暗部の一夏君   作:猫林13世

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行儀悪いですけどね……


本音の癖

 スコールとの密会を終えた一夏と美紀は、マドカと本音を探すべく気配を広げた。

 

「意外と近くにいるな」

 

「まぁマドカさんと本音ですから、歩みが遅くても仕方ないと思いますよ」

 

 

 本格的な旅行が初めてのマドカと、マイペースな本音のコンビだから、それも仕方ないのかもしれない。一夏と美紀は二人と合流を急ぎ、少し駆け足で二人の気配の位置まで移動する。

 

「ところで一夏さん、あの人の話し、何処まで信用出来ると思いますか?」

 

「俺がアメリカのコアから聞き出した情報と、ほぼ一致する情報だったからな。ある程度は信用していいと思うぞ。問題は篠ノ之が何も知らない、という一点だろうな」

 

「前回の襲撃時の能力を一夏さんがデータ化したものをVTSに反映して対策しているとはいえ、あの人は毎回想定外の動きを見せますからね……」

 

「人が想像出来る範疇にいないんだろ、きっと」

 

 

 姉があんな感じなのだから、妹もきっと人外なのだろうと結論付けている一夏は、箒の事も人間レベルではないと説明する。

 

「その理屈だと、一夏さんやマドカさんもそれに当てはまるのでは」

 

「実際俺は一種の人外だろ? 生憎、戦闘ではなく開発や研究の方面だが」

 

「では、マドカさんは?」

 

「マドカは分かりにくいが、成長速度が普通の人間の倍以上ある。これは努力しているのもあるが、一種の人外なのかもしれないな」

 

 

 マドカの事を話題にしていたのが聞こえたのか、向こう側からマドカが駆け寄ってきた。

 

「兄さま、早かったですね。野暮用とやらは済んだのでしょうか?」

 

「ああ、バッチリとな。それより本音はどうした? 気配は側にあったはずだが」

 

「本音でしたら、あそこで甘味を楽しんでいますよ」

 

「ふぁ、いってぃー!」

 

「……せめて飲み込んでから喋れ」

 

 

 一夏の姿を見つけて手を振る本音に、一夏はため息を吐きながらツッコむ。昔から口に物を入れて喋る癖がある本音に、虚も一夏も散々注意してきたのだが、ついにその癖は治らなかったのだ。

 

「兄さま、先ほど姉さまから電話がありまして、ホテル周辺に疑わしい気があったようです。ですが、何もせずに引き返したので、今回は見逃したと」

 

「何故マドカに報告したのかはさておき、恐らくウサ耳マッドだろうな、その気配は」

 

「不審者判定なんですね……」

 

 

 束の扱いに驚きを覚えた美紀だったが、今までの登場の仕方や、面倒事を起こしてきたのを思い出し、それも仕方ないのかもしれないと思い始めていた。

 

「兎に角、ゆっくりと散策してホテルに戻るか」

 

「一夏さん、あまりやる気がありませんね」

 

「小学生の頃に来てるし、部屋でのんびりしてる方が性に合ってる」

 

「兄さまは確かにインドアですからね」

 

「俺が動けばそれだけ人に迷惑がかかるからな……なるべく外には出たくないんだよ」

 

 

 妹に引き篭もり扱いされたようで、一夏はとりあえずの言い訳を試みたが、あまり効果は無かったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アジトに戻ってきたスコールを、オータムとダリルが出迎えた。

 

「あら、お出迎えなんて嬉しいわね。それより、何時の間にそんなに仲良くなったのかしら?」

 

「御託はいいぜスコール。それより、何処に行ってたんだよ」

 

「前に説明した通りよ。過激派の勢いを削ぐために力を借りに行ったの」

 

「それで、確約は取れたの?」

 

「一応はね。でもSHはすぐに顔に出るから、前にも言った通り彼女には秘密ね」

 

 

 箒の性格を知っている二人は、そろって首を縦に振る。

 

「それにしてもよく協力してくれる気になったな。アイツには散々酷い事をしてきたっていうのに。もしかしてドMなのか?」

 

「利害が一致したからでしょ。一夏はどう考えてもドSよ」

 

「そうね。更識君のあの目は、どうやって私をいたぶろうか考えている感じだったもの」

 

「簡単に尻尾を掴まれるようじゃ、スパイが聞いて呆れるぜ」

 

「あら、貴女がしっかりと捕まえてくれてれば、私だってこんなに早く学園を去る事は無かったと思うのだけども?」

 

 

 一発触発の空気が流れる中、スコールは手を鳴らして意識をこちら側に引き戻した。

 

「今から足並みを乱してどうするのよ。これは私たちの野望の第一歩なのよ。多少の仲の悪さは目を瞑ってあげるけど、これからって時に喧嘩は止めてちょうだい」

 

「ちっ、分かったぜ」

 

「私はもとより、喧嘩を売るつもりはありませんわ」

 

「そうやって煽るのもやめなさい。それより、過激派の目を欺くために、初めは結構本気でぶつかる事になるわ。一夏の方でもある程度の手加減はしてくれるでしょうけども、くれぐれも本気で潰しに行かないように」

 

 

 ダリルを諫めながら、スコールはオータムに視線を向けて注意を促す。彼女の性格上、作戦だと分かっていても強者と戦えるとなると、作戦を無視して戦闘を楽しむ傾向があるのだ。

 

「分かってるっての。だいたい、オレの投入は過激派が姿を現してからだろ? 更識の餓鬼共と戦う理由がねぇだろ」

 

「分かってるならいいのだけど。でも貴女の事だから、我慢しきれずに飛び出してくる、なんてこともあり得るでしょ? だから、念のために確認しただけよ」

 

 

 あながち否定できないと感じたのか、オータムは何も反論せずに、素直に頷いたのだった。

 

「決行は明日の正午。場所は前に伝えた通りよ」

 

「了解」

 

「分かったわ」

 

 

 最終確認を済ませ、三人はそれぞれに割り当てられた部屋へと戻っていくのだった。




何言ってるのか分からないですからね……

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