早朝から新幹線で移動して、一夏たちは目的地であるホテルへと到着した、まずチェックインを済ませ、荷物を部屋に運んでからの班行動となっているので、一年生全員がそれぞれの荷物を持って部屋へと移動していく。
「失礼、更識一夏様でございますか?」
「そうですが」
「お荷物が届いております」
「分かりました」
中身はなんとなく理解しているので、特に訝しむことも無くフロント係の案内に従って荷物を受け取りに行く。大きな段ボールを受け取り、一夏は簪と美紀、そして碧を従えて箱を開けた。
「じゃーん! 貴方のお義姉さんで……す?」
「さて、さっそく説教タイムといきましょうか」
満面の笑みで飛び出してきた刀奈だったが、周りを囲むように立っていた一夏たちを見て、表情を強張らせた。
「えっと……ちょっとしたお茶目よ」
「虚さんが怒ってましたが、このまま送り返されるのと、大人しく怒られるの、どっちがいいですか?」
「……ごめんなさい」
箱から出て、その場に正座して頭を下げる刀奈。所謂土下座だが、今回は形だけではなく本気で反省しているようだった。
「次からは容赦しませんからね」
「……許してくれるの?」
「その代わり、俺たちがいない間のこのホテルの警備、襲われた時の連絡係をお願いします。部屋は俺たちと同じでいいですから、ゆっくりとしててください」
最初からそのつもりだったと、簪と美紀、碧は知っていたが、その事は顔に出さず、仕方ないという雰囲気を醸し出す。その演技にまんまと引っかかった刀奈は、もう一度頭を下げてから一夏に抱き着こうとして――三人に襟首を掴まれたのだった。
「では刀奈ちゃんはこっちだから。それでは一夏さん、ゆっくりと観光してきてください」
「それじゃあ碧さん、お姉ちゃんの事、よろしくお願いします」
「えっ、ちょ……私も観光したいんだけど」
「刀奈さんは、部屋で謹慎です」
まさか初日から警備につかされるとは思っていなかった刀奈は、泣きそうな顔で碧に引っ張られていくのだった。
「ちょっと可哀想でしたね」
「いいんだよ、美紀。お姉ちゃんにはあれくらい厳しくしないと響かないんだから」
「まっ、これでも大分甘い沙汰なんだがな」
「おーい、いっちー! そろそろ行こうよ~!」
「兄さま、準備出来ました!」
「やれやれ、あいつらはほんとマイペースだな」
刀奈と入れ替わるようにやって来た本音とマドカに癒されつつ、一夏は苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ、私は別行動だから」
「ああ。また後で」
クラスの違う簪とも別れ、一夏と美紀は本音とマドカと合流し、京都を散策する事にしたのだった。
IS学園に忍び込もうとしたアメリカ軍の背後に過激派がいた事は、スコールたちも突き詰めていた。
「どうするんだ? アイツらにとっちゃ、オレたちも過激派連中も変わらないと思われてるんじゃねぇのか?」
「更識君は冷静に分析するでしょうけども、私たちが亡国機業であることには変わらないものね……その辺りの判断を誰が下すのかにもよるんじゃない?」
「でもよ、オメェと更識の代表、布仏だっけか? 相性悪いんだろ? 個人的感情が邪魔をするなんて事もあるだろ」
「布仏が判断を下すとは思えないけど、多少感情的になるかもしれないわね。だから、出来る事なら更識君個人で判断してもらいたいわよ」
元IS学園所属のレイン・ミューゼルことダリル・ケイシーは、IS学園内の問題について誰が判断を下すかある程度予想はついている。だが、今回は事が事だけに、織斑姉妹が判断を下す可能性もあるのだ。
「織斑姉妹が判断する場合は、過激派や独立派などの派閥など気にせずに、亡国機業を潰せばいいとでも考えるでしょうね」
「それが一番楽だろうからな……でもよ、あいつらと一纏めにされるのは気に食わねぇな」
「その意見には同感だけど、織斑姉妹の考え方ってそんな感じだったわよ」
派閥があろうがなかろうが、まとめて潰せばすっきりする、それが織斑姉妹の考え方だと理解しているダリルは、諦め半分の気持ちでオータムにそう告げた。
「ところで、スコールは何処に行ったんだ? オレたちに黒幕を伝えてから姿が見えねぇんだが」
「さっきどこかに出かけたわよ」
「一人でか?」
「ええ。そもそも私のパートナーも、貴女のパートナーも特訓中なんだから、他にスコールに同行出来る実力者はこの派閥にはいないわよ」
「SHが癇癪を起した所為で、前の突撃戦の時に大分戦力を削られたからな……突貫工事じゃ期待も出来ねぇか」
「それでも、鍛えない事には始まらないもの」
「そんなことお前に言われなくても分かってるが……それでも愚痴りたくもなるってんだよ」
過激派のパトロンを潰す事に失敗して、それに加えて戦力を失った事で独立派は立場が危うくなっている。今までは見て見ぬふりをされていたが、本格的に潰されそうになっているのだ。
「とにかく今は、更識一夏の協力を得られねえかどうかに懸かってるんだろ?」
「協力するつもりは無いでしょうけども、過激派と独立派を別として扱ってくれるかに懸かってるのは確かでしょうね。更識が本気で潰そうと思えば、私たちなんて一瞬で消されてもおかしくないんだから」
それだけの戦力を有しているのは、ダリルもオータムも重々承知している。別組織だと理解してもらえるかどうか、それだけが心配なのだった。
お説教はすべてが終わった後で