暗部の一夏君   作:猫林13世

338 / 594
いなくなってたら慌てるよな……


真夜中の勘違い

 夜中にふと目を覚ました刀奈は、部屋に一夏がいない事に気がつき慌てた。

 

「えっ、一夏君、何処に行ったの!? トイレ? それとも……」

 

 

 亡国機業の計画が一夏を捕まえるために罠で、もしかしたら攫われてしまったのではないかと思い至った刀奈は、すぐに部屋を飛び出して一夏を探そうと行動する。だが、部屋を飛び出る前に部屋の扉が開き、慌てている刀奈を見て呆気に取られている人物が視界に入った。

 

「一夏君?」

 

「はい、どうかしたんですか?」

 

 

 何故刀奈が慌てているのか見当もつかないという表情で、一夏が刀奈に問いかける。

 

「どうかした、じゃないわよ! こんな時間に何処に行ってたのよ!」

 

「何処って、駄ウサギと打ち合わせに」

 

 

 刀奈が慌てている分、いつも以上に冷静に答える一夏。その態度を見て落ち着きを取り戻したのか、刀奈がその場に座り込んだ。

 

「心配させないでよね。亡国機業が一夏君を攫っていったのかと思ったじゃない」

 

「織斑姉妹の監視を掻い潜って? 碧さんもいるのにですか?」

 

 

 普通に考えればありえない事だと、刀奈も今では理解している。だが、目が覚めて一夏がいなかったという衝撃は、冷静な判断が出来なくなるには十分すぎる衝撃だったのだ。

 

「スコールたちが俺を罠にはめるのはあり得るかもしれませんが、今のタイミングでは無意味です。過激派の動きが活発になっている今、俺を攫ったところで過激派に横取りされるのがオチですからね。今のスコールたちでは、過激派の動きに対応しきれませんから」

 

「……だったら、書置きくらいしておきなさいよね。誰かが起きて心配するかもって考えなかったの?」

 

「こんな時間ですし、皆さん熟睡してましたからね」

 

 

 そう言って一夏は、寝入っている三人に視線を向けた。刀奈もつられるように三人に視線を向け、確かに寝入っているなと思ったのだった。

 

「それで、刀奈さんは何故起きたんですか? 少なくとも、俺が部屋から出ていく前は確実に寝入っていましたよね? トイレですか?」

 

「違うわよ! なんとなく胸騒ぎがして目が覚めたの。そうしたら一夏君がいなくて……だから、もしかしたらって思ったわけ」

 

「胸騒ぎ…ですか? 学園で虚さんが怒ってるとかじゃなくて?」

 

「……その可能性は否定できないわね」

 

 

 虚に黙ってこっちに来ているのだ。生徒会の仕事や、学園周辺の警戒などを虚一人に押し付けているので、虚の怒気がここまで飛んできた可能性もあると、刀奈はIS学園の方角を向き、両手を合わせて頭を下げた。

 

「とりあえず、明日――いえ、日付が変わったので今日ですか。亡国機業と一戦交える事になるのは確かですので、ゆっくりと寝てください。俺ももう寝ますので」

 

「目が冴えちゃって……少しお話ししない?」

 

「少しだけですよ」

 

 

 ため息を呑み込んで刀奈の要求に応える一夏。その表情はマドカや本音に向けられるものに近かったが、刀奈はその表情に気付くことなくソファに座り一夏とお喋りをすることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏が部屋に戻ったのを気配で感じ取り、千冬と千夏、そして碧は一先ず安堵の息を吐いた。

 

「篠ノ之博士との打ち合わせは無事に終わったようですね」

 

「あの馬鹿が一夏をそのまま連れ去るかもしれないと思ったが、そこまで馬鹿ではなかったようだな」

 

「一応天才発明家ですよね? その人相手に馬鹿を連呼するとは……」

 

「わたしと千冬は、あの馬鹿と付き合いが長いからな。世間では天才発明家だとか大天災だとか言われているが、アイツの本性はただの馬鹿だ」

 

 

 千夏の言葉に千冬も頷いて同意する。碧も学生自体から束の事は知っているが、この二人はそれより以前から束との付き合いがあるので、自分が知らない一面も知っているのだろうという事で自分を納得させた。

 

「それにしても一夏のヤツ、束まで巻き込んで何をするつもりなんだ?」

 

「私を見ても何も答えませんからね。ていうか、私も詳しい事は聞いていないんですから」

 

「本当か? 一夏の懐刀であるお前が、今回に限って何も聞かされていないというのか?」

 

「それだけ、周りにも知られてはいけない計画なんでしょう。今回は私は後方支援、あくまでも手伝い程度ですから、詳しい事は何も聞かされていません」

 

 

 自分や織斑姉妹が前線に出てしまうと、本気で箒を潰しかねないと判断されたのかは分からないが、碧は今回の作戦では後方支援を頼まれたのだ。その判断に文句は無いが、若干不服に感じているのは確かだった。

 

「更識姉がいるから、お前も後方支援なのか」

 

「どうでしょうね? 刀奈ちゃんがいてもいなくても、一夏さんの指示は変わらなかったと思いますけど」

 

「まぁ、他にも専用機持ちはいるからな」

 

 

 避難させる生徒の中にも、専用機持ちは数名いる。その専用機持ちが暴走しないように見張るよう、一夏から頼まれているのだ。

 

「オルコットさんやボーデヴィッヒさん、凰さんが暴走したら私たちしか止められないからかもしれませんけどね」

 

「アイツらなど、睨み一つで大人しくなるだろ」

 

「それは貴女たち姉妹だから出来る技でしょうが……」

 

 

 例えば真耶が睨んでも、専用機持ちたちは大人しくならないだろう。千冬たちの概念で物事を言われ、碧は何でこの人たちと行動しなければいけないのだろうと、心の中で一夏に恨み言を溢したのだった。




どっちが年上だか分からなくなってきたな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。