暗部の一夏君   作:猫林13世

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恐ろしい組み合わせが……


最凶タッグ

 意識を取り戻した箒はまず、自分の周りに一夏と見知らぬ少女しかいない事に気が付き、そしていつものように勘違いをして一夏に喰ってかかる。

 

「一夏貴様! また新しい女にちょっかいを出したのか!」

 

「あー、確かにこれじゃあお兄ちゃんが鬱陶しいって思うのも仕方ないかな」

 

「お兄ちゃん? 一夏貴様、幼女にそんな呼ばせ方を強要しているのか!」

 

「……勘違いもここまでだと賞賛すら送りたくなるな」

 

 

 勘違いを正すつもりもないが、箒を相手にしてるとトラウマが発動しそうなので、一夏は視線をマナカへと向けた。

 

「君が亡国機業のトップであるのなら、俺は容赦しない」

 

「お兄ちゃんが相手なら苦戦するかもだけど、それでも勝つのは私だよ」

 

「亡国機業のトップ? お兄ちゃん? お前たちは何の話をしているんだ」

 

 

 情報の整理が追い付かない箒は、一発触発の空気を無視して二人に問いかける。その問いかけに応えたのはマナカの方だった。

 

「そう言えば貴女、篠ノ之束の妹だったわね」

 

「あの人は関係ない!」

 

「その気持ち、分かるわよ。私だって織斑姉妹と比べられてきたんだから」

 

「織斑姉妹と? ……まさかお前、千冬さんたちの妹なのか?」

 

「さっきから一夏お兄ちゃんの事を『お兄ちゃん』って呼んでるんだけど」

 

 

 一夏の妹=織斑姉妹の妹と言うことに気づいていなかったのかと、マナカは箒を残念な子を見る目で眺める。蔑まれていると言うことに気づかず、箒はマナカに質問を続けた。

 

「一夏の妹と言う事は、あのマドカとか言うヤツとも血縁と言う事か」

 

「甚だ不本意ではあるけども、マドカは私の双子の姉よ。才能なんかは私の方が遥かに上だけどね」

 

「それで、一夏の妹とやらが何故亡国機業のトップなんてやっているんだ」

 

「篠ノ之束の妹が亡国機業に与してるのと大して変わらないわよ。まっとうな評価をしてほしいから。姉が世界最強の双子であるってだけで、私にまでその才能を期待する。そして遠く及ばないと分かると勝手に失望し、キツイ態度で接してくる。私は私だ! 織斑千冬、千夏の劣化版じゃない!」

 

 

 癇癪を起したマナカに、一夏は同情の眼差しを向ける。自分には織斑姉妹と比べられた記憶が無いので共感は出来ないし、共感出来たとしてもマナカの行動を善とすることは出来ないのだ。

 だが、似たような境遇で育った箒は、マナカの考えに同調した。

 

「分かるぞ、その気持ち。私も篠ノ之束の妹というだけで勝手に期待され、あの人の遠く及ばないと分かると失望された」

 

「貴女、私と一緒に来ない? 本当のお兄ちゃんを取り戻して、三人で生活しましょうよ」

 

「本当の一夏?」

 

 

 マナカの言葉に、箒は自分の妄想の中の一夏が本当の一夏であると錯覚し、マナカに手を伸ばした。

 

「私が知っている一夏に戻るのであれば、お前に協力しよう」

 

「そう、じゃあお願いね。それから、私は一応貴女の所属している組織のトップなのだから、言葉遣いには気をつけなさいよね」

 

「私は私の目的の為だけに今の場所にいるんだ。縦社会になど興味ない。だが、一夏を取り戻すためなら考えないことも無いぞ」

 

 

 あくまで偉そうに告げる箒に、マナカは面白いものを見るような目を向けた。

 

「まぁ、何時までその態度が続けられるか見ものだね。それじゃあお兄ちゃん、今日はこのくらいで引いてあげるね。そろそろ無人機の壁も破られそうだし」

 

「出来る事なら、この場で君を拘束して全てを終わらせたいところだが」

 

「お兄ちゃんには出来ないでしょ? この女が側にいるだけで、お兄ちゃんは本来の力を発揮出来ないんだから」

 

 

 箒に視線を向けてから、マナカは瞬間加速で一夏の側に移動し、そして耳元で囁く。

 

「精々偽りの世界を楽しんでね、お兄ちゃん。すぐに本当の世界を見せてあげたいけど、それには色々と準備が必要なんだ」

 

「何が偽りかは知らないが、俺は君の思う通りには動かない」

 

「マナカで良いよ。お兄ちゃんにはそう呼んでもらいたいし」

 

 

 さっきまでの貼り付けた空気が一転し、マナカは甘えたい妹の空気を醸し出した。その変化に一夏も面を喰らったようで、今の彼は隙だらけだった。

 

「お兄ちゃん、私が敵だって事忘れてない?」

 

「いや、君の空気の変化が唐突過ぎて、一瞬呆けただけだ」

 

「私がお兄ちゃんの命を狙ってたら、今の一瞬でお兄ちゃんは死んじゃってたんだからね」

 

「そうだな。それで、マナカの目的は世界の破壊で良いんだな?」

 

 

 一夏が呼び捨てでマナカの名を呼ぶと、彼女は幸せそうな表情を浮かべて答えた。

 

「半分正解。残りの半分は、お兄ちゃんを手に入れる事。織斑千冬、千夏、マドカの三人を消し去る事だよ」

 

「表情とセリフが一致してないんだが」

 

「だって、お兄ちゃんに『マナカ』って呼んでもらったんだもん。あっ、携帯の着ボイスにしたいから、もう一回呼んで」

 

「………」

 

 

 戦場の空気ではないものが流れ始めて、一夏はどう対処するのが正解なのか頭を悩ませたが、穏便にこの場が済むのであれば、名前を呼ぶくらいはいいかと諦めたのだった。

 

「マナカ」

 

「……うん、ちゃんと録音出来た! それじゃあお兄ちゃん、今日の所はこれでお別れだね。行くよ、篠ノ之箒」

 

「私に指図するな!」

 

 

 マナカと箒がこの場から退散してすぐ、刀奈たちが無人機を倒して一夏の許に飛んできた。

 

「一夏君、無事!?」

 

「ええ、この通りです」

 

 

 無傷の姿を刀奈たちに見せて安心させた一方で、一夏はマナカの事を考えていた。

 

「(織斑マナカか……後で織斑姉妹に詳しい事を聞かなければな)」

 

 

 家族の記憶すらない彼にとって、あそこまで懐かれる理由を知る為にも織斑姉妹に話を聞く必要があると思ったのだ。マナカの事ではなく、両親の話を。




一夏が手に入れば他はどうでも良い箒と、一夏以外に興味のないマナカ……ある意味目的が同じの為に共闘する事になりました。

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