暗部の一夏君   作:猫林13世

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ほっこりからラブコメ展開になりつつある……


一夏との時間

 旅行の準備を手伝うという名目で、簪は一夏の部屋に入り込んだ。普段は滅多に入ることが無いので、少し緊張した様子が見受けられる。

 

「一夏さんが修学旅行の準備をしていないのは分かりましたが、何故簪ちゃんまで一緒なんですか?」

 

「一夏は自分が興味ある事以外は全然ダメだから、手伝ってあげようと思って」

 

「確かに一夏さんは研究や開発以外は、あまり得意としてませんが――」

 

「おいおい、それ以外も並くらいは出来るぞ」

 

 

 一夏が美紀の表現にツッコミを入れる。確かに、やる機会が減っているが、一夏の料理はそこらへんの店には負けない程の美味さがある。

 

「今はそういうこまごまとしたツッコミは入れないでください」

 

「あっ、悪かった……」

 

 

 美紀の権幕に圧され、一夏が素直に頭を下げる。

 

「一夏、何で美紀はこんなに怒ってるの?」

 

「俺に聞かれても分かるわけないだろ……」

 

 

 小声で尋ねる簪に、一夏も小声で答える。

 

「だいたい簪ちゃんは、一夏さんの側にいたいだけで手伝うって言ったんでしょうが」

 

「悪い? 普段から一緒にいる美紀には分からないかもだけど、こうしたチャンスを掴まないと、私は一夏と一緒にいられる時間が少ないんだよ。クラスも違うし、もちろん、部屋が一緒になることも無いんだから」

 

「それは……」

 

 

 美紀が優勢に思われたが、あっさりと簪が形勢を逆転した。簪の言い分は最もで、クラスが同じ美紀は、旅行先でも一夏と行動を共にする機会が多い。だが簪は他クラスであるがゆえに、一夏と行動出来る時間は美紀たちの半分以下だ。こうしたチャンスを掴み取り、少しでも行動を共にする時間を確保しなければ、織斑姉妹のように暴走しないとも限らないのだ。

 

「兎に角、今日は私が手伝うから、美紀はゆっくりお風呂にでも入ってきたら? 最近シャワーだけで済ませる事が多いでしょ」

 

「そう言えば、最近の美紀は大浴場に行ってるイメージが無いな」

 

 

 部屋付きのシャワーで済ますことが多くなったと、一夏も感じているので、簪の案を支持したのだった。

 

「分かりましたよ。その代わり、くれぐれも間違いを起こさないようにしてくださいね」

 

「間違い? 何の話だいったい……なあ、かんざ……し?」

 

「ふぇ?」

 

 

 美紀が何を意図したのか理解出来なかった一夏は、簪に尋ねようと視線をそちらに向けた、するとそこには、顔を真っ赤にした簪の姿があったのだった。

 

「そ、そんな心配はしなくていいから、美紀は早いところお風呂にでも行きなさい!」

 

「その反応……やっぱり簪ちゃんは刀奈お姉ちゃんの妹だね」

 

「なんなんだよいったい……」

 

 

 互いにヒートアップしていく簪と美紀に挟まれて、一夏はため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえずは落ち着いたので、美紀は大浴場で反省するためにゆっくりと湯船に浸かっていた。

 

「美紀ちゃんがいるの、珍しいね~」

 

「最近は部屋のシャワーで済ませてたイメージがありましたからね。美紀と一緒に入るのは久しぶりです」

 

「二人とも、本当にお風呂好きね」

 

 

 一緒に浸かっている本音とマドカに感心の眼差しを向けて、美紀はもう一度ため息を吐く。

 

「何であんなにヒートアップしちゃったんだろう……」

 

「何の話~?」

 

「何でもないよ。ところで、本音やマドカは、修学旅行の準備は済んでるの?」

 

「私はもう終わっています。ルームメイトが静寐だから、少しでも気が緩めばツッコまれますから」

 

「まぁ、静寐は真面目だからね」

 

 

 それが無くても、せっかくの旅行と言う事でテンションが上がっているマドカだ。抜かりなく準備は終わらせていただろうと美紀は思っていた。

 

「本音は?」

 

「私も終わってるよ~。かんちゃんが手伝ってくれたからね~」

 

「そっか」

 

「そういう美紀はどうなんですか? 終わってるんですか?」

 

「一応はね。後は前日に用意すれば大丈夫かな」

 

「荷物は輸送するから、出発の二日前には終わらせなきゃダメなんだよね?」

 

「手荷物、という意味だよ」

 

 

 細々としたものはバッグなりポケットなりにしまえるので、そういったものはまだ準備していないということを言いたかった美紀は、本音の疑問をあっさりと解決したのだった。

 

「修学旅行は楽しみですが、問題は亡国機業ですね……香澄の予知では、ほぼ百パーセント襲われるとのことですが」

 

「学園が襲われても、刀奈お姉ちゃんや虚さん、サラ先輩といった実力者がいますし、旅行先で襲われれば、一夏さんをはじめとする更識所属の面々に加えて、織斑姉妹にナターシャさんといった実力者がいますからね」

 

「問題は、班行動してる時に襲われると厄介だと思うんですよね。私や本音、美紀だけで兄さまを守り切れるかどうか……」

 

「シノノンがいたら、いっちーは冷静な判断が下せない場合があるもんね~」

 

 

 箒だけでなく、オータムがいても判断力の低下は避けられないだろうと分かっているので、出来るだけ人の多い場所を動き回ろうと三人は心に決めたのだった。

 

「ところで、何時まで湯船に浸かってればいいのかな~? そろそろ逆上せそうなんだけど」

 

「そうですね。そろそろ出ましょうか」

 

「そうだね。購買で牛乳でも買って飲もうか」

 

 

 今部屋に戻ると、まだ簪がいる可能性があるので、美紀は風呂上りの寄り道を提案した。その意図は理解出来なかったが、マドカも本音も寄り道に賛成し、風呂から上がったのだった。




美紀も簪も、一夏大好きですからね

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