選考合宿への適性検査に合格した刀奈は、本格的にISの戦闘訓練を受ける事になった。
「分かっているとは思うが、ここで才能なしと判断された人間は即座に帰宅してもらう」
「怪我などされて面倒を起こされては困るからな」
教官役の織斑姉妹の言い草に、刀奈は呆れたのを顔に出しそうになった。
「(なんて自分勝手な人たちなのだろう……一夏君を更識から連れ出そうとしてたのも納得ね)」
あまり面識の無かった相手だったが、周りの従者から「一夏を更識から連れ戻そうとしている」という事は聞かされていた。生活能力が無く、一夏に頼らなければまともな生活を送れない、というのもあったのだろうが、この二人は単純に一夏と生活したかっただけなのだ。だが、それは更識の人間からすれば自分勝手な思いで、一夏がそれを望むはずが無いとすぐに思える事だったのだ。
「(ISに関してだけ言えば凄い人なんだけど、それ以外はダメダメなのよね)」
織斑姉妹の本性を知っている刀奈は、八つ年上の教官の事を微妙な眼差しで眺めていた。
「次は貴様だ」
「はい」
「分かっているとは思うが、相手に怪我をさせるような事の無いように。面倒だからな」
「……相手はそれなりの実力者ですよね?」
「代表になれない候補生だからな。真の実力者には敵わない可能性がある」
「(別に私は実力者ってわけじゃないんだけど……)」
目の前の相手を見て、代表になれない理由が何となく分かった刀奈は、とりあえず怪我だけはさせないように気をつけようと心に決めて開始位置に向かったのだった。
刀奈は合宿に参加、一夏と虚は研究所に篭り何かをしている、そして碧は特別任務で屋敷にいない。少し前まではみんな揃って遊ぶ事もあったのに、最近では本音と美紀の二人しか遊び相手がいない事を、簪は気にしていた。
「かんちゃん、次はかんちゃんの番だよ?」
「……えっ? ああ、ゴメン」
「何か気になってるの?」
「ちょっとね……今の学年になってからお姉ちゃんたちと遊ぶ機会がめっきり無くなったな、ってさ」
「刀奈お姉ちゃんも虚さんも忙しくなっちゃったからね。一夏さんもだけど」
「いっちーは刀奈様のISを造る為の準備で、おね~ちゃんはそのお手伝いだもんね」
本音も納得はしていない様子だが、一応理解はしているのだ。美紀も二人が大事な事をしているのだと理解しているから、寂しいと思っていてもそれを口に出したりはしなかった。
「この前久しぶりに一夏に会ったけど、すぐにまた研究所に篭っちゃったじゃない? だから余計に寂しいって思っちゃったのかも」
「そうなんだ~……ってあぁ!? かんちゃん、ちょっと待って!」
「待ったはダメだよ、本音ちゃん」
考え事をしながらでも、的確に相手の急所を突いてきた簪に、本音が絶望の声を上げた。その横で美紀が苦笑いを浮かべながら本音に同情していた。が、味方をするつもりはなさそうだった。
「そういえばお父さんが一夏を正式に次期当主として認めたから、それもあって余計に忙しくなってるのかな?」
「私のお父さんも、一夏さんが忙しいのは仕方の無い事だって言ってた」
「いっちーが忙しいのは、周りの大人が仕事を押し付けてるからじゃないの?」
「押し付けてるわけじゃないと思うけど、一夏に仕事が回ってるのは確かだよ。お姉ちゃんがやってた事も一夏に任せてるから」
「そうなんですか……あっ」
「今度は美紀ちゃんが攻められてるね~……ほえっ!?」
「二人とも油断し過ぎ。ガラ空きだったよ」
別の事を話しながらも相手の隙を見逃さない。ゲームにおいて簪に勝てる相手はこの屋敷には存在しないと言っても過言では無かった。
「本音、ちゃんと宿題はしたのですか」
「あっ、おね~ちゃん! 今日はちゃんとしたよ~」
「そうか、珍しいな」
「一夏さん! どうしたんですか、今日はもう研究は終わったんですか?」
「まぁな。それで偶には息抜きでもしてくれ、と大人たちに言われてな……」
何をしたらいいのか分からなくなった、という表情で一夏は頭を掻いた。最近は研究か更識の仕事かで大半の時間が潰れていた一夏は、息抜きと言われても没頭出来る趣味が無かった。
「それじゃあいっち―たちも一緒に遊ぼう! かんちゃん、この勝負は無かった事に……」
「大丈夫。後三ターンで終わるから」
「「嘘っ!?」」
自分たちがそこまで追い詰められているなどと理解していなかった本音と美紀は、簪の宣言に驚いて画面を睨みつけた。だが、何処をどう攻めれば終わらせられるのかが分からなかった二人は、なすすべなく簪に敗北したのだった。
「相変わらず簪お嬢様はお強いですね」
「お姉ちゃんや虚さんに勝てる唯一だから。これ以外だと二人に敵わないし」
「アニメの知識だって、かんちゃんが一番だと思うよ~。後はそうだな~……B――もが!?」
「何を言い出すのかな、本音は」
余計な事を口走りそうになった本音は、簪に羽交い絞めにされて口を塞がれた。何でこんな事になっているのか分かっていないのは一夏だけで、虚と美紀は何となく察しがついていたのだった。
「今のは本音が悪いですね」
「そうですね、本音ちゃんが悪いですね」
「何の事です?」
「な、何でも無い! 一夏、ゲームしよ、ゲーム!」
「あ、あぁ……分かった」
慌てふためく簪を見て、これは触れてはいけない事なのだと理解した一夏は、大人しくゲームをする事にしたのだった。
「そういえば、本音は?」
「本音なら寝ちゃったよ」
「寝た? ……なる程」
もがき続けて疲れたのか、本音はその場で寝てしまったのだ。一夏はそう思う事にしてゲームに集中したのだった。
小学生でこれだと、いずれはエリート街道まっしぐらですかね……