暗部の一夏君   作:猫林13世

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連携するうえでは大切な事です


情報の共有

 京都散策を終えた一夏たちは、とりあえず情報を共有するために簪を部屋に呼び、スコールとの話し合いの内容を伝えた。

 

「つまり、初めは派手に戦ってるフリをして、本命が来たらそのスコールって人たちと協力して黒幕を捕まえるのね?」

 

「簡単に言えばそうです。ただし、向こう側には篠ノ之がいますので」

 

「でも、箒ちゃんにだって情報は行ってるんでしょ?」

 

「いいえ。あいつはこういった作戦などは受け入れず、一人で突っ走るらしいので、伝えるだけ無駄だと言っていました」

 

 

 一夏の言葉に、刀奈たちは納得の表情を浮かべる。それなりに実力はつけているようだが、そういった連携の部分では成長していないようだと、容易に想像出来てしまったのだ。

 

「それじゃあ、篠ノ之さんは本気で私たちに挑んでくるってこと?」

 

「アイツの本気なんてたかが知れてるだろうが、アイツの行動は想像出来ないからな……複数人で動きを止める方向で考えた方が良いだろう」

 

「なら、篠ノ之箒の相手は私がやります」

 

 

 マドカが手を挙げて立候補すると、本音もつられるように手を挙げた。

 

「じゃあ私も~。シノノンを怒らせて私たちに攻撃を集中させればいいんでしょ~?」

 

「まぁ、アイツを怒らせるのは本音が適任かもしれないな」

 

「ちょっと図星を突けば、すぐに突っ込んでくるからね~」

 

「本音に図星を突かれたら、誰だってカッとなるでしょうけども、篠ノ之さんは特にですからね」

 

 

 実際、前の襲撃の際に、本音に図星を突かれた箒は激高し、他の相手には目もくれずに本音に突っ込んできた。その光景を見ている簪たちは、本音が立案した作戦を支持した。

 

「一夏君、私は?」

 

「刀奈さんは、向こうがこちらとの約束を反故にした際の切り札として待機、約束を守って黒幕が出て来たら、その確保に動いてください」

 

「つまり、初めは出番なしなの?」

 

「何で残念そうなのか分かりませんが、こっちには静寐や香澄、セシリアたちといった専用機持ちがいるんですから、刀奈さんを最初から投入する必要はありません。それに、織斑姉妹や碧さんといった実力者も控えていますので、大人しくIS学園に戻っていただいても構いませんよ」

 

 

 不満そうな刀奈に、一夏は満面の笑みを浮かべて問いかける。間違いなく顔は笑っているのに、その目は笑っているようには見えなかった。

 

「わ、分かったわよぅ……でも、一夏君が危ないと思ったら、容赦なく助太刀するからね」

 

「ええ、その時はお願いします。まぁ、そんな事は起きないと思いますがね」

 

 

 そう言って一夏は、立ち上がり部屋から出て行こうとする。

 

「どこ行くの?」

 

「織斑姉妹と碧さんにも、この事を伝えておかなければいけませんので。情報は共有しておかないと、いざという時に動けませんからね」

 

「なら、私もお供します。何もないとは思いますが、護衛としてしっかりと一夏さんをお守りしなければいけませんので」

 

「そうか。じゃあその前に簪を部屋まで送らないとな。簪だって更識の人間、襲われる可能性は俺と大して変わらないだろう」

 

 

 そう言って簪の手を取り、そのまま部屋から出て行った一夏を、刀奈たちは羨ましそうな目を向けて見送るしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪を部屋まで送り、織斑姉妹、碧といった教師陣たちに今回の件を報告した一夏は、一息吐くためにエントランスで缶コーヒーを購入し、ソファに腰を下ろした。その隣には、缶のミルクティーを一夏に奢ってもらった美紀が腰を下ろす。

 

「まったく、織斑姉妹の理解力の低さには頭が痛くなる」

 

「理解はしているんでしょうけども、それ以上に戦いたい衝動が強いんでしょうね」

 

 

 一夏からの説明を受け、織斑姉妹が出した答えは――

 

「「来るもの全てを叩き潰せばいいんだな!」」

 

 

――というものだった。

 ある意味でそれは有効な手だと一夏も思ったが、もしかしたら亡国機業・独立派をこちら側に引き込むことが出来るかもしれないという考えがあるので、全てを叩き潰されては自分の考えが実行出来なくなってしまうのだ。

 何せ独立派には、自分のトラウマ発動の条件である篠ノ之箒とオータムがいるのだ。これが味方になれば、戦闘中にトラウマを発動させ周りに迷惑をかける可能性が大幅に減るのだ。一夏としてはなんとしても独立派をこちら側へ引き込みたいのだった。

 

「あの二人を見ると、マドカは素直に育ってるなと思えるよ」

 

「マドカさんは一夏さんの言う事は素直に聞きますからね。他の人の意見も素直に聞きますし、不審な点があればすぐに確認しますから、理解力も高いですからね」

 

「織斑姉妹と同じ血が流れてるとは考えられないな……それとも、亡国機業の躾け方が良かったのか? いや、束さんを狙ってた時は、織斑姉妹と大差ない言葉遣いだったし、それは無いか……もしそれだけの躾け能力があるのであれば、篠ノ之箒も更生出来てるだろうしな」

 

「マドカさんのあれは、一夏さんが彼女を受け入れ、愛情を注いだ結果ではないでしょうか」

 

 

 確かにマドカの性格は、一夏に気に入られたい一心で変わったと言っても過言ではない。だが、それだけで変われるほど、人の性格は簡単ではないと一夏は思っているのだ。

 

「兎に角、暴走はしないように見張りとつけておいた方が良いだろうな……」

 

「なら、それは一夏さんと刀奈お姉ちゃんでしたらどうでしょう? 私たちは、形だけとはいえ亡国機業と戦わなければいけませんし」

 

「そうだな。まぁ、さすがの織斑姉妹も、演技だと分かってる戦闘に首を突っ込むことはしないだろうけどな」

 

 

 自分で言っておきながら、一夏はあの二人の姉に一抹の不安を懐いていた。また美紀も、あの二人なら演技の戦闘だろうが突っ込んできそうだなと思っていたのだった。




なんだかんだ言っても、頼られる織斑姉妹……

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