マナカと箒が退散し、無人機を全て無効化した一夏たちは、とりあえず状況を整理するために一ヵ所に集まった。
「それで、織斑マナカというのは、本当に織斑家の末っ子で間違いないんですね?」
「ああ、マドカ同様に、生まれてすぐ織斑の屑親たちが連れ去った二人の内の一人だ」
「それがどうして現亡国機業のトップになっているんですかね? マドカが亡国機業にいた事と関係あるんですかね?」
「その辺りはわたしたちよりコイツら聞いた方が良いんじゃないか?」
千夏がスコールたちに視線を向けると、一夏が一度小さくうなずいてから視線を亡国機業独立派の面々に向けた。
「その辺りの事、詳しく分かる人はいるのか?」
「オレやレインは知らねぇぜ」
「最近亡国機業に入ったフォルテ先輩も当然知らないでしょうね」
オータムの言葉に付け加え頷き、一夏は唯一真相を知っているであろうスコールに視線を固定した。
「私も詳しい事は知らないわよ? それでもいいなら話してあげるけど」
「それで構わない。お前は俺の事も織斑姉妹の事も知っていたな? あれは何故だ」
「答えは簡単よ。亡国機業に貴方たちの両親もいたからよ」
あっさりと告げるスコールに、織斑姉妹ではなく更識所属の面々が驚いた視線を向け、声を上げそうになったが、一夏がそれを手で制した。
「マナカが前当主と近しかったのは、織斑の両親が亡国機業の組員だったからか?」
「組員って言い方が妥当かどうかは分からないけど、恐らくその通りよ。織斑夫妻は亡国機業の中でも大分上に属していたわ」
「お前とも面識はあったのか?」
「数回だけね。性格的に合わなかったから、会話もろくにしたことなかったし、何時死んだのかも知らないわ」
既に故人であると告げられても、一夏たちは特に何も思わなかった。一夏に関しては両親の記憶も無いので当然だが、千冬と千夏が何も思わないのは少し薄情ではないかとも思ったが、誰一人その事を口にするものはいなかった。
「それで、亡国機業は何を目的に作られた組織なんだ?」
「前にも話したかもしれないけど、基本的には義賊みたいなことをしてたのよ。国民を虐げ税金を搾り取り、自分たちは裕福な暮らしをしていたような奴らを暗殺したり、悪徳業者の金庫から表に出せないようなものを盗み出して換金し、食料にして貧しい人たちに振る舞ったりとかね」
「それが何故犯罪組織などに? まぁ、以前も犯罪と言えば犯罪なんだが」
義賊と言えば聞こえはいいが、やっている事は窃盗である。一夏はその事をしっかりと理解した上で、何故変わってしまったのかをスコールに問いかけた。
「一番の原因はやはりISが誕生した事かしら。あれの所為でパワーバランスが一気に崩れてしまったからね。そのタイミングと被るように、前リーダーが病に臥せって、それからすぐ他界してしまったのよ。その時点で亡国機業は今の三つの派閥に割れたのよ」
「お前たち独立派、日和見主義の穏健派、そしてマナカの過激派か……過激派はマナカ一人のようだったがな」
「無人機を大量に所有してるなんて知らなかったもの」
そもそも無人機の出所も調べなきゃ分からないのだから、同じ組織に所属しているスコールたちが知らなくても仕方ないのかもしれない。
「美紀、倉持技研にこれほどの腕を持つ技術者はいたか?」
「更識で調べた限りでは、いなかったと思います」
「スコールたちは? 何か知らないか?」
「残念ながら知らないわ。独立派の手伝いとして手に入れた技術者は、本当に最低限の技術しか持たない素人同然だったから」
「さっき見た限りでは、駄ウサギのものでもなかったし……織斑先生たちは先にホテルに戻って解析の準備を山田先生にお願いしてください。生徒たちは避難解除で」
腕を組み少し考えを纏めてから、一夏はそう織斑姉妹に指示した。
「解析の準備と言ったが、場所は? あのホテルにはそのような設備など無いだろ」
「最低限の解析なら、俺のPCでどうとでもなりますし、一応更識の息のかかったホテルですから。東京に持ち帰るくらい簡単です」
「なら、真耶には何を準備させろというんだ?」
「ケーブルとかモニターとか、ありそうな物をホテルの従業員に聞いて用意させてください。貴女たちが頼むより山田先生が頼んだ方が要領が良いでしょうし」
解析などを得意としている真耶の方が、正式名称やらどのような形状の物かを説明出来るので、確かに真耶が適している。織斑姉妹も納得して、無人機を担いで避難場所へ飛んでいった。
「さて、スコールたち四人は更識が身柄を拘束するとして」
「おい、どういうことだよ!」
「派閥が違うとはいえ、お前たちは亡国機業所属だからな。名目上拘束しておかないと他所からクレームが入りかねない。だから一応拘束して、更識が責任を持って面倒を見るという名目で動いてもらう」
「さすが一夏ね。抜け目がないわ」
「刀奈さん、美紀、四人を一時拘束しホテルに連行してください」
一夏の指示に従い、四人は大人しく連行されて行った。スコールやオータム、ダリルの表情はさほど変わってなかったが、フォルテ一人だけは深刻な表情を浮かべていた。
「一夏、この後はどうするの?」
「簪と本音は、まだ無人機が残ってるかもしれないから暫くこの辺りを警戒してくれ」
「兄さま、私は?」
「マドカは俺と一緒にホテルに戻り待機。双子の妹相手じゃやりにくいだろうし、俺の手伝いをしてもらう」
「分かりました……」
恐らくは前線に出たかったのだろうが、一夏の指示に従うと決めていたマドカは、俯きながら肯定の返事をしたのだった。
京都では本音を護衛から外し、マドカが護衛になります