スコールたち独立派との話し合いを終えた一夏は、そのまま織斑姉妹の部屋を訪ねるつもりだった。だが途中でマドカから連絡が入り、一旦部屋へ戻る事になった。
「マドカ、どうかしたのか?」
「兄さま……姉さまたちの部屋に行くのであれば、私も同行してもよろしいでしょうか」
「それは構わないが……マナカの事か?」
一夏がマナカの名前を出すと、マドカはビクっと肩を震わせたが、小さく、しかしはっきりと頷いて見せた。
「分かった。美紀、刀奈さん、護衛はマドカを連れて行きますので、二人は部屋で休んでいてください。これは家族の――織斑家の問題ですので」
「分かったわ。でもね一夏君、私たちも一夏君の家族なのは間違いじゃないんだから、話せる範囲でいいから教えてよね」
「分かってますよ。だから家族と言った後で織斑家と言い直したんですから」
心配そうに自分を見つめる刀奈に頷き返して、一夏はマドカを連れて織斑姉妹の部屋を訪ねる事にした。
「兄さま、あの少女……」
「マナカの事か?」
「はい。恐らくは私の双子の妹だと思われる彼女ですが、あれはかなり危険な思想を持っている様子でした」
「そうだな。俺以外は全て消し去りたいとか言っていたし、考え方的には束さんに近いものを感じた。あれは俺や織斑姉妹、あとはマドカ以外は識別出来ないらしいがな」
束がいるであろう方角に視線をやって、一夏は小さく頭を振った。
「あれは思ってるだけで実行しようとはしなかったが、マナカは可能性があればやるぞ。そんな感じがした」
「兄さまがそういうのであれば、恐らくはやるのでしょうね。亡国機業のトップとして、様々な機関や国とのパイプを保持しているようですし、無人機を造るだけの技術力も有しているようですし」
「そこなんだよな……マナカがコアを造れるとしたら、かなり厄介な事になりかねない。無限に無人機と戦わなければならなくなれば、こちらが圧倒的に不利だからな」
織斑姉妹の部屋に到着し、一夏は扉をノックして返事を待った。
『一夏か? 入っても構わないぞ』
「失礼しま――」
「姉さま!? なんて恰好をしてるのですか!」
「何って、下着はしてるだろ?」
「何か問題でもあったか?」
「兄さまは男の方なんですよ! 下着姿でうろうろするなんて、少しは恥じらいを持ってください!」
マドカの権幕に、織斑姉妹は首を傾げた。
「わたしたちの下着など、一夏にとっては見慣れたものだろ? 真耶に泣きつかれてわたしたちの洗濯物を片付ける手伝いをした一夏なら」
「洗濯物としての下着と、着けているものを同じだと考えないでくださいよ! ただでさえ姉さまたちは大きいんですから!」
「ああ、わかったわかった。服を着るから少し廊下に出ててくれ」
「……本当ですね? 兄さま、一旦出ましょう」
「あぁ……」
一気に疲れ果てた様子の一夏の手を取り、マドカは一旦部屋から廊下に出る。扉が閉まるのと同時に、兄妹は盛大に息を吐いたのだった。
「相変わらず無神経な姉妹だな……」
「兄さま、トラウマは大丈夫ですか?」
「なんとかな……一瞬だけだったから」
「姉さまたちにも困ったものですね……女性だけの職場、女子だらけの学園で生活してるから、羞恥心が薄れているのかもしれませんね」
「最初から持ち合わせていないんだろうよ……とにかく、マドカのお陰で助かった、ありがとな」
労うようにマドカの頭を撫でる一夏と、一夏に撫でられて気持ちよさそうに目を細めるマドカ。織斑姉妹の部屋の前でそのような光景を繰り広げていると、部屋の中から声が聞こえた。
『もう入って来て構わないぞ』
「本当ですね?」
『ああ。私も千夏もちゃんと服は着た』
「信じますからね」
姉の言葉に疑いを持ちながらも、マドカはゆっくりと扉を開け中を確認した。そして本当に服を着ていた事を確認してから、一夏を部屋の中に招き入れたのだった。
「それで、お前たちが私たちを訪ねてきたと言う事は――」
「ええ、そうです」
「姉弟妹仲良く同じ部屋で寝るんだな!」
「……すみません、違いました」
千冬の宣言に一夏が余所余所しい態度で応える。さすがにふざけ過ぎたと反省したのか、千冬は一つ咳ばらいをしてから真面目な雰囲気を醸し出した。
「マナカの事だな?」
「貴女たちなら彼女の事も知っているのではないかと思いまして」
「と言ってもだな、わたしたちも詳しい事は知らない。屑親たちが生まれた直後のマドカと一緒に連れて行ってしまったからな」
「彼女の話では、織斑夫妻は俺も連れて行く予定だったようですが、そこはどうなのですか?」
「アイツらは生活能力ゼロだったからな。一夏を連れて行ったとしてもまともな生活は送れなかったと思うぞ」
「まるで貴女たちはまともな生活を送れているような言い草ですね? 何で一日過ごしただけで部屋がここまで散らかっているのですか?」
「……その事は後でゆっくり聞くとして、解析結果はどうだったんだ? 何処かの支援を受けている証拠は掴めたのか?」
「いえ、あの無人機に使われていたコアは、何処の国のものではありませんでした。恐らくは亡国機業で造られたものだと思います」
一夏の答えに、二人はそろって腕を組んで考え出した。
「お前はコアの声が聞こえるのだろ? それで確認出来ないのか?」
「残念ながら、俺に心を開いてくれていないので聞こえません。引き続き交渉はしてみますが、期待しないでください」
「そうか……マナカについては私たちが調べておくから、一夏はコアの方を頼むぞ」
「お願いしますね? くれぐれも他人に仕事を投げ捨てないようにお願いします」
念を押してから、一夏はマドカと共に自分たちに宛がわれた部屋へと戻っていったのだった。
だから駄姉だと言われるんだよ……