打ち合わせ通り襲撃に備えるオータムは、ふと気になった事をスコールに尋ねた。
「今の亡国機業のトップって、結局は誰なんだ?」
「あら、てっきり知ってると思ってたけど」
「知るわけねぇだろ。興味なかったし、オレはそう言った集まりに呼ばれてねぇんだからよ」
「そうだったわね。残念だけど、私も直接会ったことは無いわ。今のトップは警戒心が強くてね。モニター越しにしか会議に出てこないし、どうしても出られない時は名代を立ててたから」
「名代?」
トップの名代というからには、かなりの高齢者を想像したオータム。しかしスコールの答えは、こちらも歯切れが悪かった。
「全身を衣服で包んで、体格も性別も分からない感じよ。本当に名代なのか、それともあれが今のトップなのではないかと、穏健派の幹部たちが話してるのを聞いたことがあるわ」
「何だよ。つまり、今のトップを見たことあるヤツはいねぇのか?」
「過激派の幹部なら、あるいは知ってるかもしれないけどね。生憎、過激派との繋がりは無いから、真実は分からないけど」
悪びれも無く告げるスコールに、オータムはため息を吐いた。
「なら、何で過激派の人間が多くの国とパイプを持ってるって知ってるんだ?」
「繋がりは無くても、動きは監視してるから分かるのよ。過激派の誰かが国同士で潰しあいをさせて、その隙を突いて戦力増強を図ってるってね」
「動きは分かるが、誰が動いているか分からないって不気味じゃねぇか?」
「そうなのよね……過激派のグループ編成も分からないし、そもそも誰が中心になって動いてるのかも分からないなんて、不気味でしかないのよね」
「穏健派の人間たちも知らねぇのか?」
対立してるんだから、それくらい知ってるのではないかと問いかけるオータムに、スコールは首を左右に振って否定した。
「穏健派の人間も、過激派がどれくらいの人数で形成されているのかも知らないらしいのよね。というか、以前から亡国機業に所属していた人間の殆どは、穏健派か独立派に属しているから、過激派に誰がいるのか全然見当もつかないのよ」
「何だよそれ。つまり本当にいるのかどうかも分からない相手を警戒し、おびき出そうとしてるって事かよ」
「大げさに言えばそう言う事ね。でも、間違いなく過激派の人間は存在してるのよ」
「まぁ、それは疑ってねぇけどよ……」
イマイチ乗り切れない態度を示すオータムだったが、彼女がスコールの言葉を疑うはずも無く、結局は彼女の指示に従うのだった。
集団行動として列車を使用している最中に、一夏たちは亡国機業の気配を察知した。もちろん打ち合わせ通りなのだが、殆どの生徒は襲われる事すら知らないので、一気にパニックに陥りそうになった。
『皆、落ちついて! 私たちが食い止めるから、皆は織斑先生たちの指示に従って避難してください』
車内アナウンスを利用して、刀奈がそう一年生たちに告げる。何故刀奈がこの場にいるのか疑問に思った生徒は少なくなかったが、緊急時であることを思いだし素直に指示に従った。
「私たちも出撃するべきではありませんか?」
「そうね。何とかして千冬さんたちの目を――痛っ!? 誰よ!」
「織斑先生と呼べ! そして、お前たちは大人しく避難しろ」
「ですが、私たちも専用機持ちとして――」
「既に更識所属の面々が出撃している。お前たちにあいつらの動きについて行くことが出来るというのか? 鷹月や日下部ですら避難対象になっているのに、更識所属でもないお前たちが? 自惚れるな小娘共」
千夏の言葉に、セシリアも鈴も大人しくなる。確かに静寐や香澄も大人しく避難しているのだ。その二人の動きについて行くのがやっとの自分たちが出撃しても、恐らく邪魔にしかならないと理解して、大人しく避難誘導に従うのだった。
「やれやれ、やはり一夏の読み通りだったな」
「正義感に溢れるのはいい事だが、自分が出来る事と出来ない事の区別はしっかりとしてもらいたいものだ」
そう呟きながら、千冬と千夏は殿を務める。万が一箒がこちらに向かって来ても、この二人が対処すれば大抵の事は解決できるという一夏の考えによるものだが、二人は一夏に頼ってもらったと言う事を喜び、何があっても生徒は守るという教師本来の仕事をすることにしているのだった。
「おい、あれを見ろ」
「ほう、あの馬鹿箒がまともに動けるようになっているのか」
箒を食い止めるために囮になっているのは、一夏と刀奈。箒の狙いは自分だろうからと一夏が申し出て、ISにおける一番信頼の高い刀奈がそれに随行する形となっている。
「一夏のヤツ、若干震えてるではないか」
「やはり、子供の時にあの馬鹿は消しておくべきだったか」
十分な距離を取っているので、トラウマは発動していないようだが、それでも本来の動きには程遠い感じに見受けられる。
「ここまでは計画通りか。残りは過激派とやらが現れれば全て終わるのだが」
「ホテルに残してきた真耶からの連絡はまだか」
モニター室に閉じ込められた――千冬たちは仕事を任せたと思っている――真耶からの連絡を待っていると、ちょうど着信を告げるメロディーが流れた。
「来たか?」
『大変です、織斑先生! 超高速で接近するISを捉えました』
「数は?」
『一機です! まもなくそちらに――』
真耶からの連絡を受けている最中に、元いた場所から物凄い爆音が聞こえ千冬は通信を切った。生徒たちの避難は完了しており、そこの守りは碧が担当なので抜かりはない。
「行くぞ、千夏」
「分かっている」
千冬と千夏は念のために持ってきていた暮桜と明椛を展開し、爆音がした場所まで高速で移動するのだった。
またキャラの名前を考えなければ……まぁ、簡単で良いんですけどね、今回は