暗部の一夏君   作:猫林13世

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随分と甘い気がしますが……


独立派の処遇

 亡国機業の本拠地に戻ってきたマナカは、襲撃ポイント周辺に仕掛けていたカメラで、一夏たちがまだ警戒している事を確認してほくそ笑んだ。

 

「お兄ちゃん、そんなにマナカの事を警戒してくれるんだ。嬉しいな」

 

「おい、お前と一夏は、本当に兄妹なのか?」

 

 

 今まで一人で使っていた拠点だが、今はもう一人いる。独立派に属していた箒を連れてきたのだ。

 

「お前はマドカの事を知っているんだろ? なら見た目がそっくりな私がお兄ちゃんの妹だって言っても不思議はないだろ。そもそも、マドカは千冬に瓜二つ、私は千夏に瓜二つなんだけどね」

 

 

 千冬とマドカは綺麗な黒髪、千夏とマナカは灰色の髪色をしている。その点を見ても、マナカが織斑の血縁であると証明出来るだろう。

 

「私は一夏に妹がいた事も知らなかったが、確かにあのマドカとかいう小娘は千冬さんにそっくりだった。そして、お前は千夏さんにそっくりだ」

 

「別に構わないんだけど、これでも私は亡国機業のトップなの。つまり、貴女よりよっぽど偉いのよ? 少しは口調を改めようとは思わないわけ?」

 

「私は亡国機業に与しているわけではない。一夏を手に入れるために場所を借りているだけだ」

 

「その考え方、私は好きよ。一緒にお兄ちゃんを取り戻しましょう」

 

 

 一夏が手に入れば、他はどうでも良い箒と、一夏以外は本気でいなくなっても構わないと思っているマナカ。この二人が本気で一夏の事を狙えば、かなり厄介な敵となる事は明白である。だがマナカも箒も、一夏に危害を加えたいわけではないので、脅威となるのは一夏ではなく、むしろその周りの人間に対してであるのだった。

 

「篠ノ之束がISなんてものを発表し、織斑千冬がそれを手伝った。その結果お兄ちゃんはその当時から独立を企てていたスコール一派に拉致されて記憶を失った」

 

「まて、あれはお前が命じた事なんじゃないのか?」

 

「私が命じたのは、お兄ちゃんを捕まえてってだけで、乱暴しろなんて命じてない。私はお兄ちゃんに痛い思いなんてしてほしくなかったもん」

 

「じゃあ、あれはスコールたちの独断というわけか?」

 

「違う、織斑の屑親が命じたらしい。だから粛正したんだけど」

 

「粛正? 私の記憶が正しいのなら、一夏が拉致された時まだ小学生だろ? お前はそんな子供の時から権力を握っていたのか?」

 

「さっき言ったでしょ。前のトップに気に入られていたって。だから、ちょっとお願いすれば大抵の事は叶ったのよね。本当は抹殺してほしかったんだけど、さすがにそこは聞き入れてもらえなかったけど」

 

 

 表情を変えずに淡々と告げるマナカに、箒は眉を顰めた。どのような教育を受ければこのように育つのかと本気で考えたのだが、人の事を言えるような教育を受けていない事は棚上げしている様子だった。

 

「とにかく、これからは貴女にも働いてもらうから、色々とお願いね、篠ノ之箒さん」

 

「一夏が私の許に戻ってくるのであれば、どんなことでもしよう」

 

 

 マナカが差し出した手を握り、箒は正式に亡国機業所属になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 形だけとはいえ拘束されたスコールたちは、ホテルの一室にまとめて入れられていた。

 

「ここ四人部屋だな。ちょうどだぜ」

 

「私たちが使ってた拠点より立派な監禁部屋よね。さすが更識って事かしら」

 

「良いんでしょうか、私たちがこんな立派な部屋を使っても」

 

 

 オータムとダリルは堂々とした感じで寛いでいるが、フォルテはおどおどとした雰囲気を纏いながら恐縮している。

 

「一夏がここに案内させたって事は、使っても良いって事なんでしょうし、少し気にし過ぎだと思うわよ」

 

「そうでしょうか……」

 

「更識君は紳士だから、捕虜にも最低限の生活は保障してくれると思うわよ」

 

「ここが最低限だとは思えねぇけどな」

 

 

 部屋付きの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲むオータムを見て、ダリルは苦笑いを浮かべた。

 

「さすがに緊張感なさすぎじゃないかしら? 仮にも捕虜なのよ、私たち。それを疑いも無く用意された水を飲むなんて」

 

「あの餓鬼が毒殺なんて考えると思ってるのか?」

 

「いえ、でも彼の周りの人間はそれくらい考えそうだけどね」

 

 

 ダリルが誰を思い浮かべているのか、オータムには理解出来なかった。水を飲み干したタイミングで、部屋の扉がノックされた。

 

「何方かしら?」

 

『更識一夏と護衛の者二名。入ってもいいか?』

 

「ええ、構わないわよ」

 

 

 捕虜を閉じ込めている部屋に入る時も、一夏はきちんと声を掛けてから扉を開ける。前に捕らえたアメリカ兵たちとは違い、スコールたちは仮の捕虜なので一夏も人権を認めているのだった。

 

「さて、何か御用かしら?」

 

「とぼけるな。まぁ、このまま部屋に閉じ込められたいのであれば、話し合いはせずに帰るが」

 

「この部屋なら文句ないわよ。お風呂もちゃんとあるようだし」

 

「フォルテ先輩が恐縮しきってるように見えるんだが?」

 

「本当にこの部屋を使ってもいいの?」

 

「他に部屋なんてありませんからね。更識の屋敷にだったら、座敷牢くらいありますが」

 

 

 独立派四人は、一夏の言葉に揃って首を傾げる。座敷牢と言われても、外国育ちの四人にはピンと来なかったのだろう。

 

「まぁ、数日間はこの部屋で生活してもらう事になると思うから、くれぐれも暴れないように頼むぞ」

 

「ですって、オータム」

 

「何でオレなんだよ」

 

「この中で暴れそうなのは貴女だけだからよ」

 

 

 スコールの言葉に不貞腐れたオータムは、ベッドに潜り込んでふて寝を決め込んだのだった。




好待遇ですよね……

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