全くの予想外の出現方法に、一夏も刀奈も、あの箒でさえも一瞬動きを止めて爆音のした方角に視線を向けた。
「一夏君、これって計画通りなの?」
「いや……どうなんでしょうね」
確かに過激派の人間が現れるかもとは聞いていたし、久延毘古の未来予知でも敵が現れると言う事は視えていた。だがここまで派手に現れるなど思ってなかったので、更識所属の面々も、亡国機業独立派のメンバーも呆気に取られてしまっていた。
「おいおい、随分と派手な登場だな」
「もしかして過激派の『過激』って、こういうところから来てるのかしら?」
「そんなのんきな事言ってる場合じゃないと思うけど……」
「ダリル・ケイシーにフォルテ・サファイア……久しぶりね」
爆心地にわらわらと現れる人の中に、刀奈はかつての先輩と同級生の姿を見つけ、声を掛けた。掛けられた方も、軽く会釈したり、手を挙げたりで応えるが、今はそれどころではない。
「おいスコール。これはどういうことだ?」
「知らないわよ。そもそも、私たちだって過激派の構成メンバーだったりは知らないんだから」
「で、この爆心地にいるのが、亡国機業過激派の人間で間違いないんだろうな? お前たちの仲間、って事は無いんだな?」
「私たちはここにいるメンバーで全員よ。それより、更識の人間だって事は無いの?」
「俺たちもここにいるので全員だ。残りは避難させているからな」
未だに何が落ちたのかすら見えないので、スコールも一夏も互いの増援なのではないかと疑う。もちろん、そのような事は無いのだが。
「一夏、これは何事だ!」
「避難場所まで物凄い音が聞こえたぞ!」
「あらあら。織斑姉妹……これは終わったわね」
物凄い勢いで飛んできた織斑姉妹の姿を確認したスコールが、そんなことを呟く。事前に打ち合わせはしてあるとはいえ、織斑姉妹が現れたら過激派の人間もあっさり仕留められるだろうと、そんな気持ちになったのだろう。
「姉さま? 他のみんなの警護はよろしいのですか?」
「ああ、問題ない。小鳥遊がいるからな」
「それに、あそこにだって専用機持ちは数人いるんだ。わたしたちがいなくても何とかなるだろ」
「そういう問題じゃないんですけどね……貴女たちは任された事を全うする事が出来ないんですか?」
ゆらりと二人の背後に立つ一夏。最強の双子も弟の前では大人しくなるのかと、亡国機業のメンバーがしみじみと思っていると、一人の命知らずが一夏に迫る。
「これはどういうことだ一夏! お前は、まだ正々堂々戦うつもりが無いというのか!」
相変わらずの勘違いをした箒が、一夏につかみかかろうとして――
「「おい、邪魔だ小娘」」
――最強の双子に投げ飛ばされた。
一夏の事になると余計に周りが見えなくなる癖がある箒だが、織斑姉妹を失念して一夏につかみかかろうとするなんて、自殺行為の他無い。
「そんな事より一夏、これはどういう状況なんだ?」
「俺にも分かりませんよ。ウサ耳マッドが降ってきたわけでもなさそうですし」
「アイツはこんなことしないだろ。見ず知らずの相手が多い場所に現れるヤツでもないしな」
「状況によればするかもしれませんが、今の状況ではしないでしょうね」
可能性があった束も違うとなると、ますますこの爆発音の原因となったものが何か見当がつかなくなってしまった。未だに土煙が上がり続けているので、中心部に何があるのか確認も出来ないのだ。
「兎に角油断しないで、戦闘態勢を解かないようにしてください」
「一夏、私と貴方で中心部に攻撃を仕掛けて、土煙を吹き飛ばしましょう」
「そんな事しなくても、いずれ晴れるでしょうし、敵も今のところ動く気配も無いようだ」
「てか、あの中心地に堕ちてったSHは大丈夫なのか?」
オータムの言葉に、一夏とスコールはそろって中心地に視線を向ける。サイレント・ゼフィルスを纏っているから死んではいないだろうと思っているが、余計な恨みを買った恐れはある。
「てか、本当に教えてなかったんだな」
「当然でしょ? あの子に教えて妨害でもされたらせっかくの計画がパァですもの」
「やはりそっちでもあの馬鹿は馬鹿のままなのか」
「何処にいても邪魔にしかならないな、あの馬鹿は」
「貴女たちも大差ないと思いますけど?」
「「そんなことはないだろ! あの馬鹿と一緒にするな!」」
一夏の辛辣なコメントに、織斑姉妹は声を揃えて反論する。確かに命令は守らないし仕事は放り投げる事が多いが、自分たちは箒ほど周りに迷惑はかけていないと思っているのだろう。
だが実際に、仕事は生徒会や真耶に投げ、自分はやりたい事をやるという暴挙に出たり、頼まれた監視もまともに出来なかったりと、いざという時のポンコツ加減は中々なものがこの二人にはあるのだ。箒と同列に視られても仕方ない節は確かにある。
「おい、なんか飛んできたぞ」
「SHじゃないの?」
「いや、それもだが……」
オータムの言葉に、全員が土煙の中心地――爆発音の原因となったものが浮いてくるのを確認した。
「ISか?」
「そのようだな」
「馬鹿以外にもISがいるな」
一夏と織斑姉妹も、第三者の存在を確認し、警戒を強める。
「全く。人の頭にこんなポンコツを落とすなんて、失礼しちゃうわよね」
「女の子……?」
刀奈が呟いたように、土煙の中から聞こえた声は、女性というより女の子と表現した方が良い感じだった。
「誰だ? 亡国機業の過激派の人間なのか?」
「その声は」
一夏が問いかけると、土煙の中から嬉しそうな声が聞こえてきた。
「そうだよ。私が亡国機業の過激派といわれてる組織――というか、そのものなんだけどね」
「一人……なのか?」
過激派と言われてたから、てっきり大勢いるものだと思っていた一夏だったが、その実態はこの少女一人だったようだ。
「そうだよ、『お兄ちゃん』」
「お兄ちゃん?」
そう呼ばれた事で、一夏の頭はますます混乱に陥っていく。唯一の妹であるマドカは隣にいるし、自分の事を「お兄ちゃん」と呼ぶラウラは、今は避難してこの場にはいない。
「君は、誰だ?」
「はじめまして、お兄ちゃん。織斑マナカだよ」
名前を聞いても、一夏にはピンと来なかった。だが、隣の織斑姉妹は確かに息を呑んだ。そう一夏には思えたのだった。
てなわけで黒幕、というか過激派の人間、織斑マナカの登場です