんから」
「尊さんもそれなりに早いだろ? しかし、データが無いとなるといよいよ困ったな……」
「篠ノ之博士には連絡したの?」
相手にしてもらえないと理解した刀奈が復活して話題に入ってくる。一夏は刀奈の言葉に数秒固まってから、携帯を取り出した。
「そう言えば駄ウサギがいましたね……忘れてました」
「兄さま、わざと思い出さないようにしてませんでした?」
「……気のせいだ」
マドカのツッコミを弱々しく否定した一夏は、登録されている番号の中から束の携帯に連絡を入れる。一回コール音が流れるか流れないかのタイミングで、何時も通りの騒がしい声が受話器越しに聞こえてきた。
『もすもすいっくん? なになに、束さんに何の用――』
あまりにも騒がしかったので、一夏は反射的に通信を切り携帯の電源を落とした。なんとなく似たような展開を最近見た覚えがあった美紀は、咄嗟に部屋の鍵を開けて登場を待った。
「いっくんから連絡してくれたのに、酷くないかな!?」
「やかましいんですよ、貴女の声は!」
美紀が扉を開けたタイミングとほぼ同時のタイミングで束が部屋に現れ、マドカと刀奈は驚きの表情を浮かべていた。
「それで、いっくんはこの束さんにどんな用事なのかな?」
「織斑マナカ」
「ほえ?」
「どうやら知らないようですね。お疲れ様でした」
束の首根っこを掴み上げ部屋から廊下へ摘み出す。摘み出された束は一瞬だけ呆気にとられたが、すぐに部屋へ戻ってきた。
「何するのさ! いっくんは束さんに何をしたいの!!」
「何で戻ってくるんですか……もう用件は終わったのでお引き取り下さい」
「そんな事言わないでよ! てか、織斑マナカって誰なの? ちーちゃんやなっちゃんの関係者だよね? マーちゃんと名前が似てるって事は、もしかして隠し子?」
「織斑夫妻が私と一緒に連れ出した、織斑家の末っ子で、私の双子の妹だそうです」
一夏が説明するつもりが無いと理解したマドカが、束の質問に答えたる。一夏は仕方ないという表情を浮かべたが、マドカを責める事はしなかった。
「宇宙規模のストーカーである貴女なら何か知ってるかもと思って呼び出したんですが、貴女でも知らなかったようですね」
「そもそも束さんは、ちーちゃんとなっちゃん、いっくんとマーちゃんにしか興味ないからね~」
「ちなみに、これがその織斑マナカです」
闇鴉の機能を使い撮った写真を束に見せると、物凄い勢いで食い付いてきたのだった。
「ちっちゃいなっちゃん!? これがその織斑マナカって子なの!?」
「織斑家は、双子、俺、双子の五人姉弟妹だったようですね」
「分かった。この子の事を調べればいいんだね!」
「いえ、束さんにはこの無人機の解析を手伝ってもらおうかと」
意気込んでいた束は、肩透かしを喰らったかのようにこけそうになったが、一夏の頼みなので断ることはしなかったのだった。
束にマナカの事を任せると、いつの間にか向こうの陣営に加わってそうですね……箒は無視してもマナカは無視でき無さそうですし……