侵入者をあっさりと撃退出来たことを、サラは物凄くびっくりした、という感じで訊問が行われている部屋の外からモニターを眺めていた。
「どうかしたの、サラちゃん」
「私が仕掛けたこととはいえ、まさかあそこまで簡単に敵を戦闘不能に出来るとは思ってなかったから……」
「一夏君の提案した新武装だもんね。あれくらい出来て当然だとは思うわよ?」
「普段から更識君の凄さに触れている貴女には分からないかもしれないけど、つい昨日まで専用機を持ってなかった私からすれば、恐るべき威力なのよ」
専用機を持っていたとしても、あの性能には驚いただろうとサラは思っているが、その事を今ここで言ったところで意味は無いと理解しているのか、軽くため息を吐くだけに止めた。
「幻影を見せて戦意を削ぐとは、一夏君も凄い事考えたわよね」
「どんな幻影を見せているのか、私たちには分かりませんけどね」
「ところで、この人たちはどうなるの?」
サラの疑問に、刀奈と虚はそろって視線をサラに向ける。
「な、何ですか?」
「ううん……普通の人はこの後の事は考えないんだな、って思っただけよ」
「普通の人? 一応国家代表になったんだけど」
「違う違う、そういう普通じゃなくて、暗部に関係ない人って意味よ」
普通の人と言われ、ムッとした表情で睨んできたサラに、刀奈は慌てて普通の意味を説明した。
「この人たちは、訊問され、拷問され、持っている情報を全て吐いた後、良くて強制労働ですかね」
「最悪だと、どうなるんですか?」
虚があえて言わなかったことを、サラは勇気を振り絞って尋ねる。恐らくはそうなるであろうという考えはあるが、さすがにそこまではしないだろうという考えもまた、彼女の頭の中にあるのだった。
「得られる情報を全て得た後は使い道も無いので、そのまま処分ですね」
「処分……」
その言葉がどういう意味を持っているのか、理解したくないと思う一方で、サラはその言葉の意味をすぐに理解してしまったのだった。
「誰が処分するのですか?」
「普通なら日本政府の方々にお任せするのですが、狙われたのがIS学園、ひいては更識企業ですからね。私たちの内の誰かが、でしょうね」
「………」
自分が恐ろしい集団の一員になったと言う事を、ようやく理解したサラは、無意識の内に自分の身体を抱きしめたのだった。
「大丈夫よ、サラちゃん。間違ってもサラちゃんにお願いする事は無いから」
「そんなこと言っても、安心は出来ないわよ。貴女たちの内の誰かが、この人たちを処分するかもしれないんでしょ?」
「一番可能性が高いのは、次期当主である一夏君かしらね」
「それか、織斑姉妹か篠ノ之博士が引き取って処分するかもしれませんが」
モニターに映っている捕虜たちは、既に人扱いされていないと言う事を自覚し、サラは早々にこの場から立ち去ることを決めたのだった。
織斑姉妹に後処理をお願いして、一夏は今回のセイレーンの活動結果をデータ化して解析していた。
「少し霧の牢獄が発動するのに時間が掛かっている気がするな……」
「そうかな? 初操縦なんだから、これくらいは誤差の範囲だと思うけど」
「それを加味しても、やはり少し発動までのタイムラグが気になる」
一夏の手伝いとして、そして護衛も含め簪が一緒にデータを眺めているのだが、簪は特に気になった様子は見せなかった。
「一夏は少し完璧を望み過ぎてると思うな」
「設計者であり製作者だから、それは仕方ないと思うんだが」
「それを無視したとしても、一夏は高望みし過ぎだ思う」
「……そうか?」
簪の指摘に首を傾げながら、もう一度データを眺める一夏。何度見ても、一夏の表情は固いものにしかならなかった。
「……やっぱりもう少し改良した方が良いかもしれないな」
「せめてあと二、三回は使ってからの方が良いと思うけど……サラ先輩は修学旅行に来ないわけなんだし、今すぐ必要ってわけじゃないんだから」
「それは…そうかもしれないが……どうも気になってしまうんだよな……」
「根っからの研究者だもんね、一夏は……でも、少しは忘れた方が良いともうよ」
「そうは言われてもな……」
「一夏の立場上、全てを忘れて楽になるって事が許されないのは分かるよ。でも、考え過ぎは良くないと思う」
簪の説得に、一夏は腕を組み視線を下げる。彼が考え事をする時のポーズだと知っている簪は、一夏が答えを導き出すまで口を噤んだ。
「少し、気持ちを落ち着かせるのも必要かもしれないな。分かった、調整はもう二、三回動かした後にしよう」
「それが良いよ。一夏、今週末には修学旅行に出発だけど、ちゃんと準備は済ませたの?」
「いや……まったくもってやってないな」
開発に没頭し、修学旅行が今週末だと言う事も忘れていた一夏は、簪の問いかけに気まずそうに答える。その答えを聞いた簪は、大きくため息を吐いたのだった。
「それじゃあ急いで支度しなきゃ。ほら、行くよ」
「おい、引っ張らなくても自分で歩けるっての」
義理の兄の手を引っ張りながら、簪は頬を赤らめる。義理ではあるが、血縁ではないのでそう言った対象になりうるのだから当然なのだが、普段あまりそう言った感情を表に出さない簪にしては、珍しい反応だと言える。だが幸いな事に、その事にツッコミを入れる人間は、誰一人いなかったのだった。
まだ所属して日が浅いですしね