暗部の一夏君   作:猫林13世

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教師たちも更識の子たちも準備は怠りません


それぞれの打ち合わせ

 一夏から情報を聞いた織斑姉妹と碧は、生徒の避難を担当するであろう真耶と紫陽花にも情報を伝えるために部屋を訪れていた。

 

「つまり、私たちは生徒たちが慌てないように、落ちつかせながら退避すればいいんですね?」

 

「そうだ。それから、好戦的な奴が数人いるから、そいつらが出撃しないように見張っていろ」

 

「好戦的というと、オルコットさんや凰さん、ボーデヴィッヒさんですか?」

 

「そうだな。その辺りが篠ノ之目掛けて出撃する可能性は否めん。だが、今回の襲撃はあくまでも本命をおびき出すための偽装だ。本気で戦闘を始められては計画が狂ってしまうからな」

 

「敵戦力の全てがここに集結するわけではなさそうだけど、ある程度は戦力を削ることが出来ると思うわ。だから、一夏さんの計画に狂いが生じないように、真耶と紫陽花にはバックアップをお願いしたいのよ」

 

 

 碧の追加の説明に、真耶と紫陽花が力強く頷く。元々織斑姉妹と碧の三人を尊敬している紫陽花にとって、この三人から命じられる事は幸せであり、真耶は一夏の実力――主に作戦面での――を十分に知っている為に、彼の立てた計画ならと信頼を置いているのだ。

 

「問題は、馬鹿箒がこの作戦を聞かされていないと言う事だな」

 

「何故亡国機業の人は、篠ノ之さんにこの事を教えないのですか?」

 

 

 千冬の呟きに、真耶が当然の疑問を投げ掛ける。事をうまく運ぶには、箒にも情報を与えた方が絶対に良いと思っている真耶とは対照的に、千冬と千夏は盛大にため息を吐いて、真耶の疑問に答えた。

 

「あの馬鹿は、作戦というものをまるで気にしないからな。自分が動きたいように動き、戦いたい相手を見つけて勝負を挑む。教えるだけ無駄の作戦をアイツに伝え、敵に知れ渡ったら大変だからな。ましてや偽装出来るほど器用でもないアイツのことだ。反発して余計に本気で殴り掛かってこないとも限らないからな」

 

「亡国機業の連中も、二ヶ月弱アイツと過ごして、アイツの性格を重々承知したのだろう。演技が本気に変わるなんてことが、アイツなら十分にあり得るからな」

 

「こちらとしても、篠ノ之さんと無駄に戦って戦力を失うのは避けたいですからね。篠ノ之さんの相手は、一夏さんが適任をぶつけるでしょうから、真耶と紫陽花は気にしなくていいわよ」

 

「そうだったんですか。確かに、篠ノ之さんはあまり言う事を聞く子じゃなかったですしね」

 

 

 一学期の実習風景を思い出し、真耶がしみじみと呟く。一方の紫陽花は、担当した事が無かったので、篠ノ之箒という生徒の情報は殆ど持ち合わせていない。だが、この三人が言うのであれば間違いないのだろうと、特に疑いを持つ事なく受け入れたのだった。

 

「襲撃予定は明日の正午。集団行動の最中に馬鹿箒を含む四機のISが被害の少ない場所を目掛けて攻撃を仕掛けてくる。それを合図に一夏以下更識所属の面々が対応にあたる」

 

「お前ら二人は、その隙を突いて生徒たちを安全な場所へ誘導、避難した専用機持ちが突撃しないように見張っていろ」

 

「追加の指示は、たぶんデュノアさんを介して一夏さんから伝えられると思うから、もし何かあったらお願いね」

 

「分かりました」

 

 

 何故シャルなのか、という疑問は口にせず、真耶と紫陽花はそろって頷いてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教師陣が作戦の確認をしている頃、一夏たちは部屋でのんびりと過ごしていた。四人部屋に五人いるが、一夏はベッドを使わないと宣言しているので、誰が一緒に、とかいう争いは起きなかった。

 

「刀奈お姉ちゃん、帰ったら虚さんに怒られるからね」

 

「分かってるわよ……でも、一夏君の作戦には私も必要だし、結果的に来て良かったんじゃない?」

 

「刀奈さんがいなかったら、別の作戦にしましたよ」

 

 

 開き直って図々しい事を言いだした刀奈に、一夏の冷静な指摘が入り、再び刀奈はしょんぼりと俯いた。

 

「兄さま、簪が来ました」

 

「ああ、入れてくれ」

 

 

 マドカに続くように、簪が部屋に入ってくる。クラスが違うので別の部屋なのだが、緊急と言う事で消灯時間までこの部屋にいて良いと織斑姉妹から許可を貰っている。ちなみに、他の生徒がこの部屋に近づけばすぐに織斑姉妹が飛んできて、消灯時間までお説教というありがたいプランが待っているのだ。

 

「それで一夏。亡国機業の独立派? と手を組んで、どうするつもりなの?」

 

「一つは戦力の充実かな。候補生を外されたとはいえ、ダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアは実力者だ。更識に引き込めれば心強い。スコールとオータムも言わずもがなだがな」

 

「いっちー、シノノンは~?」

 

「アイツは……束さんにでもくれてやれば良い。身内なら容赦なく人体実験出来るだろ」

 

「普通逆では?」

 

「あの人は身内以外を人とは思わないから、人体実験じゃなく動物実験としか思ってないからな」

 

 

 美紀の冷静なツッコミも、束というイレギュラーには通用しないと一夏が言い放つ。実際束は人体実験に興味を持っているが、人間と認識してる相手が少ないので、一夏の言う通り動物実験の域を出ていないのだった。

 

「問題は、俺と刀奈さんでどこまでアイツを引き留められるか、だな」

 

「大丈夫、私これでも国家代表だもの。猪武者くらい引き留めて見せるわ」

 

 

 自信満々に胸を張る刀奈を見て、一夏と簪はなんとなくため息を吐きたくなったのだった。




やはり最大の問題は箒か……

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