気を失っていたアメリカ兵たちは、底知れぬ恐怖を感じ取り一斉に目を覚ました。
「ここは……」
「漸くお目覚めか、侵入者共」
高圧的であり、それでいて反抗する気も起きないくらいの威圧感に、侵入者たちは一斉に声のした方へ視線を向けた。
「誰よ、貴女」
リーダー格の一人、歩兵として侵入した女性隊員が声の主に尋ねる。
「わたしを知らんのか? ああ、姿が見えないのか」
自分が経っている場所が逆光であることに気付いた声の主は、少し移動して自分の姿を相手に認めさせる。
「お、織斑千夏……」
「さて、お前たちには三つの選択肢が与えられる」
相手のペースなどお構いなしに、千夏は話を進めていく。もっとも、侵入者として撃退され、捕虜となった彼女たちに千夏の言葉を遮る権利など最初からないのだが。
「一つ目は、わたしたちに訊問され、大人しくアメリカの非を認める事」
自分たちがどこの国家所属であるかを知られている事に、彼女たちは驚きの表情を浮かべる。まさか知られているとは思っていなかった事に千夏は驚いたが、些細な事で時間を無駄にしない為に、話を続ける。
「二つ目は、わたしたちに拷問され、アメリカの非を認める事」
訊問より恐ろしい提案に、侵入者たちは自らの身体を抱きしめる。底冷えする笑みを浮かべる千夏を見て、無意識に震える身体を止める為だと気づき、彼女たちの顔色が蒼褪めた。
「三つめは、訊問されようが拷問されようが自分たちの非を認めず、永遠にこの場所に閉じ込められる事だ」
軍所属の身としては、最後の選択をするのが正解なのだろうが、訊問や拷問を行う相手が最悪なのだ。千夏は先ほどから「わたしたち」と言っている。つまり少なくとも二人以上、そしてすぐに思い浮かぶ人間は、彼女の双子の姉なのだ。
「さあどうする? 言っておくが、第四の選択肢など存在しないからな」
恐らくは考えていたであろう第四の選択肢など、この人外だらけのIS学園において、成功するはずもない。襲撃開始からわずか五分たらずで全滅させられたことを思いだし、彼女たちは脱走計画は破棄するのだった。
「なに、存分に悩むがいい。どちらにしろ貴様らに慈悲は無いのだからな」
わざと足音を立て、千夏はこの場所から去っていく。去り際に実に楽しそうな笑みを浮かべているのを見せつけ、まだ諦めきっていなかった侵入者の心を折り、三つの中から選ばせるように仕向けたのだった。
千夏が侵入者たちを苛めて楽しんでいる頃、一夏は回収したISから既に背後にアメリカがいる事を突き止めていた。
「本命過ぎて面白くないな」
「そもそも束さんからネタバレ喰らってるんですから、本命も何もないでしょ」
「アイツもたまには間違えたりするだろ? だからその可能性を期待していたんだが……」
「何を期待してるんですか……」
解析に立ち会っていた千冬がつまらなそうに呟くと、一夏はその呟きを受けてため息を吐いた。
「銀の福音の件も、ダリル・ケイシーの件もアメリカの自業自得なんですが、責任転嫁したくなる気持ちも分からなくはないですからね……完全にIS開発戦争から脱落し、企業も次々と倒産してるわけですし」
「そのうえで自分たちの非を認めるなど、政府の人間にとっては屈辱的と言う事か」
「コア数をゼロにされ、これ以上開発を続けられなくなったわけですし、別事業で頑張れば良いものを」
「元々IS産業以外でも利益は得ていたんだろ? その会社はどうしたんだ?」
千冬の質問に、一夏はモニターを操作してアメリカの経済状況をスクリーンに表示した。
「アメリカの企業というだけで不信感を持たれ、ほとんどの取引は中止。損失は計り知れない状況ですので、ここから回復するのは難しいでしょうね」
「あれほどデカい顔してたアメリカが苦しむとは、実に愉快だな」
「……何かアメリカに恨みでもあったんですか?」
IS企業に関してはアメリカ政府の自業自得だが、ISに関係ないところまで影響が及んでいる事に、一夏は同情的だった。だから千冬が楽しそうにしているのを見て、彼は顔を顰めたのだった。
「臨海学校の時に、アメリカ政府がデカい顔して私たちに銀の福音を始末させようとしただろ? その前から気に食わなかったが、あの一件でますます気に食わなくなったんだ。何時か潰してやろうとは思っていたのだが、自爆してくれたおかげで自分たちで潰すより愉快な思いが出来た」
「世界の警察を名乗ってましたから、若干上からの物言いになっていたのは否定しませんが、他人の不幸がそこまで楽しいですか?」
「アメリカ人は可哀想とは思うが、アメリカという国に対してはそんな感情は一切ない。責任転嫁に失敗してそのまま滅びれば良いとさえ思うな」
「……とりあえず、煽りを受けたIS企業の中に、使える人材がいるのであれば更識で引き受けます。貴女たちは捕虜がどの選択肢を選ぼうが、きっちりと働いてもらいますからね」
「任せろ。アメリカ軍の奴らは、ドイツで指導している時から気に食わなかったからな」
「……本当に、どんな確執があるんですか」
織斑姉妹とアメリカ軍の間には、間違いなく確執が見て取れた。一夏は若干その事が気がかりだったが、同情の余地はないと判断して千冬たちに訊問を任せる事にしたのだった。
命令されるのが嫌だっただけとか……